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君の守る世界 蓮白火国編―4―

変な勝負を持ちかけられた奏には拒否権が与えられる訳もなく、何だか訳の分からないまま、その勝負を行うという部屋に案内されていた。

思ったよりも広いその部屋は、床に大きなマットが敷かれ、何故か壁はクッションのようなもので出来ていて、高い天井は吹き抜けで、暖かな日差しが入り込んできている。

「奏…どうするの?」

輝夜奈が不安そうな表情で奏を伺う。

「…どうしましょうか。一国の国王様相手に本気で戦う訳にもいきませんし。」

かといって、負けてしまえば縁談の話は勝手に進むだろう。今までもそうであったのだから、タイナなら輝夜奈の意見も聞かずにやりそうだ。

しかもこういうときに限って、執事は奏の事にも腹を立ててしまったらしく、気づいたらどこかへ行ってしまっていた。

(こういうときこそ、いつもの剣幕で、あの国王を止めて欲しいよ…。)

いつもなら嫌だと思ってしまう執事の怒る姿が、今日ばかりは有り難いものに思える奏だった。

「△●×*%$!?」

そんな時、ドアの外から蓮白火国のものであろう言葉が聞こえてきた。何やら大人数でもめているようだ。

「+□※★#@!」

「▽¥!」

数分の討論の末、バァンッとドアが開き、タイナが中へ入ってくる。

その格好はもはや笑いを取るためとしか考えられないようなものだった。

ヒラヒラの、ど派手な衣裳(しかも相変わらず上下逆さま)に、フェンシングで使うような細い剣を持っている。

一見ふざけているのかと聞きたくなるような格好だが、着ている本人はいたって真面目な顔だ。

タイナの後ろでは城の重役らしきものたちが、彼の服の裾を、数人係りで必死に引っ張って彼を止めている。

もちろん、彼らの服装もまた上下逆さまなので、彼らのその様子は異様なものになっていた。

「おお!神守様、逃げてはおりませんね?ちょっとお待ち下さい、この者達が何故か私を止めようと必死なのです。」

重役たちとしては、無謀とも思える戦いを止めようするのは、当たり前の事なのだが、タイナはそれをいまいち分かっていないらしい。

「●○◎!!!」

しかし急にタイナが大声で何かを言うと、先程まであれだけ必死だった重役達がピタリと止めるのを止めた。

(な…何を言ったんだろう?)

けれど、奏のそんな疑問に答えてくれる者がいるはずもなく、奏はタイナに、おそらく勝負を決行するであろうマットの上に乗るよう指示される。

「さて、では勝負に入りましょう。勝敗はいたって簡単、どちらかが降参するまでです。」

案の定、勝負はここでおこなわれるようだった。

「本当にやるんですか?」

奏が諦めたように聞く。予想通り、タイナは大きく頷いた。こうなっては、後戻りは出来なさそうだ。

(こうなったら、国王が疲れて動けなくなるまでやろう。そうすれば、国王にも手を出さず、しかも負けなくて済むかもしれない。)

「では、始め!!」

タイナの掛け声と共に、勝負が決行された。

*****

しゅんっと鋭い音を立て、前に突き出された剣先を奏が軽やかに避ける。

体力勝負に持ちかけるつもりである奏は、あまり無駄な動きはしたくないので必要最低限しか動かない。

そのため、端から見ればぎりぎりで避けているように見えていた。

それを繰り返す事、約30分。さすがにタイナも疲れてきているのか、汗だくだ。しかし、目は未だ闘気を失っていない。

しかもなかなかの剣の腕前であるようで、奏が思ってもみない攻撃を繰り出してくる。

けれど、そこは奏も竜虎族を代表する神守だ。全部の攻撃を瞬時に感じ取り、やはり最低限の動きで避けていく。

時には危うくやられそうになる演技も含めるという余裕さえあった。

その演技をする度に、輝夜奈が息を呑んでいるのは感じていたが、逆にそれが、タイナに、奏の演技の真実味を感じさせているようなので、輝夜奈には悪いが奏は演技を止めなかった。

その奏の迫真の演技により、余裕の勝利を感じ取ったのか、タイナが笑顔を見せる。

緑の髪を風になびかせて、奏と少し距離を置き、息をつく。

「ふう…噂に聞くほど、竜虎族もたいした事はありませんね。」

この言葉にはさすがに奏もかちんと来る。自分の事ならまだしも、一族全員をそう言われると、さすがに言い返したくなった。

しかし、奏が一族代表の立場でもあることを思い出し、奏自身の行動が、一族全体の印象にもつながっていることに気づく。

そのことを思いついた奏の心は、また、どうするかについて迷い始めていた。

しかし、そこで奏の迷いなど蹴散らしてしまうような言葉を、タイナが口にする。

「確か神守様はあの有名な竜虎族第一道場の出でしたよね。…本当に鍛造(たんぞう)様も、こんな子供を神守にするなんて、地に堕ちたものだ。」

タイナは奏の師匠でもある、鍛造の事を知っているようだった。

「昔は最強の名を我が物にしていた英雄も、年で耄碌してしまったかな、はははっ。」

何がおかしいのか、タイナは鍛造の事を笑い飛ばしている。

「…んだよ…。」

「ん?何と言いました?神守様。」

タイナは笑いながら明後日の方向を見ていた体勢を、奏に向き直るように直し、そこで初めて奏の異変に気付く。

さっきとは全く違う空気を纏っている奏の目には、怒りの炎に燃えていた。

タイナの背筋に寒気が走る。彼は奏の殺気に圧倒されているのだ。

「俺の事はまだいいさ…だけどなぁ、一族…ましてやお師匠様の悪口だけは許せないんだよっ!しかもあんたみたいな軟弱野郎にだけは言われたくないっっ!!」

そう叫んだが最後、凄い勢いでタイナに迫った奏は、その勢いのままタイナの腕を掴み、十数メートル先の壁の方にまで、彼の身体を力いっぱい投げ飛ばす。

奏が怒りから我に返った時には、タイナは完全に気を失っていた。

「あ、やばい…。」

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