体育祭に出よう!
「良かったー・・・晴れた。」
むしろこれで晴れなかったら嘘だろ。
体育祭当日、6月も半ばを過ぎていたが、見事に梅雨前線の隙間を縫ったようだ。
いや、主にヤミコさんのおかげか。
「ヒロト、よくやった!!」
「これであの3年共に一泡吹かせられるってもんよ!」
部活は仲良くやりなよ、という言葉を飲み込む。
さて、僕はと言えば。
「ヒロくん!お揃いの競技だね♡」
腕にヤミコさんが巻き付いている。
左手の薬指には指輪(ペアで20万円)が光っている。
なるべく見ないようにするのが大変だ。
出世払いにしてもったが、これ、逃げ場減っただけ?
「や、ヤミコさんはバレーボール得意なの?」
「全然!」
「そっかぁ。」
「ヒロくんもでしょ?終わったら一緒にいようね♡」
男子と女子は体育の時間別々のはずで、僕のバレーボール姿見てないはずなんだけど、このレベルはもう気にならないです。
下馬評(?)通り、僕は速攻で負けた。
そもそもそういう球技が得意な連中は野球とサッカーで先輩潰しに向かったので、バレーボールはクラスのミソッカスが集まっただけだ。
「ヒロくん、格好良かったよ!はい、これ!」
紫色の液体が入ったペットボトルを差し出してくる。
「これ、何?」
「ヒロくんのために作ったの♡熱中症にならないように」
「・・・ごめん。ヤミコさん飲んで。」
こんな危なそうなもの、体に入れられるかよっ!
「ねっ~ちゅ~しょ~♡」
「ちゅーはしません。」
さて、次は女子の番だ。
「私、後半からだから見ててね?」
「頑張ってね。」
ヤミコさんは離れていこうとするが、すぐに戻ってくる。
「あの、ヒロくん、頑張ったら、その」
いつもの圧はどうしたのか、なんだかしおらしい。
「なぁに?」
「ち、ちゅーしてくれる?」
熱中症じゃなかったのかあれ。
まぁ、相手は3年生だし、確か全員バレー部だ。
「勝てたらね。」
ちょっとだけ意地悪。
これくらい、いいよね。
「わかった!見ててね!!」
ヤミコさんは僕に手を振る。
試合前半は、僕の思惑通りに進んだ。
3セット先取で1セットはワンサイドゲーム。2セット目の途中で、ヤミコさん達が出てくる。
ヤミコさんの他は・・・すごいな。クラスでも有数の黒ギャルだ。
うちは割りと服装やファッションは自由なんだけど、ここまで絵に描いたような黒ギャルはそうそういないだろう。
しかもやる気無さそう・・・。
・・・それに引き換えヤミコさん、凄いな。
禍々しいオーラが見えるみたいだ。
髪を束ねて姿勢が低く、明らかに敵側の姿勢だよ。
「(勝ったらちゅー!勝ったらちゅー!勝ったら・・・)」
聞こえない聞こえない聞こえない。
だが、試合は無慈悲にも、ひたすらボールに食らいつくヤミコさんと、微動だにしないでスマホをいじる黒ギャル達。
その差は歴然。あっという間にマッチポイント。
24対0。
・・・ちょっと、あんまりじゃないか?
点が取られる度に、手を握りしめている自分に気が付いた。
汗を拭いながら肩で息をするヤミコさんに、黒ギャルの一人が近づく。
「・・・雨ヶ崎、だっけ?」
「・・・そう、だけど、ゼー、ゼー、」
「これ、ただのお遊びじゃん?なんで、そんな必死なん?」
ヤミコさんは顔をあげ、相手コートをにらみつける。
「すきな、ひとの、ために、かちたい」
「・・・へぇ」
「勝ったらヒロくんからのちゅー!!(好きな人のために勝ちたい!!)」
本音と建前が逆になっとる!!
黒ギャルは無表情でヤミコさんを見つめて、
そしてポツリ。
「・・・いいじゃん。」
それから急に腕を回したり、首を回しだす。
他の黒ギャルも、ジャージを脱いで半袖短パン姿になっていた。
「あーし、そういうの嫌いじゃないよ。」
相手コートの3年生達も、なんだか様子がおかしい。
「雨ヶ崎、勝ちたかったら、死ぬ気でボールに触んな。」
「その後は、あーし達がなんとかしてやっから。」
第2セット、再開。
相手のコートからサーブが飛んでくる。
「せやぁぁ!!」
ヤミコさんが叫び、胸の前に伸ばした腕でボールを弾く。
黒ギャルの一人が弾いたボールをネットの方に高く上げる。
「・・・勝つべ、雨ヶ崎!!」
ズドン!!!!
物凄い音を立てて、相手コートの3年生2人の間にボールが突き刺さり、バウンドして体育館の壁から落ちる。
時間が止まったような一瞬から、黒ギャルが吠える。
「あと、24点!!」
体育館は異様な熱気に包まれていた。
「だぁらぁ!!」
「フンッ!!」
ズドン!!
死にそうな顔でもボールを拾い続けるヤミコさんに、
ネット前にボールを上げる黒ギャル達と、執拗に相手のコートの中へボールを叩き落とす黒ギャル。
「黒い落雷じゃん・・・マジかよ」
有名だったの!?
あと1点。
僕はただただ、試合に見入っていた。
また、同じ布陣で3年生コートにボールを叩き込む。
しかし、ここで目が慣れてきたのか、3年生チームも同じようにボールをギリギリで拾い、高い打点からボールを撃ち下ろす!
「舐めるな、1年が!!」
目にも止まらぬ、まさに落雷。
黒ギャル達も反応が遅れた。
一歩、間に合わない・・・!
これで決まりか。
誰もがそう思ったその時、
そのボールの着弾地点には・・・
ゴッ
「ブベッ」
なんと、ヤミコさんの顔面が。
ヤミコさんは顔でボールを返し、その衝撃からそのまま地面に倒れこむ。
・・・考えるより先に体が動いていた。
「ヤミコさん!!」
コートの中へ走り込み、ヤミコさんを受け止める。
やけに遅いホイッスルが聞こえ、体育館に静寂が戻ってくる。
「大丈夫!?ヤミコさん!!」
「こ、これは、お姫様抱っこ・・・?」
鼻血が片方流れ落ち、そのままガクリと気を失う。
・・・僕の左腕をガッチリ掴んで離さないのは、今は運びやすくて結果オーライとしとこう・・・力強いな!
「保健室だぁぁぁぁ!!」
まるで御輿の暴走族のように、僕たちはクラス総出でヤミコさんを運び出した。
「凄かったな、ヤミコさん。」
ヤミコさんは大事をとって帰宅することになった。
体育館までの静かな帰り道。
あの試合、黒ギャル達(黒いなんとかだっけか)は確かに凄かったけど、彼女達を動かしたのは紛れもなくヤミコさんだ。
・・・今日もだけど、改めて思う。
顔であんな勢いのボールを受けてまで、僕とちゅーしたかったの?
「どうして僕なんかを」
「自分を卑下するのは、感心しないな。」
後ろから、僕が愛してやまない声がした。




