最下層⑤:ヒカルとめぐる
困惑している間に、エレベーターの扉が開いた。
彼女は変わらず、青年を見つめ、選択を待っている。
青年は何も言わず、エレベーターに歩み寄る。
「あんた、何者だ。」
彼女はまた、口元に困ったような笑みを浮かべ、答えた。
「私はめぐる。ちょっとだけ、そう、ちょっと特別な力があるだけ。いつかの"生きていた時間"を少しだけ再生できるの。」
抽象的な返事だった。ただ一つ明確にわかるのは、名前が「めぐる」だということ。
「あんたのことは、まだ信用できない。けど、上に行くしか道はないってことはわかる。エレベーターに乗せてほしい。」
「上に行くんだね。私もついていくけど、良いよね。」
次に同じように道が閉ざされた時、自分だけでは何もできないだろう。
彼女にしか――めぐるにしか、道を開けない場面もあるだろう。
「良い」と答えるほかに、選択肢はないだろう。
二人でエレベーターに乗り込む。 制御盤はかなり傷んでいて、押せるボタンは1つしかなかった。 今は、上がれるなら何でもいい。唯一のボタンが示す先に向かうほかになくても。
ドアが閉まり、エレベーターが動き出す。
「私のことは、めぐるって呼んで」
「俺は……。」
「キミは……、ヒカル。何となく、そんな気がする。だから、ヒカル。」
勝手に名前を付けられたが、その名前は妙に馴染んだ。 何もわからないまま目覚める前に、そう呼ばれていたのかもしれない。
「それでいい。俺のことは、ヒカルで。」
エレベーターはもう少しだけ上を目指し、数秒後に止まった。




