004 未だ名付けられぬ者、動く
おぅけぇ、わかった。
なにがどうなってるのかさっぱりわからないことがわかった。
どうしよう。なにしよう。
観察でもしてればいいのか。オッサン共を見つめてどうしろと。
『……静かになった、な?』
『疲れたのだろう。さあ、我々も調整に戻るぞ』
でもそれ以外にすることの無かったおれは、オッサン共が散っていくシーンを結局眺めていた。
散って行ったオッサン共は、それぞれの持ち物らしい、水晶だろう透明の球体の前で止まった。
その複数の球体からはそれぞれ沢山のコードが床に天井にどこへとも無く伸びている。つーか絡まりまくってよくわからん。
『今の所、異常な反応はありません』
『当然だ。この私が居るからな!』
『……』
その無数のコードの一部が、おれの近く、いやおれの立っている……もといおれの浮いている(物理的な意味で)台座に伸びているのを見つけた。
『そういえばー、こんな噂聞いたんですけどー』
『いきなりなんだ。それも仕事中に』
『昔ー、作った王家付きが美しすぎたからって理由でクビになった宮廷魔術師がいる、てー話なんですけどー、ほんとですかー?』
『後にしろ……』
わいわいと楽しそうに喋ったり球体をいじるオッサン共……いや、よく見れば女も居る。胸だけ異常に発達した男でなければ女のはずだ。かわいい。
『目を開けたのだからそろそろ×××××の定期注入の頻度を下げてもいいだろう』
『え? まだ注入れるんですか?』
『え? もう下げるんですか?』
『お前ら馬鹿かっ! 複製とはいえマニュアル渡したし説明もしただろうっ!?』
『こんなやつらと一緒に仕事なんてできるか! 私は部屋に戻るぞっ!』
『……(期待の視線)』
『いや、冗談だぞ?』
『がっくり』
『口で言うな』
『……とりあえず、次の×××××の注入は1分後、それ以降は半日毎。ああ、後×××××の注入量を×××××だけ増やすぞ。×××××と×××××はもう必要ないから外して片付けるぞ』
『はーい』
仲いいなこいつら。こっちあんまり見ないでくれるならもっとほめてやる。心の中でなっ!
いろいろ話しているうちに話がまとまったらしい。球体をいじり、コードが動き痛ぁ!?
何か背中に刺さった!? もう痛みは治まっているけどどういうことか気になる。
腕の引っかかりを無視して動きまくる。むしろそうしないと背中見えない。 そうしてさらに腹や背中に痛みが走った。 さっきからなんなのさ。 つーかマジ痛い。
『おや、急に暴れだした?』
『痛かったか?』
なんとか背中を見ると、そこには沢山のパイプやコードが刺さってました。
何事。
『止まった』
『背中見てる?』
『さっきの痛みの原因でも探してたのか?』
謎の林立に思考停止していると、急に息苦しくなってきた。
え? え? さっきまでとは違い、本気で溺れ死にそう!
『また暴れだした』
『今度は何だ?』
『げっ!? 酸素用のパイプが外れてます!』
『何い!?』
『もう一度刺し……いや、無理か。しょうがない、排水しろ』
『え? でも』
『やれ! あと、クロエはタオルとハシゴもってポットの上に、リスティは専属医療士に連絡』
『ハシゴは元々ポットの上にあります!』『はい!』
『ならタオルだけ持って行け!』
『はい!』
ばたばたと暴れていると、急に水位が下がってきた。無理に顔を出して呼吸しようとするけど水が出てくるばかり。
遠くなる意識を必死で繋ぎ止めていると、いつの間にか横になってて、そばにさっきのかわいい女が居た。いやむしろ女の子と呼ぶべきだっげぶっ
『えいっ』
「ごっ、げふっ、あ、あうっ、あ、はあ、あぁぁ」
女の子に腹を殴られたかと思うと口から大量の水が出て、呼吸できるようになった。
喘いでいると、ぶちぶちと背中から激痛がして(コードを抜いているのだろうか)、タオルをかけられた。
もう少し、優しくして下さい……。
産声。