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最下層②:エレベーター前にて

目の前に現れたすべての道は、最初から途絶えていた。


『なんだよ。どっちもダメなのかよ!』


誰にともなく青年は悪態をつく。

古びた施設の中をあてもなく歩き続け、「ようやく先に進めるかもしれない」と思った矢先、道は初めから閉ざされていたのだ。

一瞬だけでも希望を持たされた分、そのダメージは本来のそれよりも大きくなって青年に返ってきた。


彼は、自分でも悪あがきだと分かりながら、左のエレベーターのボタンを何度も、何度も、繰り返し押し続けた。

諦め悪く何度も押し続けるが、エレベーターに変化はない。

左がダメなら右のエレベーターのボタンを何度も押してみた。

一瞬だけでもいい。反応があるかもしれない。

しかし何も反応は帰ってこない。一瞬だけでも光が付くことすらなく、軽くすかすかとした手ごたえが返ってくるだけだった。


青年が諦めかけたとき、ボタンから意識が離れた瞬間、不意に背後に気配を感じた。

エレベーター前に至るまでの道中、人の気配はなかった。

正確には、人に限らず、何者の気配もなかった。

加えて、ここまでは一本道だった。隠れられるような場所もなかった。

しかし、彼の感覚は、正体不明の何者かが、背後のそう遠くない場所にいる事を告げている。


迷っている間に襲われるかもしれない。姿だけでも、確認するのなら早い方が良いだろう。

そう思う一方で、振り返ったことで相手を刺激したらと考える部分もあった。

振り向くかどうか、数秒にも満たない逡巡を経て、意を決して彼は振り返った。


振り返った青年の目に飛び込んできたのは、こちらをまっすぐに見つめる瞳だった。

続いて、わずかに困ったような笑みを浮かべる口元。

柔らかく穏やかな雰囲気の顔立ち。

年の頃は二十歳前後だろうか。断言はできないが、若くはある。

見た目の年齢に不相応な落ち着きと、芯の強さを感じさせるが視線の印象に残る。


肩にかかる程度の明るい茶色の髪。

緑を基調とした動きやすそうな服装。

どこにでもいそうな姿。


気配の主は何の変哲もない少女だった。

しかし、これまでの状況を考えると、そんな少女がこの場所にいることは異常という他ない。

そのせいで、人間と対峙していることに一瞬理解が追い付かなかった。


自然に見つめ合う形になり、静寂が場を支配する。

彼女に逃げる気配はない。かといって、近づいてくる様子もない。

だからこそ、背後に“いる”という事実だけが、異様だった。


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