73話 挑戦
火山地帯に雷光が轟く。
青の炎に青の雷を纏うファイアベア。
重厚かつ軽快で凛とした佇まい。
先ほどの荒々しさは何処にもない、ただ斎藤を見据えている。
互いに牽制し合うように動かない。
……ドォォン!!!!
先手を仕掛けたのはファイアベアの方だった。
地面を力強く踏み締め、大地の津波を引き起こした。
「は、」
堺は波打つ地面によって吹き飛ばされた。
(えっ、やば、この高さは死…)
押し上げられた衝撃で下半身が粉砕している。
堺は何もできず地面に激突した。
――――
「グゥゥ、グォォオオオ!!」
青火のファイアベアによる咆哮で意識が冴える。
「っはぁ!」
堺はその声量に耐えかねて耳を手で覆う。
(死んだ!!落下死…か、)
バチッ! バチバチ!!
「そんなに過去には戻ってない、ってことはこの後の展開も同じはず…」
堺の予想どうりファイアベアは地震を引き起こすほどの力で踏み込んだ。
「わかってても無理だぁ!!!」
山のように反った地面が視界を覆い尽くす。
大地の軋む音がすぐ目の前に来た時、フワッと浮遊感に包まれる。それと同時に意識が飛んでしまった。
――――
「グゥゥ、グォォオオオ!!」
三度目の咆哮。
(二度も死んでしまった、どちらも即死、どうにか乗り越えないと)
残された時間はわずか、堺は雷魔法をイメージする。
電気を帯びた両足。
大地の津波が引き起こされる前にファイアベアの反対方向に走り出す。
ビィィン!!
走り出した刹那、後方から爆音。
ワンテンポ遅れて地面が揺らついた。
ただでさえ足場の悪い火山地帯、堺は思いっきり転けてしまう。
体が転がり滑っていく。
「やべぇ、しぬっ」
全身打撲で身動き取れず、ベタッと地に這いつくばっていると、すかさず第二波がきた。
視界が黒く染まる。
――――
「グゥゥ、グォォオオオ!!」
四度目の咆哮。
意識が戻った堺は笑みを浮かべていた。
「はっ、無理ゲーだろ」
そう思いつつも、どこか気は楽だった。
「だって、今回は…」
そう呟いた目線の先には斎藤の後ろ姿。
パン!と顔を叩いて気合を入れる堺。
迫り来る地面、覚悟を決めた堺はある魔法をイメージした。
「どうせ落下死するならこっちからとんでやる!!」
周囲の大気が渦を巻く。
ビュゥン!
押し上げられる肉体、耳をつんざく風切り音。
堺は空を飛んだ。
スワッ…
一瞬、重力が消えた。
しかし―
「ゔぁぁ!!!!」
落下。
ジタバタと掴めない空気を必死に手繰り寄せる。
「いやっ死にたく!」
べシャァ!
――――
「グゥゥ、グォォオオオ!!」
五度目の咆哮。
堺の体がビクッと震える。
どれだけ経験しても死は怖い。死ぬ間際、これが最後だと思うと生きたいと願ってしまう。
「すぅ、はぁ〜」
深呼吸で心を落ち着かせて地の波の攻略を考える。
ドォォォン!!!
気持ちが落ち着き出した途端に迫る大地。
「ちょっ、」
魔法のイメージが固まらず不発。
――――
「グゥゥ、グォォオオオ!!」
六度目の咆哮。
強大な圧力を受け、まるで大地が怯えているかのように呼応した。
堺は脳みそをフル回転させる。
「防御魔法はどうだ?…重力でバリアみたいなの作れば!」
堺は正面にバリアをイメージ。
しかしながら迫り上がる地面は防げずに死亡。
――――
「グゥゥ、グォォオオオ!!」
七度目の咆哮。
「今度は自分をバリアで囲もう!!」
結果、自身を囲ったバリアごと吹き飛ばされ、エレベーターが転落して中の人が死ぬように、堺は肉塊と化した。
――――
「グゥゥ、グォォオオオ!!」
八度目の咆哮。
「そんなら逆にせめてやらぁ!!」
雷魔法でファイアベアに向かって走っていく。
「サッカイくん!」
斎藤を通り越し、
「やべっ」
思った以上にファイアベアに接近してしまう、約20メートル先、青の炎と雷を纏うファイアベア。
息がつまり、後退りしかけた瞬間、世界が無音になった。
暑さも何も感じない、目の前には禍々しくも美しいファイアベアの姿。
そして血飛沫と共に視界に現れる自身の腕や足。
スローな世界。そう思った時、次のシーンに行くように全てが黒に染まる。
――――
「グゥゥ、グォォオオオ!!」
九度目の咆哮。
堺は先ほどの死で悟った。
勝てる相手ではないと、それなら生き延びるしかない。
(飛ぶ練習、いや怖すぎる、新しく魔法をイメージ?時間がない!思考加速…そもそも見切れたらいけるとかそんな問題なのか、うーん!!俺が今できること……」
「あ!!」
ふと思いついた一か八かの作戦。
堺は魔道具に手を伸ばし、
「考えてる暇なんてない!」
手に握られた魔球に魔力を込めた。
ヒュゥヒュゥヒュゥ!!
白光と共に青白いファイアベアが現れた。
お座りしてこちらを見ている。
「お願い!!俺を守って!」
雑に指示を出した途端、青白のファイアベアは伏せの体制を取る。
頭で自分の背中を見る動作を繰り返していた。
「乗れっ てこと…」
そう呟くと、ファイアベアはこちらをじっと見つめた。
踏み込みまで時間がない、すぐさま背中に抱きついた。
太く束になった毛を手で掴む。
すると、ファイアベアの首元の炎が堺を包み込んだ。
「あったかい…」
お湯に全身が浸かったような感じだ。外の焼けるような暑さも感じない。
思わずくつろいでしまったのも束の間。
グゥッ!!と体が押し上げられる感覚。
激し目のアトラクションに乗った記憶を思い出す。
怖くて目を瞑っていると、浮遊感。そして落ちる感覚。
また死ぬんだ、そう思ったのに―
ドン!!
「っは! 息がっ……て、」
目線の先には巨大なクレーター。
遥か先にいる斎藤は堺を一瞥。
そして斎藤から目を離さないファイアベアの姿。
堺は地の波から生き延びた。




