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タイムパトロール・アーム(04)

「大変だあああ!客だあああ!」


アームがてんてこ舞いになってコーヒーの豆を探している。こいつは駐在所の警察官なのにやることがなさ過ぎて来客のときのためのコーヒーばかりこだわっていて、時間流の中にぽこっと喫茶店が浮いているのだろうかといつも思う。時間流の中にある駐在所だから通る人がいても為替とか通貨が違い、両替はしてないから商売にはならない。


なんでもアームは最初どこかで諜報員をやっていたらしいが、どうにも職場とそりが合わなくて別の部署に行きたいと上役と相談したらこの駐在所に押し込まれた。こんなところでやることがあるわけないでしょう、なんでわからないかなあ、と自分のことは棚に上げて呆れる。その当時の諜報部の誰かが、多少なりとも事情がわかる人間ということで立ち寄るらしい。駐在所の前に、特殊仕様の大型タイムマシンが止まり、いかにもな諜報員が出てきたのだが。


「なんだ、お前か」


エージェント・ウォルナット、というらしいその人は、木の実を手の中でコロコロと回しながら駐在所に入ってきた。後ろには大男、ムキムキマッチョの強そうなヤツを連れている。なんでも時間流は一方向にしか流れないのでこの一点なら案外単純で、これに空間の考え方を足していくとどんどんややこしくなる。後ろの大男は、どこかの位相空間に住んでいた者だが悪魔と取引をして力をもらったらしい。強いという割にはこめかみのボルトや縫い傷がたくさんあるのだが、取引する前にボコボコにされたもので取引した後は負け知らず、というのが本人の言い分だ。たぶん大したヤツではない。


ウォルナットさんはすかしたばかりの嫌なヤツで、前の職場では話すことがあってもいがみ合っていた。来客だから対応するだけだ、とペットボトルからお茶を注いでアームが渡した。ウォルナットさんは、こんなところで無様なものだなあ、と上から目線。私とマッチョ男は、横にちょんと並んで二人の言い合いを見ていた。諜報部というのはそもそもが超法規的な手段を考える場所なのでどんなふうにどうするという話が常に付きまとう。それは現場の諜報員に一任されていて、何をどれくらい、の制限がないから「それはダメだろう」と自制する人から無茶苦茶をする人までかなり多様で、ウォルナットさんは後者なのだという。脅迫、恐喝の類でも法の外であれば誰も止めない。アームとウォルナットはかなり険悪で、これなら客なんていない方がまだマシだ。隣の大男は見ているのがつらくないのだろうかと思ったら「雇われているから」とやはり嫌々らしいことを語っていた。ウォルナットさんいわく、ここでタイムマシンの保守点検を行い、一日ほど休んだら次のポイントに飛ぶというのでアームがとんでもない勢いでタイムマシンを直し始めた。今日中に!のつもりらしい。休みたいというなら今休めと言われてウォルナットさんは何もしていない。どうやらアームはあまり腕がよくなかったようだ。


ウォルナットさんはそれをどうとも思わないらしくて、のんびり眺めていた。ああ、前の職場がなつかしい。思っていたよりいい場所だったらしい。「大事にしなくてはな。愛しき体、愛しき命」と知ったかぶるウォルナットさんはほっといて、大男とキャッチボールをして暇をつぶした。アームとやるとなぜかドッジボールに変化していくからのんびりやることが滅多にない。


ウォルナットさんは、必要な書類だけを置いて夕方には出て行った。あんなのでも相手にしないとどこかで問題になるから大変だ、とアームがぼやいていて、私はウォルナットさんが置いていった資料を見ようとしたら、アームがひったくってパラパラとめくった。


「まだこんなことしてるのか」


ゴリゴリの誤情報らしい。こういうのをそれらしく流して敵陣に蜂の巣を突っついたような大騒ぎを起こさせてその間に漁夫の利をさらう。諜報員の中に、そういうのが普通だと思っている人がたくさんいるらしい。「前の職場でそう教わった」というアームはたぶんとかなんとなくて言っているらしいから、やっぱり腕が悪いんだ。


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