5/21
最下層④:初めての選択
青年の目を見つめながら、彼女は困ったような笑みと共に問い直す。
彼女は、この場から去る様子はない。
その瞳と問いが、青年をその場に縫い止める。
唯一の退路には、彼女が立っている。
「上がりたいかって……。そんなの分かるわけないだろ。上に何があるかも分からないんだ。何なら、自分が何者なのか、ここが何なのかさえわかっていない。そんな状況で、判断なんて……。」
エラーを繰り返す機械の中で目覚め、壊れたエレベーターに落胆し、見知らぬ少女に選択を迫られている。上には何が待っているか。そもそも自分は何者なのか。この施設は。この少女は。「上に行く」か「行かない」しかないのだ。少女の問いは、苛立ちにかき消されていた。
再び、場は沈黙に支配された。
しばらく待って、少女は言う。
「止まることも、選択だよ。でも、それは“進まない”って選ぶこと。」
そういって彼女は青年に歩み寄ると、そのまま横を通り過ぎ、指先がエレベーターのボタンに触れた。
すると、止まっていたはずのエレベーターが動き始める音がした。
青年が何度押しても反応のなかったボタンは、淡く灯っていた。
彼女は振り返って言う。目を合わせ、口元からは笑みを消し、少しだけ強く。
「さぁ、どうする?上に行きたい?」




