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72話 赤火

斎藤から死のオーラが漂う。

 死神がこっちにおいでと囁いてるような切迫感。


 堺は魔道具から杖を取り出し、すがる思いで握りしめる。


「グォォォ!!!」

 青火の個体による二度目の咆哮。

 同時に、赤火の熊が溶岩の奔流のように迫り来る。


 堺はその光景に足がすくんでしまう。

 (やばいやばいやばい!!数が多すぎるっ、逃げないとっ!)


 スッ…


 一つの影が山肌を駆け上がった。

 砂埃も立てずに、山の中腹まで辿りつく。

 

 百以上の赤火の熊。

 全てを焼き尽くすマグマのように止まる気配はなかった。


 しかし―


 ドサ。

 一頭が崩れ落ちた。

 

 その影はロウソクの火を消すように、一頭、また一頭と簡単に命の灯火を絶やしていく。


「ま、まじか…」

 堺は唖然とその光景を眺めていた。

 (斎藤さんが通っただけでみんな死んでる…)


 それは死の壁のようにジワジワと熊たちを追い詰めていった。

 攻撃や噛みつきを斎藤が通るタイミングに合わせるものもいたが、その爪や歯に指先を触れられるだけで絶命している。

 

 すると、数匹のファイアベアが戦線の反対方向に走り出した。

 泣いている子供が親に助けを求めるように、クゥクゥと鼻を鳴らして青火の元に向かう。


 ビシャ!ブシャァ!


 青火の元に向かった赤火の体が血の雨を降らせながらバラバラに消し飛んでいく。

 殺すか殺されろ、その二択しか青火は許さなかった。

 赤火のファイアベアたちは退路を断たれて、次第に数を減らしていく。


 恐怖に怯えるファイアベアを蹂躙し続けること十分、赤火は最後の一頭だけになった。

 斎藤は荒い呼吸を整えながら、赤火の足を蹴る。

 グギッ!!と骨が飛び出るほどの威力。間髪入れず残りの足も粉砕した。

 その後、ボールのように蹴り飛ばし、堺の近くにうまく着地させた。


 ドン!!…………スタ!


 斎藤も熊の後に続くように、ジャンプして堺の元に辿り着く。


「ひ、ひぃ」

 目の前で苦しそうに唸り声を上げるファイアベアに怯えながらも同情を感じる堺。


「さ、サッカイ君、じ、実験したいんだけどいぃかな」

 斎藤が汗をかきながら息を切らしている。

 マスクを外しており、ハァハァと呼吸が荒い。


「わ、わかりましたた、どど、どうすれば」


「ありがとう。うん、このファイアベアを殺してほしいんだ」

 斎藤はジュースを奢ってほしいくらいのテンションで堺に殺害を頼んだ。

 その軽さが、あの時の斎藤を思い出させる。


 堺は断る勇気がなかった為、あっさりと首を縦に振ってしまった。


「ありがとうサッカイ君、僕は青色のファイアベアと戦ってくるね」

 斎藤は額の汗を軽く拭いながら笑いかける、そして体力を回復させるように歩いて青火に向かっていった。


 ――――


 (おいおいマジかよ、殺す!?めっちゃ可哀想だよ、てかグロい… でも引き受けたんだしやらないと!)

 堺は杖を握って魔力を込める。

 今にも死にそうなファイアベアを楽にさせてあげないと。そう自分に言い聞かせていた。

 (重力、一瞬で死ぬように頭を…潰そう)

 魔力がふんだんに込められた闇魔法の杖は、青光を放つ。

 魔力のイメージを固めた。杖の先端が重くなる。

 震える手でファイアベアの顔に杖を向ける。

 (ごめんなさいっ!!)


 重力魔法が発動する瞬間に目を深く瞑る。


 ブン!!グギュ。

 

 重低音と肉の潰れる音が聞こえた。

 ゆっくりと目を開けて、細目で熊の状態を確認した。

 ほぼ見えない世界、熊は体の外側から灰になっていった。

 コロン

 卓球玉サイズの水色の球が転がった。

 ガラス玉のように透けており、中には青色の炎が揺らめいている。

 堺はその体が完全に消失したのを見て、魔球を回収した。

 ゴブリンの魔球と大きさも見た目も変わらない、ただどんな魔物なのかは、ぼんやりした過去の記憶のようにわかる。

「すげぇ、ファイアベアだ…」

 堺はさっそく魔力を込めた。


 ヒュゥヒュゥヒュゥ!!


 魔球は青く発光。そして―


「すげぇ…」

 堺は嬉しさで拳を強く握る。


 薄青色の毛並みに青色の炎。

 犬のようにお座りしており、おとなしい。

 堺は何をさせることもなく、とりあえず元の魔球に戻した。


 (どんくらい強いか楽しみだな、斎藤さんありがとう、でも、殺してるんだよな…)


 自分の能力は相手を殺さないといけないと、改めて気づき、心が苦しくなった。

 憎しみあふれるゴブリン、それらにも家族がいる。

 あの日見たゴブリンたちの怯える姿。

 

「能力だとは言っても、殺して良いことにはならない…で、でも冒険者は魔物を殺すもの!今回のクエストだってどうせそうしないといけないんだ、そうだ!、これは仕方ないことなんだ」

 この世界の常識的に魔物を殺すことは悪いことではない、わかっているのに、ファイアベアの生きたいと願う表情が頭に残り続けていた。

「……ええい!今は考えるな!とにかく斎藤さんを応援しないと!」

 そう言って、斎藤の方に目を向けた。


 ――――

 

 一人と一頭は出方を窺うように互いに近づいている。


 数十メートルまで近づいたところで青火が動く―


「グゥゥ、グォォオオオ!!」

 突然の咆哮。


 鼓膜が破れそうな声量の中、斎藤は着実に進んでいく。


 バチッ!バチバチ!バン! バチバチ!!


 青火に纏わる青雷。

 毛並みは刃のように逆立っていた。

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