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君の胸に宿るオモイ


 史上最年少の神守の誕生は、瞬く間に全世界に伝わった。そして、世界中に奏の名前は知れ渡たる。

 世界中が注目する中、奏の着任式が行なわれていた。


「汝を新たなる守護者として、ここに認める」


 厳かな空気の中、執り行われているが、実際は色々な場所で混乱が起こっていた。

 あまりに若すぎる神守の誕生で、竜虎族の信頼性が疑われていたのだ。王族の一部が、もう一度試験を行なう事を求め、着任式をする予定だった会場に乗り込んできたりもした。

 しかし、あの会場で、しっかりと奏の戦いぶりを見ていた王と王妃が、世界へ向けて試験が公正であった事を説明し、奏を新しい神守と認めると発表した。それで、なんとか今に至れたのだ。

 世界を巻き込む、大騒動を起こした張本人は、事態に戸惑っていたが、その師匠は実に楽しそうだったという。


*****


「それでは、あなた方に早速任務に就いて頂きたい」


 新しくなった部隊は、試験終了後、すぐに城の入り口に集めらた。

 彼らはこれから、任務期間中の5年間は家に戻る事を許されなくなる。

 後から必要な荷物は、家から届けてもらわねばならない。

 そんな訳で、試験に受かった者は家族との、しばしの別れを惜しみ、その後、彼らは大臣からだいたいの説明を受けた。

 後は各自、振り分けられた自分の配置に就き、そこでそれぞれの責任者から、詳しい話を聞く。


「それでは……神守殿、ご挨拶を……」


 大臣に招かれ、奏は壇上に立った。息が詰まりそうな空気に、心の中で苦笑いする。

 けれど目の前にいる彼らは、誇り高き戦士達だ。正々堂々戦っていた奏に対し、文句を言うつもりはないだろう。

 奏は深呼吸をすると、すっ、と表情を引き締める。それは年相応な少年の表情ではなく、一人の大人のものだった。


「5年間という長い期間を、ともに頑張る事になりました、皆さまのご活躍を期待し、また、私も全力を尽くす事を、ここに誓います。色々いたらない所もあると思いますが、必ず神守の務めを果たしたいと思います。……皆様、なにとぞ、ご協力をお願いいたします」


 奏のお辞儀とともに、その場に拍手が起こる。

 頑張れよ、という声が、かかった。それが嬉しくて、奏の表情は元の10歳に戻る。無邪気な笑顔は、その場にいた者達の心を優しい気持ちにしていた。

壇上を下りた奏に、大臣が寄って来て、


「主力部隊の挨拶が済みましたので、次は1000名程いる補佐部隊への挨拶へ向かいましょう」


 と、満面の笑みで告げてきた。


「……大臣様……一つ聞いてよろしいですか?」

「はい、何でしょう?」


 全く笑顔を崩さない大臣。


「何故俺は抱き締められているんでしょう?」


 奏は前が見えなくなるほど、大臣にぎゅうっと抱き締められていた。


「あまりに可愛らしいかったもので」


(理由になってないような…?)


 大臣にえらく気に入られた奏は、その後も、事あるごとに抱き締められる事になった。


*****


「それでは奏殿、これから王女様にご挨拶に参ります。くれぐれも失礼のないように、これからずっとお側にお使えするのですから、最初が肝心ですよ。これで嫌われたら終わりですわ」


 さらりと恐いことを言う大臣。


「気をつけます」


 緊張した様子の奏を見て、大臣は堪え切れなくなったのか、笑いだして、また奏を抱き締める。奏は、本日何度目になるか分からない抱擁に、もう抵抗する気力はなくなっていた。


「そんなに真に受けないで下さい。王女はお優しい方です。まぁ、少々我儘ですが、あなたが自然なまま接すれば、王女はきっとあなたの事を気に入って下さいますよ。どうか……あの方をしっかり守ってあげて下さい」


 大臣の優しい気持ちが奏にも伝わった。王女はとても大切に思われているのだ。

 ふと、大臣は奏を抱き締める手を緩め、奏に目線を合わせた。

 よく見ると、彼女は18歳前後の少女だった。その瞳は、暗がりの廊下でも、輝くような翡翠の光を放ち、まるで人を吸い込むような不思議な色をしている。


「私はあなたを信じています」


 それはそれは優しく、温かな笑顔であった。

 彼女は言いおわると、またしばらく廊下を歩き続け、ある一つの部屋の前まで来て、ドアをノックした。ここが王女の部屋であるらしい。奏の緊張が一気に高まった。


「……どうぞ」


 一拍の間をおいて、澄んだ高い声が聞こえる。


「失礼いたします、王女様。新しい神守をお連れいたしました」


 大臣は奏に中に入るよう促す。それに従って足を踏み入れると、ふわりと甘い香りが鼻をかすめた。

 緊張のせいか、奏は王女の顔が見れない。

 とにかく王女の足元が見える位置にまで進み、その場所に跪く。


「初めまして、王女様。新しくお使えさせて頂く、奏と申します」


 声が震えそうになるのを必死で押さえ、深々と頭を下げる。すると、コツ、コツと歩いてくる音がして、頭を下げた奏の視界に、王女の足が見えた。


「あなたの事は、お父様やお母様から既に聞いているわ。……どうか、顔を上げてくれないかしら。ちゃんと、目と目を合わせた挨拶がしたいの」


 その言葉に、奏は慌てて顔をあげる。

 しかし、思ったより近くにあった王女の顔に驚き、後方に仰け反ってしまった。

 そしてそれと同時に奏の目は、彼女の色の違う双方の、金色の瞳と銀色の瞳に釘づけになる。それは何とも言えない、神秘的な美しさだった。


 まるで、太陽と月……。


 そして、彼女はそんな瞳を持つのに相応しい、人形のように整った顔立ちをしている。微笑んだ表情は、何とも可愛らしかった。

 その表情のままで、奏の顔を覗き込んでくるので、思わず奏は、顔を引く。それに気付いたのか、気付かなかったのか、彼女の反応ではわからなかった。


「あなた綺麗な紅色の瞳をしてるのね」

「……は?」


 いきなりの展開に、すぐには頭がついていかなかったが、何となく誉められたのだとわかった。


「初めまして、私の名前は、輝夜奈(キヨナ)=チェルノーゼム=アーリスト、よろしくね、奏。私、自分と同い年の人に会うの、初めてなの。仲良くしてね。」


 王女は自分もしゃがみこんで、思いっきり嬉しそうな笑顔を浮かべた。その笑顔に、奏の胸はトクンッと高鳴る。


「まぁ王女様ったら、奏殿は遊び相手ではございませんよ。」

「あら、いいじゃない。私は家来じゃなくて、友達の方が欲しいわ。」


そんな二人の会話も奏には聞こえていなかった。


(何なんだ、今の気持ちは……)


奏の胸の、どこか奥深くに宿った想い、それは……。




まだ、名も知れぬ優しき想い。



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