69話 決断
唖然と固まる堺、「ぁ……」と情けない声を漏らし、思考がまとまらない。
何故?と考える堺の表情を見ながら、斎藤は話しを始める。
「死者を生き返らせるにはS級アイテムが必須になる。そのために心大陸に向かう訳なんだけど、サッカイ君、今の実力では心大陸を生き延びることは不可能だと思う。だから、僕たちとは別行動をしてほしいんだ」
斎藤の目は真剣で、憐れみを帯びていた。
(え… 死ぬ?心大陸?訳わかんない、、え、どうしよう、てか、これからどうすれば……)
堺は魂が抜けたように、体に力が入らない。
「それに、本体の僕も作戦を始めたみたいだしね、今ならまだ何とかなる、」
斎藤は窓の外を見る。その先には黒い制服をきた人たちがチラホラといた。
「ほっ、ほ本体??作戦?」
堺の頭は許容上限を超えていた。
「……まだ話してなかったね、、僕は本物の斎藤ではなくて、アイテムによって複製された存在なんだ」
「はぇ??」
堺の頭がフラフラと揺れる。
「作戦っていうのはね、転生者を捉えた後に考えていたことなんだけど、地の国の人類を心大陸に向かわせて拠点を作って……うん。これはいいか」
斎藤は目線を斜め下に向け、何かを考えているようだ。
堺はその間、(心大陸?アイテム?別れる?)とまとまりのない思考を続けていた。
声も出せない堺を見かね、斎藤は
「サッカイ君、選ぶのは君だよ。別行動で安定をとるか、死を覚悟で僕たちと共に心大陸を目指すか。」
斎藤は以前のような無機質な声ではなく、しっかりと感情がこもっている。
「え…… い、いきなりすぎて、ちょっと…」
話に追いつけず、ふにゃふにゃの顔で困惑する。
「うん。すぐに決めてほしいとは言わないよ、選抜戦まで3日間あるから、それまでに決断してほしい。」
斎藤はなだめるように笑った。
堺はその笑みに少し安心して、
「もし……もし別れるとしたら…こ、この先どうすれば、」
助けてほしいという気持ちと、斎藤と話したいという気持ちで話題を広げる。
「そうだね、地の国で生活するのは辞めた方がいいと思う。本体の僕に捉えられたら、心大陸に向かう羽目になるからね。だからそうだね、水の都に向かうことをお勧めするよ。」
斎藤は自分ならどうするかと考え、思考を巡らせていた。
「み、水の都…?」
何処だそれと思いつつも、ある記憶がよぎる。
(…水神!)
ハッとした堺を察して斎藤が話す。
「水の都はね、人ノ国の西側に存在する場所だよ。水神が統治していて、地の都、火の都みたいな感じだね」
堺が頷く、斎藤は間をおき、
「水の国の騎士団に入隊すれば、僕も手出しはできないね。それに、自衛がほとんどだから凄く平和に暮らせると思うよ」
斎藤の目尻は柔らかく、堺の安定を喜んでいるかのようだ。
「そ、な、なるほど……」
(西側…… 何処進めばいいんだ? 騎士団、、悪くはなさそう…)
堺はうーんと眉をしぼませ考える。
強くなりたいという想いも、前田を救うという目的も、自身の平和を前にすると霞んでしまう。
堺の本心はただ、安堵した日々を過ごしたいと願っている。
斎藤は悩む堺を横目に、コーヒーを優しくすすった。
……
「あぁ、っすすいません! 待たせてちゃって……」
窓に目をやる斎藤を見て、堺は早く決断しないと焦ってしまう。
「うんうん、気にしないでゆっくり決めていいよ。」
斎藤は大丈夫だよという形で頭を横に振り、堺の目を見て微笑む。
(あっ やば、好きだ…そんな目で見られたらもう行くしかないでしょ… このまま斎藤さんと別れるなんて嫌だし… そもそも西側ってどこ行けばいいんだよ、ここもどこかよくわかってないし、てか一人で行動して生き延びられるのか?? どうせ野垂れ死ぬなら、うーーん、、、)
ぐるぐると悩みが渦巻き――
(どうせなら好きな人の近くにいたい!)
スッと息を吸う堺。
そして、「ぼっ 僕も!心大陸にいき、いき行きますっ!」と揺らいだ声で斎藤の目を見る。
「ん。サッカイ君、大丈夫。すぐには決めなくていいよ。まだ時間は」
「ぼ、僕は斎藤さんと旅が、したいです!そ、それに前田さんも、復活させたいので……」
食い気味で話だし、後付けで前田の名前を出す。
堺はすぐに心の中で前田に謝った。
「そっか、決断は早ければ早いほど嬉しいんだけどね…」
斎藤は照れくさそうに笑い、コーヒーカップの受け皿を人差し指でなぞる。
「うん、わかった。でもねサッカイ君、僕も生き延びれるかわからない場所なんだ。もしかしたら、君を見捨てることがあるかもしれない。それでも本当にいいのかい?」
斎藤の柔らかな顔から圧を感じる堺。
「もっ……問題ないです!それに、ぼ、僕は死なないので…」
堺はアハハ…と力なく笑い、膝上に置かれた手をにぎにぎする。
……
ふと斎藤に目を向けると、ピタリと固まっていた。
「さ、斎藤さん…?」
堺の弱々しい声に、斎藤が被せ気味に話す。
「サッカイ君、もしかして召喚魔法意外にも能力を持っているのかい?」
斎藤は堺の顔を注視した。
「え、いや……」
(やばっ、死に戻りのことっ、くそ!!何カッコつけてんだ俺ぇ!!)
堺は他の能力は持ってないと言いたかったが、斎藤の圧の前では言葉が詰まってしまう。
斎藤は堺の反応を見て、納得したよな表情に落ち着く。背もたれに体を預け、再び笑みを浮かべた。
「うん、驚かせてごめんよ。ただもし、死を魔逃れるような能力があるなら、本体の僕は何が何でも手に入れようとするだろうね。」
コーヒーカップを手に取り、すぅーと飲む。
「そ、そっ、そなんすね… も、もしバレて捕まったらどうなるんでしょうか、、」
恐怖を感じながらも捉えられた時の結末が気になってしまう。
「う〜ん、そうだね。捨て駒のように酷い扱いをされると思うよ。死にたいって願うくらいに」
斎藤は平然と話していた。
声のトーンからするにマジのようだ。
「今の僕はそんなことしないから安心してね。」
斎藤が優しい口調で笑う。
堺はブンブンと頭を振るしかできなかった。
コーヒーをズズズと啜り、体の緊張をほぐそうと試みる。
「そうだ、魔法の訓練を兼ねて一緒にクエストにいかないかい?」
急な斎藤からのお誘い。ゲホッゲホッと堺はコーヒーを喉に詰まらせながら頭を縦に振る。
「よかった。それならどうしよっか、今からでも明日でも、サッカイ君に任せるよ」
斎藤は小首をかしげる。
髪がサラリと揺れ、にこやかに笑いかける。
「ブフッ」
またもやコーヒーを詰まらせる堺は袖で口元を拭い、
「い、今から行きたいです…」と顔を赤らめながら答えた。
堺は崩壊した世界が、再び形を取り戻す感覚を味わう。
心大陸に向かうという決断が茨の道だということを、この時の堺は知る由もなかった。
選抜戦まで残り三日。




