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春に香る金木犀  作者: ななくさ
第一章 自然が好きな人
3/9

任務です

―――『入口警備員10、邸宅内30。思う存分やりなさい、翡翠』



「了解」




静かな住宅街に堂々と構える邸宅、それを見て木の上で口の端を上げるフードを被った者が居た。体格は細く、背も高くはない。大人とは言えないそれは少年といえる出で立ちをしていて目には翡翠色の瞳が輝いていた。


少年はフードを深く被り足を蹴って木の上から入口を囲う警備員の元へと飛んでいく。警備員は突如現れた侵入者に驚きしばらく呆然としたあとキッと眉をひそめて大声をあげる。



「な、何者だ貴様!」

「近所のイタズラ小僧でーす。ちょっとお兄さん達俺の相手してくれない?」

「ハァ!?このガキ!殺せ!」



一瞬怯んだ警備員ではあったが舐められたかと思うと一斉に少年に銃を突きつける。少年はそれをもろともせずにへらへらなのかクスクスなのか控えめな笑い声をあげて前を見据えた。


「おぉーこっわ。銃はやめてほしいな」



「なっ!」

「ひっ」



一瞬。まさにその一瞬で10人居た警備員が少年に突きつける銃はさらさらとその原型すらもとどめることのない砂と化した。その崩壊の様子を見た男達は怯み銃を持っていた手をガタガタと震わせている。



「う、そだろ…銃を…」

「銃なんて使わないでよ。拳で勝負しない?お兄さん達」



フードの下で口の両端をあげる少年に警備員は恐怖で顔を引きつらせた。





「何やら外が騒がしいですね」

「そのようだな。まぁ私の所に居る警備員の腕は確かだ、安心したまえ」

「はい、そうさせていただきます」



にっこりと笑う金色の髪を靡かせる男とお腹を太らせた男は入口が見える窓を見てそう言った。真っ赤な絨毯に壁には人が人を殺し合うような残虐な絵画が飾ってありそれを見た金髪の男は眉をひそめる。



「ところでメブルグス卿、教会の使いでもう一つ資料を提出願いたいのですが」

「ん?なんだね?もう提出すべき資料は提出したはずだが?」



メブルグス卿と呼ばれた男は訝しげな顔をすると金色の髪を持つ男はクスリと笑う。



「ご冗談を。覚えていらっしゃらないのですね?2年前に持ち出したアレを」

「2、年前…だと…まさか!貴様っ!」



血走った目でそう言い金髪の男の肩に掴みかかると同時にメブルグス卿の頭から血が突出した。目の前には金色の髪をもつ男が顔に血を浴びて目を細めていた。

その顔からは不機嫌といった表情が伺える。



「あぁ、全く。こんな豚の血を僕に付けるなんてあなたぐらいですよ」



銃を持ったメイド服姿の女を見てそう言った。メイド服を着た女はニヤリと笑う。



「目的は果たしたじゃない。帰るわよ」







パン、という音がして30人の警備員を相手にしていた翡翠はスッと警備員から距離を取る。外は乱闘騒ぎ、中も後々この邸宅の主人が殺されたことに気づき騒ぎは広がるばかりだろう。


ゼイゼイ、と息を乱す警備員に情けないなと思いつつも拳を繰り出す少年は容赦がない。



「この、ガキ…なんて強ぇんだ…」

「つまんないなー。もういいや、目的は果たしたし。じゃあねーお兄さん達」

「あ、おいコラ待てっ!」



少年は強く地面を足で蹴るとふわっと浮いた後に姿を消した。






日も暮れて木々がザワザワと音を立てる。木々の隙間をぬって吹き抜ける風は春先とは思えないほどとても冷たい。


そんな木々の真ん中で一際赤い炎が輝いていた。端的に言えば焚き火をしている人たちがいた。



「さぁて、今日の報酬は~」



ほくほくと札束を調べる目の前のメイド姿の女にため息をついた金色の髪をもつ男。



「アレリア、やめてよはしたない」

「何よーいいじゃない玲。任務が終わったこの瞬間が癒しだわー」

「ったく、任務先で泥棒って…ん?どうしたの翡翠」



いちにーと数えるアレリアと呼ばれる女にもう一度深いため息を吐く男、玲。その玲の袖をくいっと引っ張ったのは警備員と乱闘していたフードを被った少年だ。



「囲まれた」



翡翠がそう言うと草木の音を立てて現れた神父の格好をした人がいた。まるで焚き火をしている中心を囲うように十数人の神父の格好をした男達が翡翠達を囲っている。


その内の一人が前に出ると玲はすかさずアレリアと翡翠を守るように一歩前に出る。




「キャンプファイヤーのお誘いですかね?生憎と定員オーバーでして」



「メブルグス卿を、殺して欲しいと依頼した者です」



なるほど、依頼人か。そう思って警戒を解くと囲っていた神父が一斉に寄ってきた。正確には翡翠の下に。



これは感謝のためによってきたんじゃない、何か目的がある。



そう感じた玲はすぐさま警戒心を沸き上がらせ向かってくる神父を気絶させる。危険を感じた翡翠は木の上に登っていた。それを見て玲は安堵の息をつく。



「どうやらキャンプファイヤーのお誘いではないそうですが。何が目的なんです?」

「そちらにみえるお方はお前達が気安く接して良い方ではない。緑の君、我々とともに来ていただきたい」



緑の君、とは一体誰のことなのか。


その答えは一瞬でわかったが翡翠は木の上、そちらと言われた先にはアレリアがいた。



「なるほど、アレリアをご所望ですか。どうぞどうぞ金に意地汚い女ではありますが」

「っふざけるな!おい!緑の君はどこだ!」



神父は憤慨した様子で周りの神父に怒鳴り散らすと消えた、と口々にいう。正確にはそこの木の上にいるのだが。



「くっ、逃げられたか。おいお前達、行くぞ」



ぞろぞろと森の中へ入ってゆく神父たちを見て玲が一息ついたあとにスタッと翡翠が降りてきた。



「アレリアさん、玲、悪かった」

「いいわよ、多分翡翠の記憶に関することでしょうしね」



にっこりと笑うアレリアを見て微笑む翡翠にアレリアは可愛いといって飛びついた、が先に翡翠がアレリアを避けた。胸が豊かなアレリアに抱きつかれるのは男として本望ではないか、と思うのだが翡翠曰く何か危険な感じがするとのこと。



「まだまだ子どもだねー翡翠は」

「子どもじゃありません。俺、今年で16ですよ?」

「はいはーい25からしてみればまだまだ子どもよ」



そう言われて不貞腐れる翡翠を見てアレリアはにっこりと笑った。






あれからなんやかんやで関所を抜けてもう少しで自国に付きそうだという翡翠と玲、そしてアレリアは1ヶ月に一度行われる国のバザーを目にして飛びついていった。誰か、と言わずともわかるだろう。アレリアだ。


翡翠はちょこちょこと玲のうしろを歩き玲は翡翠の歩幅に合わせて歩いている。身長差が30センチもあると周りから親子、やら兄弟やらと聞こえてくる。



「玲、暑いからフード取りたいんだけど」

「駄目。また教会の連中に狙われるだろう。それにここは教会派の国だから何があるかわからない」

「わかったよ」



翡翠はめんどくさい、と言いながらもフードを深く被った。翡翠の言いたいことはわかる、夜の森であれば寒かったからフードは温かいものの昼間の春先の気温は結構暖かい。


玲は振り返って翡翠を見ると翡翠は大きな翡翠色の目をまん丸にして驚いた顔をする。




「わかった。なら帽子を買いに行こう。通気性の良いもの買ってくるから翡翠はあそこの一目につかない場所で待っていて。危なくなったら叫ぶこと、わかった?」




玲がそういうと翡翠はこくりと頷いてたったと一目につかないところへかけていく。それを見た玲は小走りで帽子屋をさがした。










『あら緑の子、今日は一緒に居るあのイケメンはいないのかしら?』

「ん、帽子探しに行ってるよ。相変わらず面食いだね」

『イケメンは目の癒しよーあ、そうそう神父の服を着た人達は周辺に居るわ。見つかったらヤバいのかしら?』

「でも、前みたいに助けてくれるんでしょう?」

『当たり前よ。私たちは貴方が好きなんだから』



クスリと笑う翡翠の肩に乗っているのは小鳥だった。傍から見れば小鳥を肩に置きながら一人で話しているように見える翡翠だが翡翠が話しているのは小鳥だ。



翡翠は人には言えない秘密があった。



それは自然と対話できること。この大自然はすべて翡翠の味方といっても等しいほど翡翠は自然から愛されていた。


前に何度か教会の連中や軍服を着た人達から連れられそうになっても鳥や猫、犬や木等様々な自然たちが味方をしてくれた。


翡翠はそれを不思議なこともあるものだな、と最初思っていたのだが今話している小鳥にそれを聞いて驚いた。だが皆、何故翡翠がそんな能力を持っているのかと聞くと口を閉ざす。



昨日アレリアが言っていた翡翠の記憶というものだとは思うのだが。



『…緑の子、今楽しい?』

「え、突然何?楽しいよ?」

『いえ、いいの。あなたが楽しいのなら私たちはそれでいいの』



ふふ、と控えめに笑う小鳥に疑問を浮かべる翡翠。




『さて、そろそろ彼が帰ってくるそうね』

「あ、お仲間さんが言ってた?」

『えぇ、じゃあ私はそろそろ行くわ。危なくなったらすぐに駆けつけるからね』



小鳥はそう言ってバサバサと翼を羽ばたかせて翡翠の肩を去っていった。










「はい、翡翠。これで多分なんとかなるよ」

「これって…」



玲が持ってきたのは長いターバンだった。


帽子屋が見当たらなくてさーと笑う玲にありがとう、といってターバンを巻き始める翡翠に玲はにっこりとどういたしましてといった。







後に買い物袋を下げたアレリアに怒った玲は買い物禁止令をアレリアにだしてアレリアは涙したそうな。



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