泣き虫が笑ったら
⭐︎冒頭と終わりの言葉と文字数が決まっているお話に挑戦しました。
「泣き虫が笑った」で始まって、「いっそ消えてしまえばよかった」で終わる物語を980文字。
ちょっとオーバーしちゃったのですが、お気軽にお楽しみください。
「泣き虫が笑ったね」
そう言われた日、私はようやくこの世界で居場所を手に入れた気がした。私を撫でる皺くちゃな手に、私は拾われた。
異世界転移――月が二つあって魔物がいる世界、それが私の転移した世界だった。死ぬ寸前だった私を拾ったのは、薬師のお婆さんだった。
「泣いてばかりじゃ生きていけんぞ」
お婆さんはそう言って、毎日のように私の背中を叩いた。
言葉を習い、薬の作り方を学ぶ。薬草を煎じ、練り合わせる。何度も失敗して、初めて傷薬を完成させた。
「泣き虫が笑ったね」
それから、私は様々な薬を作れるようになった。負傷した冒険者を癒し、病に苦しむ子を救い、疫病に襲われた村を救った。いつしか私の薬が評判になり、薬の聖女と呼ばれ、噂は王都まで届いて――王宮から使者がやってきた。
「薬の聖女殿を王宮に迎える」
お婆さんと別れ、私は王宮で薬を作ることになった。この国は常に魔物と戦い、平和とはかけ離れていた。
そんなある日、お婆さんのいる村が魔物に襲われたという知らせが入った。居ても立っても居られず、村へ向かった私が見た光景は――
何も残っていなかった。
なにもかも瓦礫になっていた。瓦礫の上で、私は膝をついた。
粉雪が降り始めた。白い粉が、ゆっくりと焼け焦げた梁の上に積もっていく。お婆さんの小さな家があった場所。今はただの黒い土と折れた柱だけ――
「泣き虫が笑ったね」
あの言葉が、頭の中で何度も繰り返される。
お婆さんの皺くちゃな手が、私の頭を撫でた感触。温かくて、優しい手。あの日、私は初めてこの異世界で居場所を感じた。
薬を作り、誰かを救い、笑えるようになった。聖女になりたいわけじゃなかった。でも、お婆さんが行っておいでと優しく送り出してくれたから。
なのに――使者の言葉を信じて、王宮に留まった私が悪かったのか。
もっと早く戻っていれば。
もっと強い薬を作れていれば。
もっと、もっと――視界が滲む。
涙が頰を伝う。
粉雪は容赦なく降り続き、私の肩を、髪を、白く染めていく。
体が動かない。動きたくない。周りの護衛が駆け寄ってきて、何かを叫んでいる。
「ここに生き残りはいない」
「早く王宮へ戻りましょう」
「聖女様の薬を待っている人がいます」
声が遠い。
全部、遠い。
お婆さんは、最後に何と言っただろう?
「泣いた顔より笑った顔が、ずっといいね」
でも今、私は笑うなんてできそうにない。なぜこの世界に来たんだろう。この世界で生きて何になるんだろう。私を救ってくれたお婆さんは、もういないのに。
私の薬は、本当に大切な人は守れなかった。粉雪が視界を白く覆う。世界が静かになる。
いっそ消えてしまえばよかった。
お読みいただき、ありがとうございました!
最近なにも投稿していないのに、久しぶりの投稿がダークなビターエンドになってしまって大丈夫かなって心配で震えています……。
よ、よかったら下のお星さまをクリックして応援してもらえると元気になります!よろしくお願いします!
【追記】
ここからはハッピーエンドの妄想です。
「勝手に死なせないでおくれ」
「……な、なんで?」
「魔物よけの薬、作ってくれただろう? あれを使って村人全員で避難してたんだよ」
皺くちゃの手がぐしゃぐしゃと私の頭を撫でる。
昔より小さく感じる手は、昔よりもっと皺くちゃで――でも、ぬくもりが伝わってきて、もっと涙がこぼれた。
「まったくうちの弟子は、いつまで経っても泣き虫だね」
それからお婆さんは、私と一緒に王宮に来てくれて、共に薬を作ってくれた。
少しずつ、本当に少しずつだけど、魔物が減っていき、生まれ出る沼そのものを駆逐することができた。その長い年月の中で、魔物を討伐する騎士と恋に落ち、子どもも授かり――
でも、それはお婆さんの年月も経つということで……。
「泣き虫だね。最後くらい笑っておくれ」
「……お婆さん、本当にありがとう」
お婆さんに向かって、精一杯微笑む。
「ああ、泣き虫が笑ったね。泣き虫が笑ったら……わしの娘の一番かわいい顔じゃな」
最後にそう言って、お婆さんは目をとじた。
お婆さん、泣き虫な娘だけど……これからも見守っていてください――












