エジプト編 第1話
ジャックはひどく喉が乾いていた。
かれこれ3日間何も口にしていない。
それもそのはず、彼は誰もいない広大な砂漠をたった一人で永遠と歩いているのだった。
「あぁ…そろそろ限界だ。40度は越えているだろう。この暑さではこれ以上歩けない。このままでは死んでしまう…あそこの陰で少し休もう。」
ジャックは薄れる意識の中、等身大程の大きなサボテンを見つけ、そこで休むことにした。
着ていたワイシャツを脱ぎ、体中から出る汗を拭っては数日前の自分の行動に心底悔やんでい
た。
「くそう、海外の取材なんて辞めておけばよかった。数日で終わるはずだった仕事がまさかこんな事になるなんて。」
ジャックはニューヨークで新聞記者をやっている。
数週間前、社内ではエジプトの観光地に奇妙な現象が起きているとの噂話で持ち切りだった。
その噂話とは、首都カイロにある考古学博物館のミイラが夜間にガラスケースからすっかり姿を消したと思うと、数日後には元通り綺麗にガラスケースに戻っているというものであった。
警備員はもちろん24時間ついているし、その時盗難の通報もした。
直ちに地元警察官が来て現場検証するも指紋や足跡などの証拠らしきものは何も見当たらず、ブザーすら鳴らなかったというのだ。
ジャックは観光客集めのための作り話だろうと高を括ったが、その後の話の続きが気になった。
ミイラが姿を消した数日間、首都カイロ周辺で高額の盗難事件が10件も起きている。
しかも、それが起きたのは1回きりではなく、もう2回起きているというのだ。
地元紙ではこれを「怪盗ミイラの高額窃盗」とミイラと高額窃盗事件を関連付け、トップニュースとして報道した。
ぞくぞくっとした感覚がジャックを襲った。
この報道の真実を知りたい!
ジャックはカメラマンのボブと自らの大いなる好奇心を引き連れてエジプト行きの航空券を握りしめた。