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3層目⑤:めぐるについて

「『死ぬかと思った』と『生き返った」って共存するんだな……。」


拝借した服に着替えたヒカルが、タオルで髪を乾かしながら居間に戻ってきた。

庭に続くガラス窓の外は、完全に暗くなっていた。

街灯はないが、代わりに月の光が庭を照らしている。


「おかえり。悲鳴、ここまで聞こえてきたよ。」


テーブルの上に何かを並べながら、めぐるは茶化すように言った。

ヒカルは「思ったより冷たかったんだよ。」とぶっきらぼうに言うと、テーブルに視線を運ぶ。


「何を並べてるんだ?」

「キッチンを探したら、缶詰とか、レトルトとか、非常食?が見つかったんだ。おなか空いてない?」


適当な缶詰を持ち上げながら、めぐるは首を横に少し傾けた。

食事の話題に反応してか、ヒカルの腹の虫が「ぐぅ」と声を上げる。

かなり遅れて、腹の虫も目覚めを迎えたようだ。

ヒカルは、目覚めてからここまで、水分しかとっていないことを思い出す。


「空いてるみたいだね。一緒に食べよう?」


めぐるは席に着くと、手招きしてヒカルを待つ。

遅れてヒカルが席に着くと、二人は手を合わせてから食事を開始した。


手に取った缶は「カシュ」という軽い音とともに、保存用に濃く味付けされた匂いを辺りに広げた。

レトルトの封を切ると、芳しい香辛料の匂いが広がった。

主食らしいものもなく、温かくもない食事だが、空腹のヒカルには十分にごちそうだった。


「そういえば、お前も食べるんだな。」

「要らないのと――」

「そうだったな。すまんすまん。」

「そういうこと。」


薄暗く、視覚の情報が少ないせいか、あまり食べた気はしなかった。

しかし、その分だけ味わうこと、話すことに意識が向いた。

他愛もない雑談を挟みながら、食事が進んでいく。


「なぁ。」


ヒカルは缶をテーブルに置いた。


「お前の能力って――」

「そのお前って言うの、気になってたんだ。」

「―は?」

「自己紹介したでしょ?『めぐる』って。」

「……。……っ。」


ヒカルが黙った。そして何かを言おうとして、やめた。


「どしたの?」

「いや、前にもこんなやり取りしなかったか?」


めぐるは、考える素振りをして答える。

外から差し込む月の光が弱くなる。どうやら雲が挿したらしい。

テーブルの向かいにいるめぐるの表情が見えなくなる。


「……してないよ?デジャブってやつじゃないかな。それより、名前で呼んでよ。」

「あ、あぁ。めぐるのその能力って、なんなんだ?」

「なにって、前にも言ったでしょ?『いつかの"生きていた時間"を少しだけ再生できる』って。」


めぐるは、何でもないことのように答えた。

ヒカルは確かに、以前にも同じ説明を耳にしている。

エレベーターに乗るとき。千切った蔓を治すときにも、似たような説明を聞いた。


「それじゃわからないって。」

「……うーん。どう説明したらいいかな。少しだけ時間を巻き戻すような、早送りするような、そんな感じ?」

「元に戻すのとは違うのか?」

「似てるけど、ちょっと違うかな。例えば、食べちゃった缶詰は元に戻せない。でも、錆びた缶は戻せる。温室の植物も、千切れる前には戻せなかったでしょ?」


言われてヒカルは思い出す。確かに、千切れた蔓は元通りではなく、「しばらく時間が経過した」ような形だった。

話しているうちに、再び居間に月の光が差し込む。

ヒカルがまた口を開く。誰でも思い浮かべる質問と共に。


「何でも戻せるわけじゃないんだな。じゃあ、例えばだけど、死んだ人を、その、生き返らせるとか――」


ヒカルはその先を口にすることはできなかった。

めぐるの表情が、今までに見たこともないくらい、悲しげな表情を浮かべていた。


「――悪い。軽率だった。」

「ううん。誰だって考えると思う。でも、それはやっちゃいけないんだ。ソレは、大事なものを、否定することになっちゃう…。」


めぐるはそれ以上何も言わなかった。

食事の時間は終わり、どちらからともなく立ち上がる。


「ごめん。」

「ううん。大丈夫。ポスターの部屋、ベッドがあるし休んだ方がいいよ。疲れてるだろうし。」

「……。そうさせてもらう。」


重い空気の中、ヒカルは居間から立ち去った。


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