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君の守る世界 香椎国編―1―


 奏達の歓迎パーティーから一夜があけ、奏達はすでに香椎国へ出発する準備を整えていた。


「気を付けてな」


 村中の人から口々に声がかけられ、奏はそれに笑顔で応えて、部隊の先頭に立つ。


「行ってきます」


 挨拶とともに村人に大きく手を振り、馬を進め始める。

 村人は奏達が見えなくなるまで手を振っていた。


「いい所ね、渡村」


 しばらくして、ふいに馬車から輝夜奈が話し掛けてくる。


「ありがとうございます!」


 そう返した奏の顔は自信と誇りに満ちた笑顔だった。

 輝夜奈はそれを見て、ほっとしたような表情を浮かべる。奏の笑顔に力が戻ったのを感じたのだ。


「よかったね、奏」


 輝夜奈は何の事を言っているのか、はっきり言わなかった。しかし、


「はい」


 奏は輝夜奈の言葉にしっかり返事を返す。彼女が言いたい事がなんとなく奏にはわかった。

 村に帰れて、両親に会えて、友人に会えて…等、とにかく、その他にも色んな意味を含んだ“よかったね”なのだ。


「余韻に浸っていらっしゃる所お邪魔いたしますが、神守殿、帰ってからの自室謹慎をお忘れなく」


 穏やかな空気を切り裂くように執事の声が響く。

 昨日直哉や村人が、輝夜奈を国家調査隊に間違えた上に、奏の恋人だと思った事が相当頭にきたらしく、奏への言動が更に厳しくなっている。


(あーーもぉっ、この人はどうすればいいんだぁーーっ!!)


 奏の心を曇らせていた悩みは解決したが、奏の事を困らせている問題は以前より大きくなっていた。


*****


 香椎国の門が奏達の前に立ちふさがっている。その門は建ってからかなりの年数が経っていそうだ。


「通行許可書を拝見します」


 門番が奏達に近づいてきて、奏が見せた許可書を確認する。

 格好から奏達の立場を判断したのか、門番の態度は遠慮深いものだった。しばらくして、許可書が本物だと認識した門番は門を開ける。


「どうぞ、お通り下さい。ようこそ、香椎国へ」


 門番は頭を下げ、奏達を迎え入れる。それに奏も礼を返す。


「ありがとう」


 奏の後ろで輝夜奈も門番に礼を返すのが聞こえた。門番は輝夜奈の瞳の色で次期神候補だと気付いたらしく、慌てたような声がした。

 奏がゆっくりと後ろを伺うと、門番は奏達がだいぶ門から離れたというのに、まだ頭をこちらに下げている。


(随分礼節正しい国なんだな)


 何を隠そう輝夜奈だけではなく、奏も他国へ訪れるのは初めてであるため、この国がどういう場所かは全くわからない。

 ただ、ほかの人たちから色んな国の話を聞くことはある。

 しかし、百聞は一見に如かず、言葉どおりみてみないとその国の本当の様子など分からないものだ。

 奏は街を見渡す。今日は清々しい程の快晴で、その真っ青な色に浮かび上がるような白い大きな建物が続く。

 沢山の人で店の通りは溢れていて、楽しそうな街の雰囲気から、この国が潤い、豊かである事が伝わってくる。

 街に音楽や笑い声が響き、ここにいれば誰もが楽しい気分になりそうだ。


(この国は産業も発達していると聞いていたけど、ここまで豊かだとは思わなかったな)


 奏もだんだんと、この旅が新しい発見をたくさんできるものになるかもしれないと感じ始めていた。

 そして奏達が城へ向おうとしばらく馬を進めていると、目の前から同じように馬に乗った部隊がやってきて、奏達に声をかけてくる。

 

「次期神様と国家部隊の方々とお見受けいたします」


「……そちらは?」


 奏が少し警戒しつつ伺うと、


「香椎国第一部隊の者でございます」


 と答え、隊長と思われる人物が香椎国国王の配下の証となる書類を掲げる。


「国王より皆様を案内するよう申し付けられております。……ではご案内いたします」


 その部隊に導かれ、奏達は迷う事無く城につけた。入り口の近くまで来ると、第1部隊は馬を止める。


「我々がご案内出来るのはここまでです。皆様を国王がお待ち申し上げております。どうぞ城内へ。ここからは城内の者たちがご案内いたします」


 馬から下りた部隊が深々と頭を下げる。


「ありがとうございます」


 奏は彼らに礼を言うと、馬を専用の場所につけ、輝夜奈を馬車から下ろし、国王のもとへ向かう。

 城の門まで来ると、輝夜奈は門に施されている彫刻を見て、ため息をつく。


「すっごくきれいね。私達の城もこういう彫刻にすればよかったのに」


 この国の街の建物と同じように、真っ白で美しい城の門には、この雰囲気にぴったりの女神達の像が彫られていて、その一つひとつが優美で神秘的な輝きを放っている。

 一方、奏達がいる、輝夜奈たち威守族の城門の彫刻は、家紋でもある2頭の龍が彫られている。

 しかし、それは小さい子供が泣きだしてしまいそうな程、生々しいというか、恐ろしい。おかげで城へ訪れる人々は、城内へ入る前にそこで気が締まるという利点もあるらしいが。


「お待ちしていました。さぁこちらへお越しください。国王のもとへご案内させて頂きます」


 奏達が門の前でしばらく彫刻を見ていると、城内の者が現われ、手招きしてくれた。

 それに従い、奏たち一行は国王のいる部屋へと向かう。


「うーん。緊張してきたよー。どうしよう、奏。私、国王の前で変な事しないかなぁ?」


 輝夜奈が不安げな表情を浮かべ、小声で奏に言ってくる。今まで一度も他国の王族にあった事のない輝夜奈が緊張するのは仕方ない事だった。


「大丈夫です。いつも通りにしていれば何も起こりませんから。意識しすぎた方が失敗してしまいます。少し深呼吸して落ち着いてください」


 奏が安心させるように笑顔を向け優しく答えると、輝夜奈はその言葉に従い、深呼吸する。


「……少し、落ち着いたわ」


「よかった」


 奏が輝夜奈に寄り添うように歩を進めると、それを感じたのか、輝夜奈は嬉しそうに笑う。

 高い天井に天使の絵が描かれた廊下が続き、しばらくして会談の間に着いた。


「皆様をお連れいたしました」


 案内してくれた人がノックをしながら、中に呼び掛けるとかすかな声がきこえた。


「中へ」


 その言葉を受け、使用人が部屋のドアをあけ、奏達を中に通す。

 気が付くと、国王だと思われる人物が輝夜奈の前に跪いて頭を下げていた。


「ようこそ、香椎国へ。よくおいで下さいました。王女様直々に訪問して頂けるとは感激の極みでございます。本来ならば私がそちらへのご挨拶に向かうべきでございますのに……誠に申し訳ありません」


 一国の王がここまでへりくだっているのも、輝夜奈たち威守族が彼らの上に立つ、世界の王であるためだ。

 そのせいかは分からないが、威守族の城のある領地に国名なるものはない。威守族は全世界が支配する領地であると考えられているかららしい。

 近年では執事の様に、城がある領地を“国”と考える場合もあるが、それには国=威守族自体を示す、という定義が人々の中に成り立っている。

 要するに、この香椎国は実質的には威守族のものということになる。


「いえ、私も色々なものをみてみたいと思っていましたので、香椎国に来られた事がとても嬉しいのです。だから、そんなにかしこまらずに、どうか顔を上げて下さい」


 あまりにも深々と頭を下げる国王に申し訳なく感じ、輝夜奈が声をかけると、国王はすっと顔を上げる。

 奏はその国王の顔を見て驚く。彼は、日の光を集めたような金色の髪に、咲緒と同じ翡翠の瞳をもった、王子といっても過言ではない程に若い人だった。


(確か……香椎国の国王はもぅ50歳を越えていると聞いていたんだけど)


 皆も同じように不思議に思っているらしく、奏と同じように国王を見つめていると、その視線に気付いた国王は苦笑した。


「大変申し遅れました。私はメイゼン・ルース・カシイです。つい数ヵ月前、前国王、つまり私の父であるモドリア・ルース・カシイが急逝いたしまして、急遽国王に新任いたしました。何分あまりに急であったため、国内の混乱を治めるのに忙しく、他国や王様、王妃様、王女様にお伝えする事が出来ませんだこと、誠に勝手ながら、ここにてお詫びさせて頂きます」


 メイゼンの言葉で奏達の間に動揺がおこる。それをすっと片手で制すると、輝夜奈は真っすぐにメイゼンを見る。


「そうでしたか、私は是非とも前国王様にもお会いしたかったです。……父と母にも代わりまして、お悔やみ申し上げます」


 悲しそうな輝夜奈をみて、メイゼンも少し涙ぐむ。

 しかし、それを隠すかのように、また頭を下げた。


「……ありがとうございます」


 切ない思いが伝わってくる一言だった。


「お越し頂いて早々に、このようなお話を失礼いたしました。……さぁ旅でお疲れの事でしょう。挨拶はこれくらいにして、夕食の時にでも、またお話しましょう。使用人に部屋を案内させますので、夕食時までどうぞ、ごゆるりと」


 メイゼンがパンッと手を叩くとすぐに使用人が現われる。


「皆様をお部屋へ」


「かしこまりました。では、こちらへ」


 使用人に招かれ、奏達は部屋へと向かった。



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