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3層目④:拠点確保

「しかし、寝床って言ってもなぁ…。」


藍色の空の下。

ヒカルは顎に手を当て、「どうしたものか」と呟いたきり黙り込んだ。


公園に着くまでの家は、全て施錠されていた。

ドアや窓を壊して入る手もないことはない。

しかし、壊して入るのは流石に避けたいところだ。

誰にも遭遇していないが、用心するに越したことはないだろう。


「ふっふっふ。ヒカルは都会っ子だなぁ。」

「どういう意味だよ。」


黙り込むヒカルを見て、めぐるは勝ち誇ったように笑う。


「途中で玄関の横に植木鉢がある家あったでしょ?」

「近くにあったな。」

「多分だけど、あの植木鉢の下に玄関の鍵あるよ。」

「そんな不用心な……。」


「まぁ着いておいでよ」と自信満々に言い放ち、めぐるは歩き出した。

他に宛があるわけでもなし、ヒカルはその後ろに続いた。


数分歩くと、少し古いたたずまいの平屋の前でめぐるは足を止めた。

胸元より少し低い門扉。その数歩先には玄関扉が見える。

その足元には小さな植木鉢。


「ただいまー。」

「お前の家じゃないだろ。」


門扉を開けながら、おどけた調子でめぐるが先陣を切る。

植木鉢には何も植えられていなかった。

土は乾ききっており、完全に干上がっていた。

めぐるは、ヒカルに植木鉢の下を確認するよう促す。


「からっからに乾いてるな。」

「ちょっと前のヒカルもいい勝負してたよ。」


恨めし気にめぐるに視線をやると、めぐるは目をそらした。

植木鉢に向き直ると、ヒカルは「本当にあるのかよ。」と訝しげに呟く。

植木鉢に手を添えると、驚くほど軽く持ち上がった。


「マジかよ。」


そこには飾り気のない鍵が一本置かれていた。


「何でわかったんだよ。」

「そういうもんなんだよ。」

「なんだよそれ……。」


「ちゃんと説明するとね、土だけの植木鉢って、変じゃない?」

「別に、どこにでもあるだろ。種が植えてあるとか、枯れたとか。」

「枯れたならソレが残ってるし、種なら水をやるよね?」


「なるほど。」とヒカルはつぶやき、理解した。

尋常ではなく乾いていて、枯草もない。

植木鉢としては使われていなかったということだろう。


「そこまでわかってたなら、行きで教えろよ。」

「そしたら公園行かなかったでしょ?」

「くっ……。」


ヒカルは図星を突かれた。

疲労もある。のども多少潤った。

そんな中で休める家があれば、間違いなく休んでいっただろう。


「そ、そんなことより、さっさと入ろうぜ。暗くなってきたし。」


ヒカルは鍵を開けると、「あ、ごまかした。」という声と、日の沈んだ空を置き去りにして家の中へと急いだ。

少し埃っぽい空気。

薄く土埃が張り付いた土間。

廊下が奥に向かって伸びており、左右にいくつかの部屋が見える。

ヒカルは壁のスイッチに触れるが、ライトは点かなかった。


「ダメか。まぁ予想はしてたけど。」


靴を脱ぎ、廊下を進む。

炊事場、居間、寝室、風呂、いくつかの部屋。

積もった埃や、色あせたサッカー選手のポスター。

人が"暮らしていた"痕跡が、あちこちに見て取れた。


「どんな人達が住んでたんだろうね。」

「多分、親子だろうな。」


ヒカルは、ポスターの部屋で箪笥を開ける。

青年向けの衣類を見つけると、適当に上着と肌着を見繕う。


「サイズは……、合いそうだな。ありがたく借りさせてもらおう。」

「着替えるなら脱衣所でやってね。」

「ついでに風呂も借りてくる。」

「給湯器、動くかな……?」

「この際、冷たくてもいいさ。水があるだけ贅沢ってもんよ。」


ひらひらと手を振りながら、ヒカルは浴室に向かっていった。

数十秒後、ヒカルの悲鳴が静寂を切り裂いた。

思ったより冷たかったらしい。


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