お部屋に行こう!(ヤケクソ)
拝啓
ご覧の皆様。
僕は今ピンチです。
というのも、ここは今ヤミコさんの家。
ヤミコさんの部屋。
いや、落ち着いて聞いて欲しい。
これ、嬉しい状況では全くない。
何故って?
それ聞くか、そっか。
僕今ね、
首輪つけられてるんだわ。
木曜日の夜。
午後9時を周り、僕らの年齢からすれば、まだ夜ははじまったばかりというところだったのさ。
着信。
見知らぬ番号。
む、誰だ。
こんな時間にかけてくるのは・・・ちなみにヤミコさんは番号知ってるんだなこれが。
「・・・もしもし?」
『やぁ、突然すまない。私だ。薬師丸だ。』
刹那、僕の背筋はピーンッよ。
「せ!せせせ先輩!?」
『実は君に頼みたいことがあってね。今週土曜日、会えないかな?』
「はい!もちろんです!」
当然の二つ返事。
嘘でしょ、先輩から誘われるなんて!?
『良かった。断られたらどうしてしまおうかと思ってた。』
なんだかほっとしたような声。
僕が先輩からのお誘いを断るなんてそんなこと!
『じゃあ、土曜日の午前10時、最寄駅の南改札で。当日は・・・』
「はい!楽しみにしてます!」
思えば、これが良くなかった。
「ヒロくん!おはよ♡」
「おっはよー!!」
「何だか元気だね?」
「そう見える?エヘヘヘ」
放課後も
「ヒロくん!一瞬に帰ろ・・・ヒロくん?」
「えへ、エヘヘヘ。あ、うん、帰ろ帰ろ!」
帰宅途中も
「それでね、お母さんがね?」
「エヘヘヘ、うん、そうなんだぁ。」
「・・・ヒロくん?」
そんな調子で、僕はこの日の記憶があんまりない。
こんなに浮かれたのは、生まれて初めてだった。
だから、全然気づかなかった。
僕、今までヤミコさんと一緒に帰ったことなんて無かったんだ。
「ねぇ、ヒロくん?」
「エヘヘヘ、なぁにヤミコさん?」
「ちょっと、うちに寄ってかない?」
「エヘヘヘ・・・え?」
気がつくと、黒い門の前に立っていた。
周りの塀には植物が生い茂っている。
大きさはこの辺では少し大きいけど、そこまで変わった家じゃない。
でも、いつのまにか広がっていた厚い雲のせいで、昼間なのに妙に暗く、異様な迫力がある。
「寄ってくよね?」
「え、いや、あはは。」
我に返るのが遅かった。
「私、今日あなたと全然おはなししてない。」
そこで僕の視界は暗転した。
甘い臭い。
なんというか、可愛らしいを超えて頭痛がする。
目を覚ますと、そこはピンク色。
ピンクピンクピンクピンクピンクピンク。
全部ピンク。
気が狂いそうになる。
床に寝ていたのか?寝返りをうつと、天井が見える。
「ヒッ」
そして、ベットの上から頬杖をついてこちらを見つめる目。
「・・・あ、 起きたぁ♡」
顔の表情に違和感。
怖い。
口はいつものように柔らかく歪んでいるのに、
・・・目が全く笑ってない。
ビンッ
急に首が引っ張られる!
な、なに、これ、首輪?
僕、首輪つけられてる!?
嘘、でしょ。
は、外れないよこれ!!?
首を引かれ、ヤミコさんの顔が近づく。
「ヒロ、くん♡」
頬と頬がくっつき、そこからスリスリと顔を動かされる。
「ヒロくんヒロくんヒロくん♡」
この感覚、知ってるぞ。
犬!!
「ちょ、やめてよ!」
「やめない♡」
スリスリスリスリ
「やめてってば!犬じゃないんだから!」
「くぅーん♡くぅーん♡」
状況としては首輪をつけられてんのは僕なんだが。
リードで顔を無理矢理に近づけられてるのに、
犬みたいにひっついてくるのはヤミコさんの方で、
なにこれ。
この状況に、何だか笑えてしまう。
普通、この場合僕を犬のように扱うのでは?
「くぅーん♡」
「よしよし」
頭を撫でると、気持ち良さそうに身をよじる。
いつの間にかリードも緩くなってた。
「くぅーん・・・くぅーん」
撫でるうちに、何だか元気が無くなっていってる。
目に見えない耳がしょぼんとしてしまっているように。
そこで僕ははっと気がつく。
さっきのヤミコさんの言葉。
『私、今日あなたと全然おはなししてない。』
そうだった。
僕、今日ヤミコさんと何話したか覚えてないや。
「ごめん、ヤミコさん。今日僕、浮かれてて何にも話聞いてなかった。」
「・・・ほんとだよ」
珍しく怒ってるようだ。拗ねた小型犬ってこんなかな。
「これから、おしゃべりしようか。」
「うん。」
「何話す?」
「任せる。」
「任せちゃうかぁ。」
そこから珍しくヤミコさんは黙る。
しかし、僕のそばを離れようとしない。
長めの沈黙。
ヤミコさんは時々僕の腕の中で身じろぎするだけ。
「あの、ヤミコさん。僕も、男なんですけど。」
中学生の性。
ぶっちゃけ、元気になってしまう。
「・・・してもいいよ。」
何をだ。
何をだぁぁぁぁぁぁぁ!!
とりあえずフルプラトニックに頭を撫で続けた。
時計は午後5時を指している。
夏が近いとはいえ、流石に日が陰ってくる。
「じゃあ、ヤミコさん。僕そろそろ」
「え?」
「僕、帰らないと。」
「どうして?」
本当に不思議だという顔をしているね。
「だってほら、もう帰る時間だし。」
「帰さない。」
また目が黒ずんできた・・・
「ほら、うちの親も心配するし。」
「これ♡」
そういうと、ヤミコさんはスマホでLINE通話画面を見せてくる。
ハルコさん、という人物とのやりとりのようだ。
『お母様、ヒロくん今晩、私の家に泊まってもらっても大丈夫です。』
『ごめんなさいね、急ですけどよろしくお願いします。ヒロトが何かしたら、容赦なく警察に突き出して下さい。』
『それでは、お預かりしますね。』
『今度、ヤミコちゃんのご両親にもご挨拶に行きますね。』
『大歓迎です♡』
ハルコ。
恐らくだが、
「何がお願いしますだよ母さん!!!??」
僕の母だ。
「お母様、今日仕事で遅くなるみたいで、丁度良かったって♡」
「丁度いいわけあるかぁぁぁぁぁぁぁ!!」
まさか、既に外堀を重機で埋められていたとは。
「ヒロくん、今日は 帰 さ な い ♡」
そんなこんなで晩御飯を二人で食べ、シャワーを借り、何故か僕の部屋着があったので着替え、ヤミコさんの部屋でおしゃべり(僕がツッコミ続けていた)をしながら一緒にアニメを見ていたところ、僕の肩に頭を預けて眠ってしまったので、ベットに運んで布団をかけてあげた。
幸せそうに、「ヒロくん」とだけ呟いた。
多分寝言だ。
・・・首輪はいつのまにやら外れていた。
拝啓、
ご覧の皆様。
僕はどうすればいい。
ヤミコさんは眠ってしまった。
・・・待てよ?
・・・この女、僕が何しても、抵抗しないのでは?
・・・ヤミコさん、意外と出るとこ出てる。
ヤミコさんのパジャマの胸元に手を掛ける。
乱暴に引っ張ると、少しだけ胸元が開いた。
・・・そっちが誘ったんだ、悪く思うなよ。
・・・僕のこと、その、あれなんだろ?
・・・知らないからな。
「ヒロくん、しゅき・・・」
・・・僕も寝よ。
明日は先輩との約束もあるし。
ヤミコさんの髪をひと撫でして、用意してもらった布団に横になった。
朝6時。
始発も動いてる時間だ。
最悪の想定は杞憂だったようで、
起きても僕を縛り付けるものは何もなかった。
・・・ヤミコさんはまだ起きてない。
「ヤミコさん、僕帰るね。」
着てきた制服に着替えて、お別れを言う。
「・・・いっちゃうの?」
小さな、ハムスターの呟きのような声。
「ごめん、先輩と約束してるんだ。行くって言っちゃったしね。」
「・・・また来てくれる?」
「ちゃんと誘ってくれたらね。」
「・・・デートは?」
「遊びには行こうね。」
「・・・じゃあわかった。いってらっしゃい。」
ヤミコさんはベットに横たわったまま、こちらを見ずにそう言った。
「またね。」
僕は部屋を後にした。
よぉぉぉぉぉっしゃ!!!!
脱出したぞ!
今から家帰ってシャワー浴びて歯磨いて着替えて!!
先輩とデートだ!先輩と!
やったぜ!!これから僕は先輩と!
デートだぁぁぁぁぁぁぁ!!
「やぁ、みんな集まったね。」
午前10時最寄駅南改札。
そこにいたのは、薬師丸ナオコ先輩。
と、生徒会の数人。
みんな、麦わら帽子とジャージ姿だ。
「いやぁ、助かるよ。今日人手が足りなくてね。」
「校舎の草むしりなんて、みんなやりたがらないから。ちなみに」
「君、そんなお洒落着で大丈夫かい?」
この後、めちゃくちゃ草むしりした。
「改めて今日はありがとう。昨日は大変だったみたいだね。」
体育館外入り口の階段で休憩していると、先輩が話しかけてくる。
「いえ、お役に立てたなら本望です。」
すると、先輩が急に顔を近付けてくる。
最近多いなこの状況。
「君さえ良ければ、なんだが」
「この後、お礼がしたい。二人でどこか行かないか?」
「えっ」
心臓が口から出るかと思った。




