タイムパトロール・アーム(16)
「大変だあああああああ!」
またかよ。ようやく名前がまずいとか思い始めたの?と聞く以前にレイコがてんやわんやの大騒ぎ、通話の相手の様子が何か知らんけどなんとなくわかったらしい。おかしい!絶対にいつもと違う!とレイコは珍しくも交番の隅っこでしくしく泣いていたのだが、泣いていても仕方がない。だってここは時間流のど真ん中で涙が流れても時間の流れは変わらない。そのうち「もう仕方ないかあ」と割り切っていたようだがわかったらまた大変な騒ぎ方をする。「パニックがテーマでそんなに増えるのか」という疑問があったこのシリーズなのに毎日のように増える。一か月前に立ち上げていたら、100に迫るくらいあったはずだがそれはたられば論だ。全部個人のパニックなのにどれだけパニクるんだ。
通話の相手はいつもと様子が違った。どうやらやたらめったら肝を冷やしていたらしく、「微力ながら応援するけどがんばってね」みたいなことらしい。嫌われてたんじゃないならよかったじゃないか。でもレイコは「これからが正念場なのは向こうも同じ!」とまだ騒いでいる。俺だってもうすぐ本部の合同稽古で鬼のような相手と組手みたいな話がある。殺されはしないと思うが心臓が止まらないだけでほぼ死ぬかもしれない。逃げようかとも一回思ったのだが。
「滅多にできないし、行ってくる」
あそこの道場は少し強いくらいでは入れない。ボコボコにされても、涙が流せるならたぶんその方がいいしな。




