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君の守る世界 蓮白火国編―5―

そこは逆さまの城の中のある一室で、外見からは想像も出来ないような雰囲気だった。

そこには豪華な調度品が置かれ、何とも品の良い空間を作り出している。

「申し訳ございませんでした!」

しかし、今の奏はそんな空間の素晴らしさにまで気が回らない。

ベットの上で不貞腐れた様子のタイナに必死で謝っているからだ。

奏が投げ飛ばしてしまった後、彼が完全に気を失ったので、慌てて彼の寝室まで運んだはいいが、目を覚まして以来、タイナの機嫌はずっとこんな調子だ。

「…神守様は手を抜かれておりましたね、私が弱いと思っていらしたんでしょう?」

やっと口を開いたと思ったら、今度は憎まれ口を叩いてくる。

「いえ、そんな事はございません!ただ、私は毎日鍛練を重ねている身でございますので、力を下手に使うと国王様に怪我をさせかねないと懸念しただけでございます。」

しかし、そんなタイナに腹を立てている余裕などない奏は、ただひたすら謝罪を繰り返す。

それでも気がおさまらないのか、タイナの機嫌は一向に良くならない。

そして、奏が最も恐れていた事態が発生した。

「要するに結局は私が弱いとおっしゃっているんでしょう?…私は、小さいながらも一国の王です。そんな風に言われては、こちらのプライドが傷付くではありませんかっ!もうそちらとは友好関係を結ぶつもりはございませんっ!」

また人の話をちゃんと聞いていないタイナは、自分の気持ちだけで、そんな重大な事を決めてしまった。さすがに、これには奏も顔から血の気が引いていく。

「それだけはお許しください!今回の件は私に全て責任があるのです。王や王妃、姫様には何の非もありません!ですから、処罰ならば私のみにお与え下さい!」

奏はそれだけはさせる訳にはいかないと思い、タイナに必死で懇願する。

「神守様が責任を果たして下さるのですか?」

その奏の様子を見て、タイナが何やら嫌な笑顔を浮かべ、奏はぞっとする。

その時、突然、扉が開いた。

「お待ちください!」

奏が驚いて振り向くと、そこには輝夜奈がいた。

今までこの寝室には、奏以外入ることを止められていたので、輝夜奈は廊下で待っていたらしい。

しかし、二人の話の展開に、さすがに我慢が出来なくなったのか、タイナの臣下の者たちの制止を振り切り、部屋に入ってきたようだ。

「奏だけに罰をお与えにならないでください。この件に関しては、私が国王様にちゃんとお伝えせねばならないことをきちんとお伝えできなかった事に非がございます。」

前に進み出る輝夜奈を奏が止めに入り、それ以上は言ってはならないと、首を横に振る。

前に立ちふさがった奏に、輝夜奈は小さな声で言った。

「これはあなただけで背負い込む話じゃないわ。…だから一人で背負い込もうとしないで…。」

その言葉に、奏は驚きを隠せなかった。

どうして皆、奏にそう言うのだろうか。“一人で背負い込むな”と。

皆が、無償で思いやってくれているのだと感じ、奏は幸せだと思った。

何かを輝夜奈に言いたかったが、彼女の金色と銀色に輝く瞳を見ていると、何故だか何も言えなくなる。

そんな奏に輝夜奈が、なおも続ける。

「あなたという柱を失ったら、私だけでなく他の人だって困るもの。神守はあなたしかいないのよ…?」

「!!」

輝夜奈は、にこっと奏に笑顔を向けた後、タイナのいる方に向き直り、今度は彼に話し始めた。

「私は幼い頃から神となる者として教育されてきました。」

それは静かな声で告げられていく。ゆっくりした口調は、何かを覚悟しているような印象を受けた。

「その時から、この世への未練を持つ事だけは避けねばならないと言われているので、誰とも結婚は出来ないのです。その事をもっと早く国王様にお話するべきでしたのに出来ませんでした。本当に申し訳ありません。」

目を伏せて、王女としての最大限の謝罪を表す。

「けれど…国王様のご好意、本当に嬉しかったです。お気持ちにはお応え出来ませんが、よい思い出として一生の宝物になりました。本当にありがとうございます。」

そんな事を笑顔で言う輝夜奈に、さすがにタイナも文句を言えないようだ。

しかし、タイナはまだ納得し切れていないのか、顔をしかめたままだ。

「…なぜ、それをもっと早くに言って下さらなかった。」

(だから、それはさっきからあんたが全く人の話を聞いていないから、言いたくても言えなかったんだよっ!)

タイナの言葉に怒りを感じられる余裕の出来た奏は、心の中だけで喚く。

ここでもしも声に出していれば、輝夜奈の言葉も水の泡になるだろうから。

奏とは違い、輝夜奈は怒りを感じている様子も無く、また目を伏せ謝罪する。

「申し訳ございません。」

輝夜奈の言葉に合わせ、奏も頭を下げる。

「もし、そういう事情があったのだとしても、神守様の私に対する無礼は許す事ができませんね…。」

そう言われると、奏は言い返す事が出来ない。

しかし、それ以上タイナに何かを言われる事は無く、しばらく沈黙が続き、嫌な空気が流れているのを奏は感じ取った。

「…神守様、顔を上げて…王女様も、神守様もこちらを向いてください。」

2人はゆっくりと、おそるおそるタイナの方を見る。

すると彼はにこやかな笑顔で、何やら大きな看板を持っていた。それには何か書いてある。

輝夜奈と奏は声を揃えてそれを読んだ。

「…超ドッキリ!!でした☆ ばーい大臣っ!………えぇ!!?」

驚く間も2人はぴったりである。

しかし読んだはいいが、2人はまだ状況がつかめていない。

顔は困惑しているのがよく分かるような表情だ。

そんな2人に更なる衝撃が走る。

「お久し振りでございます、王女様、奏殿。いかがでしたか?私のドッキリ計画は。」

突然扉が開き、見慣れた人物が入ってきた。その人は翡翠の目に蘇芳の美しい長い髪を揺らし、満面の笑みを浮かべている。

「大臣様!?」

「大臣っ!!?」

驚いて立ち上がると、2人から咲緒の後ろに立っている人物も見えた。

「…高畑!!」

「それに…香椎国国王様!!?」

3人の登場により、更に輝夜奈と奏の混乱は増すばかりであった。

*****

結局、それから色々な説明を受けて、2人はやっと事の次第が分かった。

これは咲緒が、父王を亡くして落ち込んでいるメイゼンのために考えたドッキリで、そのターゲットが奏と輝夜奈だったらしい。

もともと、蓮白火国など存在せず、ここは香椎国の領地内に在る“逆さまの美”と名づけられた芸術品の数々が置かれた場所であるのだそうだ。

(どこまで金持ちなんだ香椎国…。)

奏は頭を抱える。

たとえ、どれだけおかしな国であっても、ここまで手が込んだセットがあれば、誰だって微塵も疑わないはずだ。

しかし、今考えるとおかしいと思うことが溢れて来る。

(城の警備が異様に少なかったわけだ…。)

考え込む奏の目の前に咲緒が何かを差し出した。

「奏殿に渡してありました地図は偽物ですわ。こちらが本物の地図です。」

咲緒に渡されていた地図と、今手渡された地図を見比べる。確かに蓮白火国のある場所は、本物の地図では香椎国の領地内にあった。

「なかなか私も迫真の演技でございましたでしょう?」

咲緒の計画の片棒を担いだ執事が誇らしげに笑っている。

どうりで執事が偽国王のわけのわからない話の理解が早かった訳だ。

ドッキリの内容を知っているのだから、分かって当然だったのだろう。

「すみません、王女様、神守様。大臣様が私のためにと…悪いとは思ったのですが…でも、本当に楽しませて頂きました。」

共犯者であるメイゼンは目じりに涙を溜めるほど笑っている。

そんな風に喜ばれても奏たちは複雑である。

「私達はそれぞれ色々な役に変装して、ずっと2人の様子を窺わせていただいていたんですよ。全く気付かれていないみたいでしたが。」

3人は和気藹々といった感じで計画の成功を喜んでいた。

「ひどいじゃない!本気で困っていたんだからね!」

輝夜奈が3人に怒ると、執事が輝夜奈に冷たく言い放つ。

「心配をかけた罰にもなるかと思いまして。」

それを言われて、輝夜奈はぐっとなる。

「まっ、これで香椎国との友好を保てるならば安いものじゃないですか。」

咲緒の何ともいえない声の響きに、奏と輝夜奈は、ヘナヘナと床に座り込む。

もう、怒る気力さえ湧かない。

ただ、彼らの手のひらの上で踊らされているのだと分かり、情けなくなった。

「どこまでも遊ばれている気がする…。」

奏にとって、今までの旅の中で一番疲れる1日となった。


これで蓮白火国編は終わりです。今回の国は今までと雰囲気を替えてみたのですが、いかがでしたでしょうか?次回から、舞台は本当に別の場所へと移動します。また、新たに気を引き締めていきますので、今後ともよろしくお願いします。

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