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君の守る世界 香椎国編―4―

そう、確かに輝夜奈は後ろから殴られ、そしてその衝撃で地面に倒れたと思った。しかし、実際には頭を殴られるような衝撃は来ない。それどころか、彼女は体を支えられていた。

(え…?)

人の温もりが全身に伝わってくる。背中には力強い腕がしっかりと回され、輝夜奈を支える。

ゆっくりと輝夜奈が見上げると、そこには輝夜奈を守る少年の顔があった。

助けて欲しいと心の中で、必死に彼を呼んでいた自分が見せている幻覚かもしれないと思い、輝夜奈は目の前の光景が、なかなか信じられない。

「…奏……?」

確かめるように輝夜奈が彼の名を呼ぶと、奏は輝夜奈の方へ視線を傾けて、にこりと笑い、輝夜奈を支える腕の力を強くする。

「遅くなってすみません。」

つい先程まで一緒にいたのに、耳に届く奏の声が、輝夜奈には、ひどく懐かしいものに思えた。

(奏だ…!奏だ!本当に来てくれた…!)

輝夜奈は体の緊張が解け、心底安心する。そして、奏にぎゅっと抱きついて体を彼に預けた。安心したせいか、輝夜奈の大きな目からは大粒の涙が零れる。

それを見届けた奏は、さっと男たちの方へと視線を戻した。輝夜奈を殴ろうとしていた鉄パイプを剣で受けとめていたが、それを強い力で跳ね返し、その勢いで男の手から跳ねとばす。

カランカランと甲高い音を立てて、鉄パイプは地面に落ちた。

「なっ何者だっ?!」

いきなりの奏の登場に男たちは騒つく。

「あんたたちに答える筋合いはない。」

奏が冷めた視線を向けると、リーダーの男が激しい怒りを露にした。

「なめやがって、くそガキがっっ!見た所一人だな、一人で俺たちに適うとでも思ったのか?!」

そう吐き捨て、浮かべる笑顔はどこまでも醜い。

「しっかしまぁ、よくここがわかったもんだ、それだけは褒めてやるよ。」

手に剣を持った男が、横から出てきて、奏を品定めするかのようにじろじろ見る。奏はゆっくりと、その男に目を向けた。

「あんた頭悪いな…。」

はっきりした声がその場に響いていく。

「…っんだとぉぉっ!!?」

奏の言葉に、言われた本人以外の男たちも怒声を上げる。

「あんな人目の多い路上で女の子を無理矢理連れ去ったりしてたら、目撃者がいない訳ないだろう?

街の人にいつもあんたたちが溜まる場所を聞いたら、すぐにここだってわかった。しかもご丁寧に近くに馬が止めてあったし、わざと俺を誘い込んでいるのかと深読みしてたけど、そんな心配、無用のようだ。」

そう言って、奏はわざと男たちを怒らすように鼻で笑う。

「かわいくねぇ、ガキ。どうやらどうしても俺たちにやれたいらしいな。」

リーダーの男が奏を指さすと、それを合図にするかのように、リーダー1人を除いた全員が、じりっと奏に近寄ってくる。今まで奏の腕の中で、おとなしくしていた輝夜奈もさすがにこの状況にはたじろいだ。

6人もの背の高い男たちが、手に剣や鉄パイプを持ち、一斉に奏に襲い掛かろうと構えている。

「奏。」

不安げに奏を見上げる輝夜奈に気付き、奏は彼女を抱えたまま、後ろに走りだす。

「おい、見ろよ。逃げたぜ!」

男たちは奏たちを見て大笑いをし、後を追い掛けようとした。しかし、奏が向かいの建物の前までつくと、急に足を止めたので、男たちも驚いて足を止める。

「危ないので、ここを動かないで下さいね。」

奏は輝夜奈をその場に下ろしながら、男たちの方に向き直った。

「誰が逃げたって?」

「…本気で一人で俺たちと戦う気かよ。」

奏の全く恐怖を感じていない表情に、さすがの男たちも驚きを隠せない。

「当たり前だ。姫様を泣かせておきながら……ただで済むとは思うなよ?」

奏の表情が変わり、男たちは息をのむ。穏やかだった顔には、はっきりと怒りが表れ、目には殺気が感じられた。その目を閉じて、奏は持っていた剣を腰に戻す。

「…あんたたちには剣を使う必要もなさそうだ。素手で片付けてやるよ!」

その言葉とともに、奏は一直線に走る。

男たちは向かってきた奏に、剣や鉄パイプを一気に振りかざすが、それは空をきった。

「…いない?!」

「消えた!」

「どこいったんだ!?」

男たちは周りを見渡すが、奏の姿は見えなかった。

「こ・こ・だ・よっっ!!」

急に男たちの視界が暗くなったと思うと、奏が上から落ちてきて、その落ちる時の力も利用し、一人の男の肩を掴むと、そのまま顔面を蹴り飛ばす。蹴られた男は気を失って、重力に従い地面に倒れた。

「そっちこそ、子供だからってなめんなよ!」

「こいつ、強い…!」

そんな言葉を受けながら、男が倒れるのを見届ける前に、奏は次の攻撃に入る。肘を使い、振り向き様、後ろにいた男のみぞおちに、思いっきり食らわし、その衝撃で腹を抱える男の頭に、今度は横から蹴りを食らわす。

次に奏は、自分に突き出された鉄パイプを、しゃがんで避けると、そのパイプを掴み、持っていた男を思いっきり投げ飛ばし、何人かをまとめて、それに道連れにした。

奏の隙をついて、背後にいた男が剣を横へと振り払うが、奏がそれを難なく避けると、男はその勢いで自分で自分の腕を傷つけてしまう。

「ぐぁぁあああっ!」

奏は、叫び声を上げる男を冷ややかに見つめる。

「剣の扱いも知らない素人が、急にそんなものを使うからだ。」

そして余りの痛さに座り込んだ、その男の首と顔のえらがある境目の部分に、奏が手拳をぶつけると、男は気を失った。

「…!!奏、後ろ!」

突然、輝夜奈の叫び声が聞こえたと思ったら、いきなり奏の背後から手が伸びてきて、奏は脇を持ち上げられ、地面から足が離れた。

どうやらさっき投げ飛ばした内の一人は気絶しているフリをしていたらしい。

「ったく!てこずらせやがったうえに、仲間をコケにしやがって…てめぇはここで殺してやる!」

奏の前には鬼のような形相のリーダーがいた。

しかし、それにも全く動じない奏を見て、そのリーダーは苛立ちを覚え、奏の顔を思いっきり殴ろうと振りかぶった。

「そおっっ!!」

輝夜奈の悲痛な声が響いた、その瞬間に、奏は自分を抱えて押さえ込んでいる男の腕の拘束を擦り抜け、地面に下りる。

突然目の前の奏の顔が消え、驚いたが、勢いをつけた腕が急に止まるはずもなく、リーダーの拳は仲間の男の顔面を殴る。

まともにそれを受け、鼻血を流しながら、仲間の男は後ろに倒れた。

「仲間は大切にしたら…?」

奏はリーダーを挑発する。するとリーダーは、しゃがんでいる奏目がけ、蹴を入れた。奏はそれを空中に飛び上がり、避ける。体を回転させ、リーダーの背後に着地した。

「ったく、身軽なガキだぜ!」

そう言いながら腰にある剣を抜き、奏の方に向かって構える。

「抜けよ、お前も。俺は、さっきの奴らと違って“経験者”だぜ?」

奏はリーダーの構え方で、確かに剣の扱いを知る者だと分かった。しかし、いつまで経っても奏は剣を抜かない。それを見て、更に怒りを膨らませるリーダーは奏に向かって、その剣を振りかざす。

「俺はこの香椎国第4部隊に所属してたんだ、抜かなかった事、今更後悔すんなよっ!」

しかし、奏はその一撃さえ簡単に避けてしまった。

「なっっ!!?」

「そんな大きく力任せに振りかざしたって、俺は怯えて動けなくなったりしない。逆に隙を作っただけだよ、あんた。」

奏は目に見えない程の速さで、リーダーの横につき、呆れたように告げる。

そして逆立ちする途中に、両足でリーダーの首を挟み、地面に手をつくと、勢いをつけ、リーダーを地面に叩きつけた。

「っかはっっ…!」

その衝撃で、彼の持っていた剣は手を離れた。

「だいたい、本当の強者は肩書きを隠しているものだ。」

奏は言いたい事を言い切ると、気絶させるための止めをリーダーに食らわせて、彼が動かなくなるのを見届ける。

辺りは静まり返った。

「ふぅ…。終わった、終わった。」

奏は余裕の笑顔を浮かべて、手を払う。奏にしてみれば、これくらいは朝飯前だった。

「姫様、大丈夫ですか?お怪我はありませんでしたか?」

あの男たちを、あっという間に片付けてしまった奏は、すぐに輝夜奈の元に向かう。

「ごめんなさい。奏…また忠告守らなかったばっかりに…。」

そんな言葉とともに、輝夜奈は、奏に頭を下げる。

「や…やめて下さい、姫様!もう終わった事ですし、もう絶対一人で行動したりしないって約束して下されば、それでいいですから。」

奏は慌てて輝夜奈の頭を上げさせる。

「…だって…。」

まだ何かを言いたげな輝夜奈の肩に手を置き、その目を覗き込んで、奏は言った。

「もういいんですよ。…姫様が無事だったから。」

奏の言葉に輝夜奈は目を丸くする。途端に輝夜奈の視界は滲んでいった。

「奏っ!」

堪えていたものが、また溢れだし、輝夜奈は奏に抱きついて泣き始める。

「こわかっ…!」

奏は優しく輝夜奈の背中を撫でる。そして、輝夜奈が落ち着くまで、ずっとそうしていた。

*****

輝夜奈を連れ去った男たちは、奏の通報で、香椎国部隊により捕まえられた。

「王女様っ!よくぞ、ご無事で…私は、私は、寿命が縮まりましたぞ!」

執事が泣きながら輝夜奈を抱き締める。

「心配かけてごめんね。また私が忠告を守らないで…奏がいなかったら危なかったよ。」

輝夜奈は本当に済まなさそうにしている。執事は抱き締めていた手を緩めると、輝夜奈と目をあわせ、真剣に怒った。

「ご自分がどういう、お立場なのか、ちゃんと考えて行動して下さい!…心配をかけた罰として、しばらく王女様の我儘は聞かない事にします!」

そう言うと、執事は輝夜奈から手を離し、城に入っていった。

「えっ…?そ、そんなぁっ高畑ぁ!」

輝夜奈の抗議の声にも振り向かない。

「姫様、今回は仕方ありません。諦めましょう。」

ぽんっと肩に手を置き、輝夜奈に言い聞かす奏。

「執事様は相当心配なさったはずですから。…これに懲りたら、もう心配かけるような事はなさらないことです。」

輝夜奈は奏を振り返って、奏の目をじっと見る。奏は執事に取り合ってくれるつもりはないらしい。

「うぅ〜…本当に自業自得だわ。」

.

.

.

そして、結局、香椎国を出発する日まで、輝夜奈の我儘は禁止されるのだった。

.

.

これで本当に香椎国編は終わりです。次回から違う国へと、また舞台が変わります。今回、初めてこんなに長く戦闘シーンを書きました。まだまだ未熟なので至らないとは思いますが何かありましたらアドバイスや感想を頂けると有り難いですφ(..)

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