74話 黒い影
地の津波は一度では終わらなかった。
第二波、第三波と続く。
死体となった赤火の個体が、衝撃によってあちらこちらに散らばっていく。
ファイアベアは斎藤を近づけないよう、距離をとっていた。
バチン!!
電撃の鉤爪が、飛ぶ斬撃のように地面を抉る。
「もうめちゃくちゃだ!!」
堺は召喚したファイアベアの毛を必死に掴み、轟音と激震に耐える。
スッ…
ふと、揺れがおさまった。
目を開くと、斎藤がファイアベアの顎を膝蹴りしていた。
天を仰ぐファイアベアの頭。
体がひっくり返りそうになったが、かろうじて堪える。
「グォォォォ!!!!」
怒り狂い、全身の毛が逆立つファイアベア。
天に青雷がほとばしり、地には青炎が広がっていく。
「こんなの、、無理だろ…」
そう堺がつぶやいた時、
一つの影がファイアベアに向かっていく。
目の錯覚かと思う程に速い。
「って……人だ!」
人と認識したと同時、その人は勢いに任せて何かを投擲した。
黒い槍のようなものが弾丸の如く真っ直ぐ突き進んでいく。
「投げっ……えぇ!!!」
投げられた槍が膨張した。
ファイアベアの数倍の大きさ、それが地面を抉っていく。
まるで巨大な隕石が滑走したように大地は崩壊していく。
「スケールが違いすぎる……て!、斎藤さん!」
先ほどの攻撃に巻き込まれていないかと、周りを見渡す。
「あ、よかった…」
スッと立ち尽くしており、その顔はファイアベアの方向をじっと見つめていた。
「あっ さっきの…」
先ほどの攻撃をした人物が斎藤のもとに向かう。
何かを話しており、二人ともファイアベアの行方が気になっていそうだ。
「よかった、これで安心」
ふぅ、と一息つく堺。
遠くにいる斎藤たちは、話が終わったのかこちらに向かってくる。
遠目で姿がわからなかったが、斎藤の隣にいる人物がだんだんとわかってきた。
「ま、、魔人……」
喉が詰まり、無意識に体が震える。
岡本たちが死んだ記憶が鮮明に蘇る。
呼吸が荒くなり目眩がしてきた。
覆いかぶさっているファイアベアの毛に顔を埋める。
「気にするな、気にするな、気にするな」
モゴモゴと繰り返していると、
「サッカイくん、大丈夫かい?」
声が聞こえ、ゆっくりと顔を上げる。
斎藤の隣、澄ました顔の魔人、真希の姿。
お腹が痛くなりつつも、笑顔で「だ、大丈夫ですよ…」と答える堺。
「それならよかった」
斎藤は優しく微笑んだ。
堺は不意にチラッと真希を見る。
感情の読み取れない瞳と目が合い、すぐに目線を背けた。
「うん、無事も確認したし、証拠部位を集めて帰ろうか、……それにしても大惨事だね」
怪獣が大乱闘したかのような状況に、斎藤は苦笑いを浮かべた。
その後、三人は散り散りになった赤火の爪を回収していく。
堺はビビって召喚したファイアベアに任せていた。
青火の個体はペシャンコに潰れており、その姿を見た堺は思わず吐いてしまった。
――――
ガタンゴトン…ガタンゴトン…
汽車で汗をかきながら爆睡する堺。
そんな中、斎藤が真希に話しかける。
「あの個体、心大陸のファイアベアだよね?」
声を出さずうなずく真希。
斎藤は窓の外から夕暮れの空を眺めた。
「上陸後の予定は?」
真希に目線を戻す斎藤。
「風の都に向かう」
真希は顎に手をつけ、斎藤とは目を合わせないようにしていた。
「魔族と人が住む国だよね、噂には聞いていたけど本当に存在するなんて…」
斎藤の顔色が明るくなる。
真希はそんな斎藤を無視していた。
選抜戦まで残り三日。




