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71話 及第点

「そんなっ、い、いきなりすぎて…」

 堺は無理ですと言わんばかりに両手を小刻みに震わせる。


「サッカイくん、手合わせを怖がるようなら心大陸は諦めた方がいいよ。」

 斎藤の声が冷たい。硬く握られた拳が、解けていく。


「あ……」

 堺はその言葉に悔しさが込み上げてきた。

 あぁ、まただ。

 口だけで何もしない自分。いざとなったらへこたれて情けない姿を見せる。

 結局なんにも変われてない。

 そんなんだから目の前で仲間が死んでいく。

 あの日、前田さんとの決意を忘れたのか?強くなるって、誓っただろ?やれ、やれよ!こんなんでビビるな俺!!こちとら何回も死んでんだ、こんなこと朝飯前だろ!


 苦悶の表情を浮かべ、沈黙する堺。

 斎藤は見切りをつけるように「うん。今日は魔物もいなさそうだし帰ろうか、クエスト報酬は僕があげるよ。」と言い、駅を目指して歩いていく。

 その瞳からは切なさを感じた。


 堺は覚悟を決める。一歩踏み込み、

「……さっ斎藤さん!ぼ、僕やれます、やれます!!」

 独学で学んだぎこちないファイティングポーズ。

 目の奥に淡い闘志が揺らめいている。


 斎藤はこちらを振り向く。その顔は我が子の成長を見守る親のような笑顔だ。


「それなら、始めようか」

 軽快な構えを取る斎藤。


「は、はい!お、お願いしますっ」

 堺は雷魔法をイメージする。

 全身の血管にバチバチと流れる電気。

 鳥肌が立ち、皮膚の表面がチクチクする。


「すげぇ、」

 魔力が増えているのか、以前に増して体が軽い。


 (前使った時は魔人の時だったな、)

 成長しているという喜びを感じながら目の前の斎藤に意識を集中させる。


「準備はできたみたいだね、」


「!?」

 (どこ言った!?)

 眼中から消えた、音すら残っていない。


 ビリッ!!

 雷光の尾を残しながら後方へ飛ぶ。

 視界の悪いマスクをつけたまま、首を振って周りを確かめる。


「レクチャーそのいち、思考加速を身につけること。」


 斎藤の声。振り向いたと同時に衝撃波が腹を圧迫した。


 ボォン!


「ヴッッゥヴ!!」

 呼吸ができない。

 意識と切り離された体は数メートルほど吹き飛び、地面に落下……


 スッ……


 ――――

 

「ゴホッゴホ!!」

 遠のく意識の中、口に液体が入ってくるのがわかった。


「ゴホッゴホッ、ゴッ…」

 全身の強張りと、呼吸困難が止まりゆっくりと意識が戻っていく。

 感覚も戻っていき、首とお尻に感触、なんか包み込まれているような……

 だんだんとぼやけた視界が戻ってきた。

 人の顔がこちらを覗き込んでいる、

「ってえぇ!!」


 それは斎藤の顔だった。安堵したように微笑んでいる。

 ハッと我にかえり、自分がお姫様抱っこされてることに気づく。

 光よりも早く顔が赤くなり、「ごめんなさいぃ!!」と転がり落ようとした。


 しかし、

「えっ……」

 動けない、固定されているというよりも、赤子をあやす母のように、柔らかく落ちないように受け止められている。


「自分で立てそうかい?」

 恥ずかしさのあまり、上からする声に顔を合わせられない。感情の理解が追いつかないのだ。

 堺はこのままでは精神がもたないと思い、振動するように首を動かした。


 斎藤は「うん」と言い、子猫を優しく扱うように堺を起こした。


 包み込まれるような感覚が失われ、思わずフラついてしまう。


「スピードは問題なさそうだね、あとは思考加速さえ身につければ完璧だよ」

 温かい笑みに戻った斎藤。

 堺の思考は先ほどの出来事でフリーズしていた。


 (斎藤さんに抱っこ…ふわふわだった、、ふわふわ、ふわふわ……)


「おーい」

 空に目を向ける堺に手を振る斎藤。


「…うぁ! す、すいません!別に変なこと考えてないです!すいません!」

 早口で話す堺。逆にあやしくなってしまったと思い、死にたいと心で叫ぶ。


「変なこと?よくわからないけど大丈夫だよ」

 斎藤は頭を傾げ、慰めるように笑いかける。

 堺は息が詰まりながら腰を折る。


「うん。お互い魔力を消費したし、今日は帰って休もうか」

 斎藤は先ほどと違い、穏やかな声で朗らかな表情になっている。


 堺はそんな斎藤を見て安心する。暑さも忘れるほどの緊迫感がほどけ、胸をなで下ろす。

 それでも興奮と緊張の余韻で手が震えていた。

 今日は帰ってぐっすり寝よう。そう思った時、


「グゥォォ!!!!」

 どこかから響く咆哮。

 耳に残るドスの効いた音。

 直感が全力で逃げろと叫んでいる。


 ドソドソドソドソドソ!!!

 なだらかな山の頂。

 一匹の獣がこちらを睨みつけている。


 その見た目は青の炎に包まれた巨大な熊。

 恐竜かと思うほどにデカく、一本が刀のように長く、分厚い爪を持っている。


 ドドドドドトドドド!!

 

 地鳴りと共に、青熊の背後から赤の炎を纏った熊が何匹も現れてきた。

 青火の個体に比べて二回りも小さく、大人と赤子くらいのサイズ感だ。


 堺はガチガチと歯をカタつかせ、腰に力が入らない。


「群れで行動するとは珍しいね」

 斎藤は一歩、また一歩と踏み出す。


「討伐証明部位は、爪。うん、みんな持って帰れそうだね」

 斎藤はクエスト用紙を見る。その後、綺麗に折りたたみ、胸ポケットに入れた。


「ごめんねサッカイくん、暑いと思うけど少し待っていてね」

 斎藤は楽しそうに笑みを浮かべ、両手の手袋を外した。

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