3層目②:自販機前
「町、かな。」
「みたいだな。誰かいるかもしれない。けど、まずはアレだ。」
めぐるが鉄扉を閉めながら、ヒカルに声をかける。
ヒカルは答えながら自販機の方に向けて歩き出した。
初めての"人"の気配。
待ちかねた"水"の気配。
心なしか、ヒカルの足取りは早い。
めぐるも、遅れないように後ろをついていく。
片方の自販機は赤く、もう一方は白い自販機だった。
両方とも壊れているのか、ボタンに光はなく、自販機に特有の低いうなり声も聞こえなかった。
ヒカルは"ダメもと"で二台のボタンを押し、釣銭レバーを下げ、最後は軽く自販機を叩いてみた。
残念ながら、自販機は無情にも沈黙を貫いている。
「二台とも、ダメそうだね。」
めぐるの声に、ヒカルは自販機からめぐるに視線を移す。
その目には、明らかに期待がにじんでいた。
「なぁ。その――」
「直してみようか?」
「――あ、あぁ。悪い。頼めるか?」
「お金持ってる?」
ヒカルは目を見開いた。
ここにきて初めて、めぐるは金の話をした。
今まで何も言わなくても能力を使っていたのに。
弱みに付け込んで足元を見る気か。
「金取るって言うのかよ。ふざけんなよ。」
「違うよ。飲み物買うのにお金あるかなって。」
そんなことはなかった。
ヒカルは少々バツが悪そうにしながら、ポケットの中を探った。
ポケットからの返事はない。文無しのようだ。
一縷の望みに賭け、自販機の下をのぞこうと膝をつく。
「なかったんだね。そこまでしなくても大丈夫そうだよ。」
めぐるはクスクス笑いながら、白い自販機の前に立つ。
「コレ、災害自販機みたい。コッチ直そう。」
ヒカルは「笑わなくてもいいだろ」と悪態をつきながら、膝の砂埃を払い立ち上がる。
めぐるは「ゴメンね」と謝った後、以前と同じように手の先に光を集め始めた。
手が触れると、自販機は呼応するようにうなり声をあげ、ボタンを光らせる。
ヒカルの目にも、希望の光が灯る。
上から下までサンプルを眺めていると、めぐるの手が割り込んできた。
「ピッ」という音とともに、光が消えた。
自販機は、ガコンという音とともに飲み物を吐き出し、再び眠りにつく。
「おい!」
ヒカルは思わず、自分でも少し驚くくらい大きな声を出した。
めぐるは意に介さず、飲み物を取り出し、ヒカルに差し出す。
「ジュース買おうとしたでしょ。今はこっち。」
無言のまま受け取り、急いでキャップを開けて口を付ける。
もう何でもいい。ラベルを確認する間も惜しい。
甘さと塩気がのどを伝い、渇きを癒していく。
中身を一気に飲み干すと、大きく息を吐いた。
しかし、まだ足りない。
ヒカルが飲み干す間に、めぐるがもう一本飲み物を取り出していた。
「なぁ、それ――」
「だーめ。ヒカルにはソレで十分。必要な分だけ、でしょ?」
「――そんな…。」
空になったスポーツドリンクの容器に視線を落とし、ヒカルは小さくこぼした。
「一気に飲んだらお腹壊しちゃうよ?それに、これは私の分。」
「そういうのないんじゃなかったのかよ。」
「ないのと要らないのは別。それに、一本くらいならバチも当たらないでしょ。さ、次にいくよ!」
そういうと、めぐるはヒカルを置いて歩き始めた。
ヒカルは名残惜しそうに自販機を見た後、ボトルを握ったまま歩き始めた。




