61話 雷
61話
雷神リアムは封印を断ち切った。
複製体の斎藤を倒し、怒りあらわで岡本たちの前に立つ。
転送魔法陣の中にいるアルファの住人。
そして斎藤たち。
(この人はダメだ… 僕たちでは勝てないっ!!)
岡本の体が震える。
「は……」
タイガは口が塞がらず、瞬きすらもできなかった。
マリナは本を抱え、目を瞑る。
ポロポロと涙が溢れ、死を覚悟した。
(タイトお兄ちゃん……助けてっ……)
ロアもまた目を瞑り、死にたくないと願っていた。
リアムは殺気を放ちながらも、動かなかった。
雷光を纏う腕がわずかに震えている。
「特級魔法を使いやがったな」
低く響く声。
額に浮かぶ青筋。
奥歯を噛み締め感情を抑えつける。
斎藤は、笑っていた。
声が歪む。音が割れる。
まるで“存在そのものが壊れかけた映像”のように。
「そうだよ。この魔法陣の中に入ったとしても、僕に触れたとしても発動するよ」
斎藤、特級魔法。
範囲内で自身より魔力量が少ないものを即死させる。
その範囲はアルファを包み込んでいた。
発動すればリアムと斎藤以外は残らない。
「何が目的だ?」
リアムの熱気が強まる。
「君を殺したいんだ」
その言葉にリアムの怒気が限界を越える。
雷がバチバチとリアムの体を覆い、空間が揺れる。
斎藤の唇は微かに震えていた。後には引き返せない。
彼がいる限り、人類に明日はない。
「殺す」
リアムが踏み込んだ。
アルファ内を焼き尽くすような電流。
しかし――リアムは踏みとどまった。
斎藤を見据えたその瞳に、一瞬の迷い。
リアムの視界の端に、“少女”の姿が映った。
アルファ内で育った一人の少女。
花を渡してきた。
笑って「おじさん」なんて呼んで、からかってきた。
少女は今、意識のない抜け殻となっている。
その手には、かつてリアムに渡した“青い花”。
リアムは奥歯を噛み締め、血が滲むほどに拳を握りしめた。
呼吸が乱れる。
殺せと叫ぶ自分と、皆んなを救いたいと言う気持ちがぐちゃぐちゃに混ざり合う。
「……わかった」
リアムはあぐらをかき、腕を組み、目を閉じた。
体が揺れる。
リアムの膨大な魔力が目の前の敵を殺そうと踠いているのだ。
斎藤は微笑み、ゆっくりと魔法陣の外へ足を踏み出した。
靴音が響く。
カツ……カツ……。
そして、
手を伸ばせば届く距離まできた。
斎藤はゆっくりと、リアムに触れようとする。
(この俺が死ぬのか...なあ、前田。あの世で見てんだろ?これでよかったんだよな……)
リアムは前田との記憶を思い出す。
雷神として生まれたリアムは問題児であった。
戦闘狂で気に食わない奴を片っ端からぶちのめす。
世界の秩序を守る地の神、水の神、火の神はそんな雷神リアムを見兼ね、人の大陸から追放した。
リアムは転の大陸に飛ばされ、そこに住まう強力な魔物と戦う日々を過ごす。
ある日、前田が現れた。
大量の転生者を引き連れ、ここに拠点を作りたいとぬかす。
リアムは自分より強ければ従うと言い、二人は戦った。
舐めていたリアムに、前田は最初から全力を出し、勝負がついた。
不満を持ちながらも前田の言う事を聞くリアム。
一人だった世界に、今では沢山の人、仲間がいる。
アルファを作り、そこを守る日々。
魔族や人類の脅威が攻めてくることもあったが、リアムと前田の前では無力に等しかった。
リアムは嫌々ながらも行事に参加させられた。
他の転生者たちとの交流。だんだんと絆が深まっていく。
楽しい。強いやつと戦う時とは違う、楽しさ。
幸せに気づく。
しかし、そんな日々は前田の死と共に崩れ去った。
アルファ内が不安に包まれ、どうまとめていいかもわからない。
神頼み状態の住民のプレッシャーに押しつぶされそうな時、斎藤たちが現れた。
封印されてしまった自分が情けない。
けじめ。そして、アルファの住人を救いたいと願い、死を選んだ。
「頼む……無碍に扱わないでくれ」
リアムは最後に想いを伝えた。
斎藤の手がリアムの額に触れる。
ドサッ……。
リアムは死んだ。
胸ポケットから、何かがひらりと落ちる。
綺麗な青色の押し花――かつて、少女が渡したものだった。
ゴウゴウと溢れる魔力の流れが止まり、アルファ内の照明がゆっくり消えていく。




