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お姫様のいる日々  作者: 月狩朔夜
奏でられないプレリュード
12/13

閑話 クロエ、もぐもぐする

「やあクロエちゃん、ここ空いてるー?」

「あいてるよー」


 食堂でお昼の休憩兼食事をしていると、幼馴染が話しかけてきた。


 トリア・フェイルセン、伯爵夫人にして魔法使い見習い。

 セミロングの毛先だけ緑に染めた眩い金色の髪に、金の瞳。所々ひらひらのついた黒いスーツ。背、……と胸はわたしより上。ちょっと悔しい。

 魔術師としては実戦・実践共にわたしの方が上だが、そもそもこの女は日がな一日書類とにらめっこするのが仕事の文官なので関係ない。妙に悔しい。

 小さい頃は「いっしょに『きし』になろうね」とか言ってたのに文官になりやがった。まあわたしはわたしで宮廷魔術師になったのだからお互い様ではあるが。

 今のトリアの仕事は確か、新しい『王家付き』予定だったもの――もう『王家付き』確定だが――の教育。即ち、わたしの娘の先生。


「いやー疲れたー」

「おつかれー? セプちゃんは無事ー?」

「なんだその聞き方は。まるであたしがいじめているようじゃないか。……もう『王家付き』の名を知ってるんだ?」

「ふっふーん、それを宮廷魔術師に聞きますか?」

「ああ、6回失敗したのあんたらだったな」

「……そしてこの皮肉である」

「いや皮肉ですら無いよ」

「しょぼーん」


 わかってる。わかってるけどさあ。このこといつまであとひくのかなあ。

 そもそも『王家付き』の名前の付け方のせいでもあるんだよねぇ。ほんと最初にこういうことしたの誰よ。




 もぐもぐ。おにくうまー。




「そういえばさあ」

「もぐ?」

「口に物入れたまま喋んな。……なんでこっちの食堂に来たんだ?」


 この城には食堂がいくつかある。騎士用、宮廷魔術師用、メイド用、官用。主だったものはこの位。但し、基本的に、というもので騎士は此処の食堂以外使用禁止などといった制限は無い。無いが、肉が多いだとか野菜が多いだとか食堂ごとの違いがある。だから護衛だか訓練だかで疲れる騎士はご飯の量の多い騎士用の食堂を使うし、あんまり部屋から動きたくない宮廷魔術師は個々人で近くにある食堂に行く。王様やら宰相やらは部屋に持ってきてもらえることもあるとか。うらやましい。

 そしてわたしがわざわざ官用の食堂に来た訳は、


「んぐ、そうそう、これこれ。頼まれてたのできたよ-」

「おお、ありがとう」


 トリアの個人的な依頼に応える為である。

 わたしが懐から取り出したのは、朱色のフレームの片眼鏡(右目用)。わたしが作った魔導具であり、効果は“装着中、この片眼鏡を透して目を見られた時、瞳の色を設定した別の色と認識する”。なんでわざわざ片方だけなんだろうか。ちなみに設定した色は緑。こだわりすぎ。

 それを直ぐに装備するトリア。当然、わたしから見たトリアの右目は金色から緑に変わる。


「似合う?」

「うーん、さすがわたしといわざるをえない」

「その自信はどこから来るのよ」

「ごはん!」


 サラダうまー。

 ……どうしてこめかみを指で揉むのさ。


「食事とファッションセンスがどう繋がるのよ」

「わかんない」

「まったく、色気より食い気のおバカが。そんなんだから婚約者獲られるのよ」

「むー、人を食いしん坊扱いして―。それに娘造れるんだから結婚しなくても」

「もしかしてそれはセプテットの事か?」

「もちろん!」

「人造人間の寿命はおおよそ5年って(わか)ってて言ってる?」

「寿命とか伸ばせばいいじゃない」

「どうやってよ」

「うぅーん、あの試薬を」

「解説されても分からないからいい。ほんとどうして、セプテット造ったのがお前とか信じられない」

「ひっどーい。わたしの愛と試薬と魔術の結晶なのにー」

「完成まで7か月かかったよな」

「うぐっ」

「最初の時点で残り1か月強、正直この期間でセプテットがまともに話せるようになるとは思わなかった」

「え? 1か月なら、えーと、単語を理解するとかその位って聞いたけど。っていうかお風呂で普通にお話したし」

「運が絡むとは言え3回までに完成してたらそのペースでも大丈夫だったんだがな。今回は仕方ないからムリヤリ詰め込んだ。ちょっと怪しいきらいもあるが意思疎通に問題ない水準(レベル)にしたぞ」

「ふえー。魔術理論について語り合えると思ったのにー」

「いや、魔術魔法については時間もなかったし教えてない」

「え、どうすんの? 『赤い石』の魔法無いとかただの壁じゃん」

「お前はどうしてそう戦闘が基準なんだ。……まあ間違ってないけど。そっちは姫様がある程度成長したら姫様と一緒に教える予定だ。もう『王家付き』として働き始めている以上姫様から離せないし、赤ん坊の直ぐ傍で講義するのもな」

「あー、でもわたしの娘なら片手間ででも理解するでしょ?」

「だからその自信は、……いやいい。しかし、案外するかもな。クロエ関係無く」

「なんでよ」


 ここでトリアは、周りを見た後声を一段ひそめた。何か面白い噂話でもあるの?

 スープうまー。


「……あの人造人間、教えてもいないのにスプーンを直ぐに口から離したそうだな」

「え? うん」

「人造人間も最初は人間と同じでなんでも飲み込もうとするって聞いたけど?」

「ん?」

「特に『赤い石』入りは味覚が鈍いうえに毒も薬も効かない分口に入る物は何でも消化できる」

「……『王家付き』が毒見できないって話?」

「違う。セプテットは何故スプーンを離せたかって話だ」

「なんだそんなこと」

「? 何か知ってるのか?」

「もちろん。セプちゃんはわたしの娘だから!」

「……お前に聞いた私がバカだった」

「えー」


 トリアが声のトーンを戻しつつ立ち上がる。


「そろそろ時間だわ。じゃあまた。これありがとう」

「じゃあ。どういたしまして」


 話も終わったし、食事も終わったし、休憩時間も終わりそうだし、戻りますか。

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