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君の守る世界 無国編―12―

壊れてしまった小屋の中から外まで響く声がする。

「それはこっち! あぁそれはまだ使えるからあっち!」

その場を仕切る、エリサの声だ。

それに従い、輝夜奈はてきぱきと動いていく。

下ろしていた髪を一つに纏め、動きやすい調査隊の服装に身を包んでいる。

「あー! そんな重いものは私が持ちますから!」

そもそも小屋の掃除なんて、王女がするような仕事ではない。

こんな場面を執事に見られたら殺される、とヤズラは内心ビクビクしていた。

((あいつ)の苦労が少しわかったような気がする)

はぁ、とため息をつき、出来るだけ輝夜奈に仕事をさせないように動き回る。

「働く男は格好ええなぁ〜」

必死になっている所に、気が抜けるような声がかかった。

「ったく! 人のこと見てないで、さっさと動けよ! お前の店だろ!」

脱力しそうになったのを何とか堪え、荷物を運びながら睨み付ける。

「はぁーい」

それにも関わらず、エリサは嬉しそうに顔を綻ばせて作業を再開する。

「……変な奴」

エリサの後ろ姿を少し見つめてから、ヤズラも再び動き始める。

小屋の中で、壊されたものを使えるものと使えないものに分けて、使えないものを外に運びだす。

次に小屋の中を掃除して、廃材などから家具を作っていった。

大工仕事は手慣れているのか、エリサの手から次々と日用品が産まれていく。

「エリサって器用だね」

それを傍らで観察していた輝夜奈から、感嘆の声があがった。

「へへん! これもまた生きる知恵や」

得意げに笑った後、ふと、何かを思いついたような顔をした。

急に黙ったと思ったら、余った廃材を使って何かを作り始める。

何を作るんだろうと見ていると、ものの数分で出来たらしいそれをエリサが手渡してきた。

「今日手伝ってくれたお礼。まぁちょい不恰好やけど小物でも入れて」

小物入れに丁度よい大きさの箱は、すっぽりと輝夜奈の両手に納まった。

「うわぁ……ありがとう!」

無邪気に喜んでいると、最初は穏やかに笑ってくれていたエリサの表情が、少し寂しそうな色に変わっていった。

「エリサ?」

輝夜奈が呼び掛けると、ハッと我に返ったような表情をして慌て始めた。

「あっ、あーー……そ、そういや元気になったん? あんたの友達」

この場を誤魔化そうとしているエリサに少々不機嫌になるものの、昨日の経験から大人しく質問に答える事にした。

「……一度目が覚めたきりまだ……あっ、でもエリサから貰った薬草のおかげで一番の危機は脱したみたいだから、後は特効薬が到着するのを待つだけなの」

心配である事には変わりないが、今すぐどうのという状況ではない事が、唯一の救いだった。

「そうか、落ち着いたんやったらよかった。……元気になったら一回一緒に遊びに来てや、なんかちょっと興味あるし」

「興味?」

楽しそうに提案してくるエリサに小首を傾げつつ、尋ねた。

「輝夜奈の友人ってどんなんなんやろ〜って」

本当に興味があるらしく、エリサの目は奏の事を話せと言っていた。

少し悩んでから口を開く。

「奏は……強い人だよ」

なんと形容していいか分からなかったので、たった一言でしか言えなかった。

「奏って言うんや、なんかいい名前やなぁ……響きが爽やか。それにしても強い人って何なん? 喧嘩が?」

興味深々の眼差しを向けてくる。

また少し悩んでから、言葉を探すように話しだす。

「多分……全部。喧嘩も強いだろうし、何より……精神的に、強い」

「それは確かに。あの人は芯がしっかりしているし、強い人です」

いつのまにかヤズラも会話の輪に入っていて、輝夜奈の言葉に同意していた。

「ヤズラさんも知ってるんや、って当たり前か…………ところでその奏さんって女なん?」

急に真面目な顔をして真剣に尋ねてくるので、何だろうと思い視線を彷徨わせていて、気が付いた。

ヤズラだ。

ヤズラが奏の事を話している表情は優しくて、一目で奏が彼にとって重要な人物である事が分かる。

そういう事に敏感なエリサが気付かないはずがなかった。

要するに嫉妬だ。

「奏は男の子だよ、私と同い年の」

「あっ、そうなんや」

輝夜奈の言葉であからさまにほっとしている。

ふざけているように思っていたが、意外と本気で想いを寄せているらしい。

「じゃぁ輝夜奈、そろそろ帰り。奏君をちゃんと看病したらな」

元気を取り戻したエリサは、急に輝夜奈を立たせ、帰りを促す。

「えっ、でもまだ店の修理が」

背中を押してくるエリサに抗議の目を向ける。

「これくらいなら後はうち一人で大丈夫やって。だいぶ手伝ってもろたし。それに、奏君はあんたにとって大事な友達なんやろ? なら今傍にいたらなあかんやん」

扉の外まで輝夜奈を押し出すと、手をそっと離す。

振り向いた輝夜奈の額に人差し指を突き立てた。

「見てるんが辛いのは分かるけど、逃げたらあかん。大切な人なんやったらなおさらや」

エリサの指摘にドキリとして身体が固まる。

「気付いてないとでも思ったか?」

エリサはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「だって」

思わず困ったような、辛いのを耐えているような顔になる。

「だってじゃないやろ。奏君が治るまでここ来るん禁止! ……治ったら一緒に遊びにおいで。それまでには店直しとくから、そしたら4人でお茶しよな」

有無を言わさぬ迫力があった。

「……って、俺も入ってるのかよ!」

エリサの言葉の中の含みに気付いたヤズラが慌てて突っ込む。

本当に抜かりがない。

「当たり前やん、ヤズラさんもお茶しよーな、一人だけのけもんは可哀相やろ?」

そう言って、昨日と変わらない自由奔放な雰囲気を持つ明るい笑顔を浮かべ、輝夜奈たちを見送った。

渋々エリサの言葉に従い、キャンプ地へと戻る。

もう何度も通った道なので、すっかり道順は覚えてしまった。

(それにしても……)

先程エリサに言われた事はかなりグサリと輝夜奈の心に来た。

一向に目を覚まさない奏の姿を近くで見ていると、泣きそうになってしまって知らず知らず避けていたかもしれない。

これは確かに“逃げ”だ。

いつもいつも輝夜奈を守ってくれていた奏に対しての、一番の裏切りになるだろう。

エリサの言うとおり、きちんと見守らなくてはならない。

「今度エリサに会ったら、ちゃんと御礼を言わなきゃ」

そう心に決めると、早く奏の看病に戻ろうと歩く速度を上げていった。

上り坂のある山道も勢い良く駆け上がる。

落ち葉が足元を舞い、心地よい音を奏でて地面に再び落ちていく。

上りきった道の上から、輝夜奈達がテントを張っている場所が見えた。

「よし、急ごう! ヤズラ中尉」

「はい」

それっきり無言になった二人はずんずんと道を進んでいく。

もうすぐ着くだろうという時、ヤズラは前方に見慣れた馬が木に括り付けられているのを見つけた。

「王女様……先生が帰って来られたようです!」

逸る気持ちを抑えきれないのか、輝夜奈の方を勢い良く振り向いた。

「え!!?」

咄嗟の事で理解できずに、目を瞬かせる。

「お医者様が帰って来たんですよ! これで奏様が助かります!!」

その言葉に一気に心が明るくなるのを感じた。

その心のまま、何も言わずに走り出す。

今度こそ、今度こそ、本当に奏は助かるのだ。

やっと、やっと、声が聞けるのだ。

「奏!」

嬉しさのあまり、息が切れるのも構わず走りぬけた。

途中、執事が行儀が悪いと叫んで輝夜奈に止まるよう言っていたが、それさえも構わずに走った。

「先生!!!」

奏がいるテントへと勢い良く駆け込んだ。

「うわっ! 王女様!?」

飛びつくような勢いの輝夜奈に驚きつつも、医師は薬を取りに行った時と変わらない笑顔で出迎えてくれた。

「おまたせしました。もう大丈夫ですよ」

その力強い一言に、とうとう我慢の糸が切れる。

「よかった……よかった……」

ポロポロと零れていく涙を医師が優しく掬ってくれた。

ずっと心に引っかかっていたものが、スゥと無くなって、安心感に包まれる。

奏へと視線を戻すと、まだ眠ってはいるが、普段の顔色に戻っていた。

「後は目を覚ますのを待つだけです」

今回も引き続きBGMを紹介していきます!今回はちょっとタイトルうろ覚えですが、元ちとせの『春のかたみ』です。何故だか静かな曲が好きな藤原。小説の季節無視です!はい!(小説はこれから冬になる)


ではまた次話でお会いできる事を願って。

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