54話 レール
54話
「よっと」
斎藤は崖を蹴り、風のように降り立つ。
闇と一体となり、気配すら消して駆ける。
斎藤は『転』の大陸に偵察に向かっていた。
S級アイテム《千里眼の雫》を使い、アルファ内にいる転生者たちの情報を集めていた。
閉じることのないまぶた、乾いた目の奥で情報が洪水のように流れ込む。
全ての転生者たちに目を通し、その中でも武闘派だと分かった三人の転生者――
テレポート魔法使いの和田 海成
何もない空間から武器を生み出す創造魔法の早乙女 千賀
そして、雷魔法を司るリアム・スミス
斎藤はニヤリと口元を吊り上げ、闇と同化する。
後日――。
リリリリリリン――!!
堺の頭にベル音がかき鳴らし、胃の底がひっくりかえる。堺は喉を震わせながら「転送」と念じた。
世界がひずみ、次の瞬間、獣臭が鼻腔を刺す。涙がじわりとにじむ。
目を開けると、巨大な倉庫。無数の鉄檻が並び、ゴブリンがうずくまっている。
唸る者、震える者、牙を向く者。
「サッカイくん、ここにいるゴブリンを今日中に殺しておいてね」
斎藤が音もなく目の前に現れた。影のようなシルエットが笑みだけを浮かべている。
「え、あぁ、さ、斎藤さん…」
堺の声は震え、言葉にならない。
「サッカイ君くんのミッションは、アルファ内でゴブリンたちを呼び起こして、転生者たちを確保することだよ。 ここにいるゴブリンを殺し終わったら、この転送石に魔力を込めてね。」
斎藤は小さな魔法石を手渡してくれた。
ひし形の緑色に輝く宝石。ての中で握りしめ、どこか救われたような気持ちがした。
「あ、あれ……」
斎藤の影が消えている。
鉄の軋む音、ゴブリンたちの泣き声が耳を刺す。
心の中に同情のような感情が芽生える。
(こんな顔……するんだな。俺を襲った奴らは笑っていたのに……)
堺は杖を握った。その手は震えており、動揺していた。
あんなにも憎いゴブリンたちが、人間のように肌身を寄せ合っている。
堺は呼吸を繰り返し、自分を落ち着かせようとする。しかしその空気は獣臭にまみれ、血の匂いで胃液がせり上がりそうになる。
ヒュゥ、ヒュゥゥ!
甲高い音が杖から聞こえる。光りを反射しないほど黒いその杖から模様が浮かび上がる。
古代文字のようなその模様は、青く光り、空間を月の光のように照らしていた。
魔力が満ちる。そして圧縮されるイメージを頭の中で考えた。深海の水圧で潜水艦が鉄の塊になる想像。
(まずは…一つ……)
6匹のゴブリンが入った檻に杖を向ける。
ゴブリンたちは喚き出し、歯から血が出るほどに檻の柵を噛み切ろうとする。
ボォッ!
重力魔法が檻を潰し、骨が砕ける音が響いた。
その光景を見たゴブリンたちは狂ったように暴れ出した。
暴れる衝撃で積み上げられた檻が崩れ、中にいるゴブリンの腕が折れていた。
堺は目を黒くした。感覚が麻痺して、何も感じなくなっていく。
一つ、また一つと檻を潰し続けた。
(もっと力加減を弱めた方が、檻も綺麗に潰れるからいいな)
ゴブリンの断末魔が単なる雑音と化し、効率的に作業をこなした
――そしてすべてが静かになった。
膝が折れ、床に手をつく。胸の奥に残ったのは勝利感ではなく、冷たい恐怖だった。
「俺も……変わらない……あいつらと……」
――――
目が覚めると、ベットの上だった。
だが魔道具の中には、確かに千個の魔玉がある。夢ではない。
怯えたゴブリンの顔が、あの日の自分と重なり、正義がどこにあるのか分からなくなっていく――。
一方その頃――。
斎藤は岡本・タイガ・マリナ・ロアに任務の作戦を告げ、アンドレス王とナックル校長にも作戦を伝えていた。
歯車は動き始めた。
やがて『人』と『転』の戦争が幕を開ける――。




