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67話 魔法

「あ〜、なんかつっかれた〜」

 堺はそう言いながら、宿の扉を開ける。


 キィーと扉が軋み、胃もそのような音がした。


 (冒険者のノリってガヤガヤしてて怖いんだよな…)


 ゆっくりと扉を閉め、スーツの入った袋を抱きしめながら隅を歩く。

 肉料理の匂いが漂い、腹がなる。

 (席は… うん、今日はやめておこう、、)


 トボトボと部屋を目指していると、ふと横目。クエストカウンターが気になった。


 (お金使ったしな〜、 み、見てみるか、)


 スゥーッと息を吸い、ジリジリと受付に近づく。


 受付嬢は他の冒険者と話しており、堺はそのうしろにソッと並んだ。


 ゴツイ防具をきた冒険者の背に隠れ、息を潜めていると、


「お次の方どうぞ」


 喉に何かつっかえたような感覚を感じる。

 極力目を逸らせながらカウンターに向かう。


「ご用件は何でしょうか?」


 受付嬢がこちらを見ている。

 真面目な目元に、ほんの少し上がった口角。

 緑のベレー帽を被っており、黒の蝶ネクタイを身につけ、白のシャツを着ている。

 肩から背中を覆うミニマントは、帽子と同じ色合いだ。


「え、あっ くクエストを受けたいなと思いまして…」


「かしこまりました。でしたら、あちらに貼られておりますクエスト用紙を選んでいただいて、持ってきてください」

 受付嬢はやわらかに手を向ける。

 その先には掲示板があった。


「あっ、は、はい」

 

 クエストカウンターの隣にある掲示板。紙がベタベタと貼られている。


 堺は就職先を見極めるような眼差しで、用紙を見つめた。


 (緊急 レッドドラゴンの討伐、か… 報酬金は……百ゴールド!? すげぇ!絶対無理だけど)

 鼻でフッと笑い、他の用紙に目を向ける。

 (えーっと ワイバーンに…マグマゴーレム、ハイオーガ、灼熱の大蛇、フレイムウルフ、ファイアベア、火山ガーゴイル…………)

 

(バケモンみたいなのしかいねーじゃねぇーか!! ゴブリンはいねぇーのかよ! スライムも溶岩スライムだしよ!!)

 奥歯をギリギリとさせ、用紙とにらめっこする。


「ふぅ…」


 (まぁ、魔法の練習もしたいし、とりあえず受けるか)


 ファイアベアの用紙をベリっと剥がす。

 受付嬢に持っていった。


「承諾いたしました。ファイアベアですと、十一番から十二番乗り場の火山地帯に生息しております」


 受付嬢はハンコを押して用紙を返した。


「証明部位は両手両足の爪です、一本ずつでもいいので忘れないように お願いします」


 堺は「ッス…」と言い、頭をちょこり下げる。

 そのまま階段をつたって部屋に戻った。


 ギシッ


「あ〜直視できねーよ って、討伐証明 がいるんだよな、倒したらまた球っ、魔球になるんだろうか…」


「え、でもまてよ、魔球になればクソつよモンスター仲間にできるってことよね!?……あ、ヤバ… 俺、最強じゃん!!」

 ウハハと笑いながらベットでゴロンゴロンする。


「最強…… 最強か………」


「そういえば!」


 堺は思い出した、あの日のことを。自分が岡本たちを助けたこと、絶望の淵で願った奇跡に救われたことを。


「何か召喚したんだよな… この俺が、」


「本当に 最強なのかもしれない」


 天井に手を伸ばし、じっと見つめる。

 無双する姿、賞賛され美女に囲まれている自分を妄想してニヤける。


 ヒロインとのラブラブ生活までいったところで、明日のクエストが気になってしまう。


「……ワァイアベアか、ファイアだから炎系… 炎なら水とか氷だよな……この前氷出せたし、ちょっと練習してみる かっ」


 ギシッ


 ベットに座り、右腕をまっすぐ伸ばす。

 手のひらからビームを出すように構えた。


「ゲームのイメージだと、アイススピアだな、あとはアイス、アイス……あ〜ダメだ、アイススピアしか出てこねぇ! 氷の槍 か… 手からそんなもの出せるのか?」


 堺は氷の槍をイメージした。

 長さは約二メートル。

 シンプルな槍を氷で模った物を想像。


「どんな感じに出るのかもイメージするのかな、ゲームみたいにシュァって出てきて手に装備されてる感じがいいな」


 ムムム、と目を瞑り妄想を続けた。

 魔力の流れを手に集中させると、ノイズを帯びていたアイススピアの形がくっきりと頭の中に浮かぶ。


「っ いまだ!解放!」


 ヒュォ〜!


「うっさむっ! てか冷た!!」


 部屋に吹雪が舞う。

 堺の手には霧を纏ったアイススピアが握られていた。

 

「ちょっ、やばっ冷たすぎ!! て、手から離れん!!やばいてこれ!!」

 ブンブンと振り払おうとして、天井をゴリゴリ!と削ってしまう。


「やば…」


 暴れる体を抑え、寒さに耐える。

 ガタガタと震えながら策を練った。


「ほ、炎魔法や!」

 速攻で燃える拳をイメージして、魔力を解放する。


 ボォン!


「あ、あついっ け、けど耐えれる…な」

 熱い湯船に手をつけているような感覚。


「……」

 メラメラと燃える拳、ドライアイスに水をかけたかのように溢れ続ける霧。


 指がヌッロと動かせるようになった。

 はぁっ!と全力で手をパーにする。

 グググ…

 

 キァァン!

 アイススピアが床に落ちる。

 割れると思ったが、欠けてすらいない。


 燃える拳を解除して、腕を振る。


「あ〜なんかチクチクしてイテぇな」

 指を舐めたりする、どこか冷たい。


「くっそ、回復アイテムとか買っとけばよかった」

 親指をしゃぶりながらそう考えていると、


「……あっ!!」

 頭に雷が落ちる感覚、足裏から興奮が這い上がる。


「ワンチャン回復魔法もいけるのではないか!?」


 負傷した右手が元通りになっている姿をイメージした。


「お、おぉ!!」

 血液が手に行き渡るのを感じる。

 固まった指先がほぐれて、滑らかに動かせるようになった。


「す、すげ……」


 ゴン! ギシッ


 魔力の使いすぎで気絶してしまった。

 ドミノが倒れるようにベットにすっ転び、窓枠に後頭部をぶつけてしまう。

 微かに流れる血、痛みの感覚はない。

 堺の表情は満足そうで、健やかに気を失っていた。

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