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ナイショで離婚しましたので、白い結婚が崩壊しました

作者: 三香

 リリーラはカミル子爵家の長女だった。

 家族仲はよくない。リリーラが先妻の娘であったからだ。

 虐待はされなかったが、薄遇はされて育った。貴族の娘としての教育はされたものの、屋敷の片隅で一人ぼっちだった。社交界に出たこともないので友達もいない。使用人も主人である子爵が粗雑に扱う娘に対して仕事以上の感情を向けることもなかった。


 そんなリリーラは15歳で、泥水を呑んだように胸が重苦しくなる結婚をした。

 形式的な妻が欲しかった青い目の若く美しいマイロス伯爵と。

 後妻が産んだ次女を後継者にしたいカミル子爵との思惑が一致したのだ。

 リリーラの意思も幸福も無視をした家と家との契約であった。家の利益を重視する結婚は貴族の娘としては珍しくないが、リリーラにとっては暗澹たる未来しかなかった。

 

 家族だけが出席して、リリーラとマイロス伯爵が神殿に登録しているお互いの血を確認する質素な結婚式であった。その後、リリーラの住居はカミル子爵家の片隅からマイロス伯爵家の敷地内に建てられた小さな小屋へと移った。

 ただし本邸には、マイロス伯爵の平民の愛人がリリーラの名前で本妻として住んでいた。そしてリリーラは愛人の名前であるエリーゼを与えられて、庭師の夫との結婚生活を命令されたのだった。

 もちろんカミル子爵も承知である。カミル子爵は、マイロス伯爵より援助金を約束され、しかも邪魔なリリーラを屋敷から追い出せて一石二鳥であったからだ。

 強引な成り代わりであったが、社交界でリリーラの容姿を知る者はいない。亡き母親の実家とも地理的に距離があって疎遠であり、カミル子爵家の親戚とも子爵が交流を許さなかったので誰もリリーラの顔を知らなかった。


 貴族は血筋を大事にするので、どの貴族も神殿で誕生時に血の登録をしている。血の登録は大陸全土に力を及ぼす神殿の秘匿技術で、各国との技術レベルの発展度合いが別世界のように差がある知識であった。

 本邸にいる偽者のリリーラが本物ではない、と発覚する可能性があるとすればこの血の登録を調べるくらいだが、偽者のリリーラが当人認証のために神殿まで血の登録の証明に赴く理由はない。


 故に。

 偽者のリリーラは本邸で華やかに暮らし、継嗣まで産んで。継嗣のお披露目のパーティーではカミル子爵一家との家族仲の良さを積極的に印象付けて、招待客の誰もが偽者のリリーラが本物ではないと疑うことはなかった。

 一方で本物のリリーラは、庭師の夫ジャスとつつましくひっそりと日々を送った。下手にマイロス伯爵の監視が強化されて監禁などされないように。最悪の場合、疎ましい存在であるリリーラは処分をされかねない。カミル子爵もマイロス伯爵もリリーラに対しての利用価値は残っているらしく、リリーラは生き延びていられる現状であるが油断はできなかった。リリーラの行動は慎重で用心深くなっていった。


 ジャスは最初からリリーラに同情的だった。

 常に見張りたちがいたので、表面上はリリーラを小屋に閉じこめて乱暴に振る舞った。夜も同じベッドで眠ったが、全ては演技であった。

 小屋に閉じこめたのは危険を避けるためであり、荒々しく料理や掃除を命じたのは教えるためだった。リリーラも了解していて、虐げられる妻を上手に演じていた。

「いつまで貴族の令嬢の気分でいるんだ。いいか、野菜はまず水洗いをするんだ(怒鳴ってごめんよ、リリーラ)」

「すみません、すみません(教えてくれてありがとう、ジャス)」

 布で覆っている窓の外まで聞こえるように怒鳴るジャスと謝罪するリリーラ。布は四六時中のぞかれていると落ち着けない、とジャスが取り付けたものだった。見張りたちは渋い顔をしたが、監視の目的はリリーラとジャスを逃さないことである。ぶっちゃけリリーラとジャスの所在が把握できればいいのだ。

「うるさい! 生意気なんだよ! バシン!(自分の腕を叩くジャス)」

「きゃあぁぁ! ガシャーン!(派手な音を立ててわざと倒れるリリーラ)」

 ジャスとリリーラの二人劇は迫真で、見張りたちは騙された報告をマイロス伯爵に届けることが日課となっていた。


 一度だけ、カミル子爵がリリーラの様子を見にきたことがあった。側には異母妹がいた。

 小屋の裏の井戸で粗末なワンピースを着て洗濯をするリリーラの姿にカミル子爵は満足そうな表情をして、異母妹は露骨にリリーラをあざ笑った。

「なんて見窄らしいお姉さま!」

 嗤いながら投げた扇子は、リリーラの頬を直撃した。続けて異母妹は拾った石を投げる。

「や、やめて……!」

 弱々しい悲鳴をリリーラがあげた。

「そーれ、それ!」

 ますます愉しげに高笑いをする異母妹。

「これ、やめなさい。リリーラには役目があるのだから傷つけてはいけないよ」

 と咎める口調だが、カミル子爵は本気で異母妹を止めていない。

「なにをしているんだよ!? 顔しか取り柄がないのに、夜の楽しみが減るじゃないか!」

 駆けつけたジャスは下卑た台詞を放つが、立つ位置はリリーラの前である。

「遊んでいたのに!」

 最後に異母妹が投げた石はジャスの額にあたった。血が流れ、ゆっくりとジャスが片手を持ち上げて額を押さえる。指の隙間から覗く青い目が異母妹を睨んだ。冬の凍った湖面のように冷たい。ジャスの鋭い眼差しに異母妹が怯む。

「……痛ぇな」

 恫喝するみたいにジャスの低い声が地を這った。自分の傷よりもリリーラの頬が赤くなっていることにジャスは怒りを抑えきれなかった。

 ジャスの残る片手は異母妹に掴みかかりたいと指が鉤型になったが、ギリギリのところで踏みとどまった。爪が手のひらに食い込む。

「興醒めよ! つまらないわ!」

 ドレスを翻す異母妹。帰っていくカミル子爵と異母妹の背を見つめるジャスの視線は昏く歪んでいた。


 その夜、カミル子爵家の紋章入りの扇子がマイロス伯爵の寝室から発見された。ベッドの横のチェストに置かれていたのを見つけた偽者リリーラことエリーゼは浮気を疑い、マイロス伯爵と喧嘩になった。かなり派手な喧嘩で、うっかり口を滑らせた伯爵によって別件の浮気が発覚して大騒動となった。ギャンギャンと責め立てるエリーゼ。もともと嫡子が自分に似ておらずマイロス伯爵家に伝わる海のような青い目でもなかったことに不満を溜めていたマイロス伯爵はうんざりとしてエリーゼを罵り、二人に大きな亀裂が走ったのだった。


 八つ当たりにエリーゼは、社交界に異母妹がフシダラな令嬢だとの噂を流したのである。その系の噂は令嬢にとって命取りに近い。異母妹の求婚者たちがマトモな令息から悪質なタイプへと変化して、とあるパーティーで強引に言い寄られて怒った異母妹が感情を爆発させる場面があった。相手が遊び人であっても高位貴族だったことが不運だった。こうしてフシダラでヒステリックという噂は勢いよく広がり、

「訂正してよ、友人でしょう! 私は可愛くて貞淑で素敵な令嬢だって周りに言ってよ!!」

 と異母妹がお茶会で周囲に強要したので、フシダラ・ヒステリック・ワガママ・ゴーマン・サルヂエ・ジゴウジトクと噂が噂を呼んで悪名が日々増加して悪循環となってしまったのであった。


 そんなこんなで3年。

 反抗もせずおとなしいリリーラにマイロス伯爵の気がゆるみ、見張りの人数が減った頃であった。


 輪郭が滲んだようにぼんやりと霞む朧月の下、明かりも持たずに闇をついて街路の石畳を急ぐ男女がいた。店は看板を下ろし、家々の明かりは消えている深夜である。夜間巡回の兵士はいるが、人目を忍んで愛をささやく恋人たちも危険を冒すことをしないような時間だった。


 闇にとけこむ黒猫のように影を縫い、人気のない道を選びながら進むのはリリーラとジャスであった。


 密かにマイロス伯爵家の屋敷を抜け出したリリーラとジャスは、真夜中の神殿に駆け込んだのである。伝説の世界樹が彫刻された神殿の巨大な扉は昼も夜も閉まることはない。神官も夜番の担当者がいた。


「白い結婚による離婚の申請にまいりました」

 リリーラが神官に申告した。

「白い結婚? そちらの男性とですか?」

 神官が尋ねるとリリーラが首を振って答える。

「いいえ。彼は付き添いです。私はカミル子爵家長女のリリーラと申します。マイロス伯爵と3年前に結婚をしましたが、白い結婚でした」

 白い結婚は3年で離婚できる。だが、神官は眉根を寄せた。

「それはあり得ません。マイロス伯爵様と妻リリーラ様との間には嫡子ファレイル様が誕生しておられます。ファレイル様の血の登録も済んでいます」

「マイロス伯爵の妻のリリーラと呼ばれている女性は、本名をエリーゼと言います。伯爵の愛人です。私に成り代わってリリーラと名乗っているのです。平民の愛人を正妻にしたかった伯爵の策略であり、カミル子爵家も承認しての計画です」

 驚愕した神官が目を見開く。


 そこでリリーラは過去の経緯を告げた。

 カミル子爵家での薄遇。

 マイロス伯爵家での軟禁に近い待遇。

 誰もリリーラを知らなかった故の成り代わりの成功。パーティーでカミル子爵が偽者を本物のリリーラとして扱ったことから、偽者が容易に本物として社交界で認められたことまで。


 リリーラにとって白い結婚は、カミル子爵家とマイロス伯爵家の心臓へと突き刺す武器であった。


「まさか……、そんなことが……」

 貴族家のお家乗っ取りと等しく貴族の血筋の成り代わりは大罪である。減刑する余地がない。それを理解している神官は全身をわなわなと震えさせた。

 あえぐように唇を開いては閉じて言葉を探す神官に、リリーラが頭を下げた。母親の遺産として隠し持っていた多額の金貨を差し出す。

「どうかカミル子爵家長女リリーラの血の登録の確認を、私の血でさせてください。私が紛うことなきリリーラ本人であるならば一致するはずです」

 重々しく神官が頷く。

「わかりました。貴族家の血に関することは重大な由々しき問題です。すぐに準備をいたします」


 あわただしく神殿中で灯りが灯った。

 人知をこえた運命を描いた壮大な天井画、永遠のはじまりを象徴する巨大な神像、光を集めて作られたみたいに美しいステンドグラス、荘厳な大聖堂の内部が数多の蠟燭の火によって暗闇に浮かび上がる。

 ゾワリ、と肌が粟立つような凝縮された威厳と重厚さがあった。

 就寝していた神官たちも起きてきて、証人となるべくリリーラの血の確認を見守った。それほどに貴族の血筋確認は重要なのである。


 結果として。

 リリーラは、カミル子爵家長女のリリーラであり、マイロス伯爵家の正妻リリーラであると承認された。

 くわえてリリーラが白い結婚であることも医師が診断をして証言をした。

 つまり、リリーラは子どもを産んでいない。

 すぐさま王宮へと神官が走った。

 血筋の成り代わり犯罪は王宮の管轄となる。

 同時に神殿は白い結婚による離婚の許可をして保護を決定した。

 これまでの過程の詳細からリリーラの離婚が発覚すれば、カミル子爵とマイロス伯爵家が口封じに動くのは明らかであった。罪が暴露されれば、それぞれの家に重い刑罰が科せられる。貴族の身分が維持できるかすら危うい。


「お願いいたします。カミル子爵家から除籍してくださいませ。カミル子爵家でも酷い目に……。異母妹との格差もつけられて育てられて……。異母妹から石をぶつけられたことも……。とても耐えられません。平民として遠くへ逃げたいと考えております」

 磨きをかけた演技力を無駄にするのはもったいない、と哀れっぽく啜り泣くリリーラ。見る者の心臓を鷲掴みするほど痛々しい。糸の切れた首飾りの真珠の珠のように涙がほろほろと散らばった。

「一人での逃亡は難しいのでこちらのジャス様と夫婦となり、人目を欺いて逃げとうございます。彼は実の兄から冷遇をされておりまして、それで王都から出たいと……。どうかお助けくださいませ……」


 沈黙していたジャスが一歩進む。

「僕はマイロス伯爵家の次男です。父上が生きておられた頃は普通の兄弟でした。しかし父上の死後、兄は『優秀な弟はいらない』と僕を病気療養の名目で小屋に押し込み、身分を庭師としました。血の予備として生かされていましたが、常に厳しい監視がありました。どうか僕の血の確認もお願いします」

 ジャスも袋いっぱいの金貨を神官に渡した。3年間の粗野な口ぶりが嘘だったかのように礼儀正しい。

 兄のマイロス伯爵も知らない祖先の隠し財産の場所をジャスは知っていた。庭師として働いていた時、偶然にも庭園の彫像の下に埋まっていた箱を掘り起こしたのだ。見張りの目があったのですぐに埋めなおしたが、今夜ジャスが肩から斜めにかけている厚手の布で仕上げた丈夫な鞄には丸ごと隠し財産が入っていた。


 当然ジャスも、マイロス伯爵家の次男だと証明された。神官たちがどよめく。騒ぐ声が嵐のごとく大聖堂で渦巻いた。


 リリーラとジャスを憐れんだ神官たちは協力的だった。特に神官長は、自身も卓越した秀でた才を兄弟から嫉妬されて神殿に入れられた過去があったので助力を惜しまなかった。

 神殿は迅速に対応してくれて、逃亡するための手配も整えてくれた。貴族籍の管理は王宮の仕事だが、誕生から死亡までの平民を含む全国民の戸籍を組織的に総べているのは神殿である。

「ありがとうございます」

 神殿が発行した新しい夫婦の身分証を手にして、リリーラとジャスが深く感謝の礼を執る。

 こうしてリリーラとジャスは、その夜のうちに星空を背中にして王都を離れた。神殿はリリーラとジャスの安全を優先したのだ。


 翌日、カミル子爵家とマイロス伯爵家には騎士団が突入した。騎士隊長は、捜査期間中は屋敷を騎士団が包囲して外出は禁止される、という命令書を読み上げた。

「リリーラには虚言癖があるのです! 我々は無実です!」

 脂汗を流してカミル子爵もマイロス伯爵も罪を認めず反論をしたが、マイロス伯爵家には偽者のリリーラがいるのである。本物のリリーラがおらずとも、偽者のリリーラが動かぬ証拠となる。それに逃げ去ったリリーラが本物であるという証人には、多数の神官がいた。医師の診断書もあった。


 何よりも神殿の表明に異議を申し立てられる者は王家にすらいない。基本的に神殿は様々な角度から事実を調べて裏付けをきちんと取る。リリーラには白い結婚という事実があり、緊急性があったから手助けをしたが、真偽においては一方的な情報源だけで神殿は決めることはない。

 王宮も広範囲な情報収集をして現状や実態を詳しく調査をした。


「どうすれば! 外部と連絡することもできないから対策を講じることもできない! 聴き取りのために使用人たちも問答無用で連れて行かれた! クソッ、リリーラめッ!!」

「ファレイルが青い目であれば! ジャスを処分していたのに! そうすればバレることなどなかったのにっ!!」

 階段から転げ落ちるみたいな末路が予想できてカミル子爵とマイロス伯爵は頭を抱えたが、もう遅い。長きにわたって耐え忍んで機会を狙っていたリリーラとジャスは、指の隙間から零れ落ちた砂みたいに姿を消してしまっていた。


 10日後。

 調査の結論として、リリーラとジャスの証言内容は事実であると立証されたのである。


「国王陛下の決定である、爵位と領地を剥奪する。貴族の血を蔑ろにする者は、貴族でいる資格はない。ましてや自身の家族に対する情すらない者が、領民の上に立つなぞ虫酸が走る」

 騎士隊長の命令のもと、騎士たちによって荒々しく屋敷から追い出されるカミル子爵家とマイロス伯爵家。

 

「爵位も領地も没収されるなんて……!」

「信じられない……! 財産まで……! それもこれもリリーラが逃げたせいだっ!!」

「貴族の娘なのだから、お姉さまは家の犠牲になるくらい我慢するべきよ! 酷いわ!」

「あたしのドレス! 宝石も! 何もかもが無くなるって嘘よ! 何よ! 何よ! 処刑されないだけ有り難いと思え、ってエラソーに!!」

「屋敷を返して! 使用人がいない生活なんて出来ないわ! 平民なんて嫌よ! あたくしは貴族なのよ、汚らわしい平民ではないわっ!!」

 口々に喚くが、カミル子爵家とマイロス伯爵家に味方する者はいない。貴族社会は没落者に容赦がない。それが罪人ともなれば尚更に。


 そしてカミル子爵家とマイロス伯爵家が所持金も行く宛もなく我が身の不幸を嘆き、絶望と怒りに震えて途方に暮れていた同時刻。


 リリーラとジャスは隣国の森の中にいた。


 周囲を木々で覆われ、ゆるやかな傾斜の岩盤上を幾条もの流れが水模様を描いて流れる姿が優美な滝の側でリリーラとジャスは休憩をしていた。

 水の飛沫。

 苔むした岩。

 風の音。風が戯れる木々の細い枝が揺れる。

 太古の巨獣の足跡のように深い滝壺は奏でられる滝の音が心地よく、透明感のある陽射しを受けて清澄な静かさをたたえて幻想的であった。


 蝶々が一匹、水面すれすれに花びらのように飛んでいく。川面を渡り終えると空高く鳥のごとく舞い上がった。


「綺麗な場所ね」

 とリリーラがしみじみと言う。

 リリーラの人生で、悪いことは勝手に向こうからたくさんやってきた。だからリリーラは数少ない良いことを抱きしめることにしていた。

 離さないように。

 離れないように。

 優しいジャスはそこにいて。

 自分はジャスの隣にいる、幸せ。

 リリーラは、人生の最大の良いことであるジャスに笑いかけた。

「ねぇ、ジャス。この国を越えて次の国まで行くのでしょう?」

 ジャスも笑い返す。とろけるような笑顔が幸福に崩れ、どうしようもなく愛しいのだと物語る。

「なるべく遠くへ。杞憂だと思うけれども、カミル子爵家とマイロス伯爵家の手が届かない遠い場所へ行こう。それに目的のイマヴァント王国は新国だから移民も多い。紛れ込むにはちょうどいいんだ」


「さぁ、そろそろ行こうか?」

 ジャスの差し出された手に手を重ねると、自然と目が合う。視線が交わる。

 リリーラが微笑んだ。

「ジャス、ずっと手を繋いでいてね」

「リリーラが嫌だと言っても離さないよ」

「そんなこと言わないわ」

「絶対に?」

「絶対よ、ジャスが大好きだもの」

「僕もリリーラを愛している、初めて会った時から」


 この先にどのような困難があろうとも繋いだ手を離すことはない、とリリーラとジャスは指と指をぎゅっと絡めた。

「同じ幸せを見ようね」

 足元の枯れ葉が踏まれて鳥の羽ばたきみたいな音を鳴らす。

 そうして、新しい未来へとリリーラとジャスは歩き出したのであった。

読んでいただき、ありがとうございました。





【宣伝・第一弾】

短編のコミカライズ(電子)なので短いですが、艷やかなダリアの花みたいに綺麗で甘い香りの苺のように可愛い絵の先生が描いてくださっています。


「隅っこの綿ぼこり令嬢は、隅っこが好き!」

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作家名 オルハシ七澄先生


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作家名 逆木ルミヲ先生


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「うふふ、踏みつけられたままでいると思っていたのですか?」

出版社 一迅社

作家名 黒助くい奈先生


どうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
逃げなくても両家は犯罪者として処罰を受けるし、二人で伯爵家を継げば良かったのに〜と思いました。 そうじゃなければ彼が次男である必要は無いかなと。 貴族と偽った平民の罰が軽かったのも何故かなと。
リリーラがカミラ子爵家に偽の結婚を申し込む→預かる →偽物と本物が入れ替わる こんな理由がないとそもそもこんなこと起きないと思う
でもこれ理由がないとこんなことされないと思う。どんな事情があったんだろう? この逃げてる二人が悪いってことはないのかな
感想一覧
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