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君の守る世界 蓮白火国編―2―

今回も長くなりましたm(__;)m

奏たちは咲緒が仕掛けた悪戯にまんまと引っ掛かった事を知ったが、かと言ってどうすることも出来ずに、再びガイドの案内を受けている。

「前方に見えますのが、我が国最高齢のご老人が住んでいる家となります。」

「いや、そんな細かい事まで案内してくれなくていいですから。」

困り果てた様子の奏が何時間ぶりかに声をだした。

時間が経つにつれ、ガイドの青年が案内してくれる内容が細かくなっていき、この調子では明日になっても城に着きそうもない。

「あぁこれは失礼。そうですね、案内はまた今度にしましょう。今日は国王が待っておいでのはずですし。」

(また今度も案内があるのか…。)

これで1キロの道程を約3時間もかけていた国案内がやっと終わった。

(大臣様…これも狙いましたね。)

咲緒が計画した国訪問に、咲緒が頼んだガイド。どうやら奏たちは彼女の手のひらの上で踊らされているようだ。

*****

「…………………………………………………。」

会話がなくなった一行の間に、更なる衝撃が走っていた。彼らの目の前にはお城がある。

「城です…よね?」

奏は引きつった笑顔で横にいるガイドに尋ねる。

「もちろんです。城以外には見えないでしょう?」

確かに見た目はどう見ても城だ。大きさは、そこまで大きくはないが立派な造りでもある。

…向き以外は。そう、奏たちの目の前にあるのは、国民の服装と同じく逆向きに建っている城だった。

いわゆる一般的な城が引っ繰り返り、塔のてっぺんが地面に突き刺さっている所を想像してみればいい。そんな感じだ。上の重さを支えるためか、塔の数は多いが。

(この国、やっぱりおか…あっ、いやいや、他国の文化を自分の価値観で勝手に否定しちゃいけないよな。)

奏は湧き上がった自分の考えを頭を振って否定し、気を取り直して国王の元に向かい始める。

階段を登っている間は奏や部下たちも輝夜奈を守るような配置で歩いていたが、上に登り切った城の中は本当に何もかもがそのまま逆さまになっていて、地面から突き出している照明やシャンデリアに邪魔され、輝夜奈を守る為の配置はバラバラになった上に、なかなか前に進まない。

(またかよ…。)

さっきと同じように足止めされているので、一行の間でため息が漏れだしていた。

こんな道程なので、ドレスを着ている輝夜奈は一際動きにくそうで、しょっちゅうつまづいている。

奏がそれをうまい具合に支え、慎重に前に進んでいった。

「皆様、無事ですか?」

いつのまにか随分先まで進んでいるガイドが、涼しい顔で奏たちを見ている。

あんなに動きにくそうな服装であるのに、よくそんなに速く進めるものだ。

「と…ところで、ガイドさん。一つ…聞きたい…のですが…。」

輝夜奈が息切れぎれにガイドに話し掛けた。

「ガイド…さんが…国王様の所まで…案内…して下さるんですか…?」

「はい。案内します。」

爽やかな顔で答える彼を見て、輝夜奈は不思議な顔をする。

「城の人じゃなく、ガイドさんが城の中を案内するなんて変わってるわね。」

息を整えた輝夜奈が奏だけに聞こえるよう、こっそり言った。

確かに、他の国では現地のガイドが城の内部を案内することなどありえない。たいていは使用人が出迎えてくるものだ。

だがしかし、この国には今までも奏たちの常識は通じていなかった。

ならばガイドが城の中を案内するのは、当たり前の事なのかもしれない。

現にガイドは通い慣れた場所を歩くかのように、どんどんと進んでいっている。これは何度もここへ足を踏み入れている証だ。

「それにしても、この城は不用心ですね…。警備の人があまりいない。」

奏は周りを見渡すが、剣を持った人が極端に少なかった。

「それ程この国が平和であるということですな。」

今まで黙々と歩いていた執事が、ひさしぶりに口を開く。

「そうだね。」

輝夜奈は“平和”という言葉に満足そうな表情を浮かべている。

一方、奏は何だか腑に落ちない事があったが、黙っている事にした。

「皆様、この部屋が国王の間です。さぁ、お入りください。」

しばらくして、ガイドは一つの部屋の前に辿り着き、ドアを開けた。

中では案の定というかなんというか、貴族の服装を逆向きに着て、ひざまづている国王がいた。

「ようこそいらっしゃいました。歓迎いたします、王女様。タイナ・ドゥエル・ウル・ザックでございます。」

珍しい緑の髪に、程よく日焼けをしたタイナは見た目、30代といった所だ。

「あれ…?共通語お話しになられるんですか、国王様。」

輝夜奈は驚きの余り挨拶も忘れ、尋ねてしまった。

「そろそろ我々も、他国との交流を考えていかないといけませんので。少々勉強させて頂いています。」

タイナはガイドに比べたら、まだたどたどしい口調だが、しっかりと共通語を話している。

しかし、難しい語はまだよく分からないのか、横には通訳もついていた。

「私どもの国はいかがですか?」

タイナは下げていた顔を上げて、にこりと笑う。

「はぁ…この国には独特の習慣があるんだなぁと思いました。」

輝夜奈の正直な感想が出る。

それを通訳がタイナに伝えた。

「△*★%○…」

(何言ってるか、さっぱりだよ…。本当に言語も全く違うんだな。)

奏は今まで共通語の通じない国があることを知らなかったので、ちょっと感動する。

確かに地方によって訛りは存在したが、完全に違う言語を聞くのは初めてだった。

「はーっはっはっは!うぉっ…ごほっ!」

急にタイナが笑いだしたと思ったら、これまた急にむせた。

「大丈夫ですか?!」

輝夜奈も驚き、彼に駆け寄る。それに付いて、奏も輝夜奈の後ろからタイナの元へ行く。

「だ…大丈夫です。ご心配をかけました。」

そう答えるタイナは、ちょっと恥ずかしかったのか頬が紅潮している。

奏が見る限り、タイナはかなり共通語が分かっているようだ。

「それにしても王女様は、綺麗な共通語をお話しになるようだ。凄く聞き取りやすい。」

こほん、と一息ついてから、タイナは改めるように言った。

輝夜奈は急に褒められて、驚きながらも礼をいう。

「ありがとうございます。」

それを聞き終えると、タイナはゆっくりと立ち上がり、両手を広げた。

「では、今から皆様に我が国のしきたりのお話をしましょうっ!」

タイナが指をぱちんっと鳴らすと、部屋のドアが突然開き、大人数の使用人たちが何か大きなものを部屋に運び入れる。それには布が掛けられ、大切に扱われているのがよくわかった。

「え…?!あの……っ!!」

いきなりの事態に輝夜奈が狼狽した声をあげる。

「大臣様より、皆様方がこの国についての本をお作りになることは聞いております。ならば…!私が直々にお話した方がよろしいかと思いましてっ!」

こちらに背を向けていたタイナが眩しいほどの笑顔で、こちらに振り返る。

その手は片方を自分の胸に当て、もう片方は高らかに上に掲げている。明らかに自分に酔っているポーズだ。

確かにタイナの容姿は整っているが、服装が服装だけに、奏たちは笑いを堪えるのが必死である。

(というか、この人さっきとキャラが違うよ。)

奏は顔を反らし、手で口元を隠している。

「じゃぁ…お願いします。」

笑いそうなのを堪えた輝夜奈が小さな声で言ったにも関わらず、タイナはそれを聞き逃さなかった。

「では…失礼してっ!明かりを…!」

タイナが天井を指さすと、使用人達が一斉にカーテンを閉め、明かりが消えた。そして周りが一気に真っ暗になる。

「きゃぁっ…!」

「姫様っ!」

奏はさっ、と輝夜奈の傍について周りに警戒する。すると、急に一筋のスポットライトが当たり、暗闇の中にタイナが浮かび上がった。

その手にはいつのまにか薔薇が握られていて、それを使い、またポーズを決めている。

しかし何度も言うようだが、彼は服が上下逆さまだ。これがどれだけポーズを決めていても、笑いを誘うものにしかしない。

「我が国の歴史、文化、そして政治には全ての基となるものがあります!それが我が国が信仰している宗教、“蓮白火教”です!」

先程とは比べものにならないほど快活な話し方になっているタイナ。

(この人…本当に全く違う言語を話してるのか?)

奏は半分呆れた目で彼を見る。

スポットライトの下で、ノリノリで話している彼は異国の雰囲気を感じさせない。…服装では思いっきり異国だが。

「そしてこちらが我々の信仰する蓮白火教の最高神蓮白火様なのです!…ち・な・み・に・女神様ですよ。」

タイナが両手で指し示す先にまたスポットライトが当たり、先程運ばれてきた大きいものが暗闇に浮かび上がる。

布が取り払われ、現われたのは美しい女神の像だった。その手には逆さまに天秤が握られている。

「それは聞き捨てなりませんなぁ。」

今まで黙っていた執事が何が気に入らないのか、急にくってかかりだした。

「ここに神となられる御方おられるのに、目の前でそのような振る舞い…許す訳にはいきません。」

(なるほど。)

奏は執事が怒った理由が分かった。タイナが最高神を蓮白火様と言ったのに腹を立てているのだ。

奏達の国や他の国では、最高神は威守族から出る、神候補達の事だと思われている。

「確かに真の最高神は王女様ですが、我々の宗教での最高神は、実際では一番下位の神なのですよっ!」

「はいっ?!」

タイナの言葉の意味を奏たちは理解出来なかった。

「どうしてわざわざ一番下位の神を最高神になさるので…?」

そんな中、唯一タイナの言葉を理解したらしい執事が、相変わらず恐い顔でタイナに最もな事を聞く。

「だって逆さまにすれば蓮白火様が一番になるでしょう?」

「へっ…?!」

(何でわざわざ逆さまにして考える?!)

これにはさすがに執事も言葉を失っていた。一体どういう理屈だ。

「だから我々は蓮白火様に敬意を示すため、色々と逆さまにしているのです!逆さまこそ、この国の全て!」

やたらと逆さまなのにはそういう経緯があったのだと奏は納得した。

(納得したくはないけど…。)

「こっ国王様!大変です、今3時20分でございます!」

そんな中、ふと時計を確認した使用人が慌てた声を出した。

「何っ?!大変ではないか!今すぐ準備を…!」

すると使用人の言葉を受け、タイナも慌てだす。

「どうかされたんですかっ?」

事情のわからない奏たちは、ただ呆然とするしかない。

「ご説明は後でっ!」

そう言い切った後、タイナや使用人達は同じ方向を向いて、目を閉じて逆立ちし始める。

それは色々な意味で凄い光景だった。しかもそれからかなり長い間、彼らは逆立ちをしていた。

「ふぅ…間に合いました。」

しばらくして、逆立ちをし終えたタイナが奏達の元にやってきた。

そのタイナに輝夜奈がおずおずと尋ねる。

「あの…今のは…?」

タイナはスキップに近いステップで、輝夜奈に近づきながら答える。物凄く怪しい。

「あれは蓮白火様へのお祈りですよ。蓮白火教では毎日午後3時23分に国民全員が、逆立ちしてお祈りする事を義務付けているんです。」

(また中途半端な……しかもわざわざ逆立ちって…。)

奏は思わず突っ込みを入れたくなってしまう。

「なぜこんな時間かと申しますと、逆さまを愛す蓮白火様のための理由がございますんですよっ!」

タイナの口調が、まるで商人のようになってきていた。

「な…なんですか、それは?」

タイナの勢いに押されまくっている輝夜奈だったが、後ろに反り返りつつ、もう一度尋ねる。実に勇敢な事だ。

「ふっふっふっふっ……!」

タイナは、その体のどこからそんな声が出るのかと思う程、不気味な笑い声を出す。

おかげで奏も、その様子に、ごくりと息をのんでしまった。

「実はですね…。」

「実は…?」

輝夜奈が、もったいぶるタイナを急かすように聞き返す。

「3時23分というのは、前から読んでも、後ろから読んでも“さかさ”と読めるんですよっ!おー凄いっ!これぞ正しく逆さまの極意ですよねっ!」

「………………………………………………………………。」

言うまでもないと思うが、この時の奏たちの顔は、言葉では言い表わせない程、複雑であった。

言葉を失うどころの問題ではない。勝手な価値観で決めつけてはいけないが、やっぱりこの国は変だと思う奏だった。

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