第8話 北の遺跡救出作戦
三つの緊急事態が同時にのしかかっていた。
北方遺跡では封印施設が破壊寸前。
各国では覚醒者狩りの準備が進み、真の創造主との通信は途絶えたまま。
先日の戦いで目覚めた元・世界管理機構第三戦団も、今は我々に合流している。司令官カイザーはその代表として席に着いていた。古代遺跡から救い出した仲間の中から、精神力増強の歌を操る吟遊詩人メロディアも作戦に同行することになった。
「タロウ様、どれを選んでも支えます」
リーナの声が震える。
逃げ道はない。まずは目の前の命だ。
「北の遺跡を救う」
会議室に緊張が走ったが、誰も反対しない。
カイザーが敬礼し、セレスティアが補給線の手配を約束。
フィンチは制御殿の図面を広げた。
「敵が制御殿の周囲に砲台陣を築いている。古代システムに触れさせない構えだ」
俺たちはうなずき合った。前回学んだとおり、システムに接続できれば覚醒の連鎖を起こせる。今度は自力でやる。
出発前、セレスティアが耳飾りを渡す。
「遺跡内部に入ったらこれで連絡を。創造主には頼らず、現場の判断で動くはずだ。」
古代ドラゴンが翼を広げる。
『我が空から陽動を行う。タロウ様、制御殿に入る経路は見つけてあります』
◆
北方山脈の空は炎に染まっていた。
第五戦団が半円陣を敷き、制御殿を砲火で閉じ込めている。
『砲台12、魔導塔4。攻撃が激しくて拠点に近づけん』
ドラゴンの念話が響く。
「真上からは無理だ。ガルド、東側の渓谷に回ってくれ。俺たちが滑り込む隙を作る」
「任せろ!」
ガルドとエルフィンが先行突入。渓谷に飛び降りると同時に、ドラゴンが低空で炎の幕を張る。敵の視線が空へ逸れる。
今だ。
俺、リーナ、カイザー、メロディアの四人が谷底の岩棚へ着地する。フィンチは後方で制御殿の防御パターンを監視中。
砲撃の震動で足場が崩れる。カイザーが即座に支柱を蹴り折り、別の岩棚へ飛び移った。
「神殿まであと100メートル。ここからは地下水路を通ります!」
岩壁の狭い亀裂をくぐると、冷たい霧が頬を打った。古代の導水路が地下空間へと続いている。
「セレスティア、聞こえる? 水路に入った」
『感知陣が三つ。今フィンチ先生が解除手順を送る。』
耳飾りからフィンチの声。
「タロウ君、石の壁に触れて周波数を合わせろ。前回教えた手順を思い出すんだ」
俺は掌を壁に当て、鼓動を落ち着かせた。魔力の糸が指先に絡む。呼吸を重ねるたびに色が変わり、罠が眠っていく。
「解除完了」
メロディアが小声で歌いながら進む。
「この旋律を聞かせれば敵の感情抑制が緩むわ。制御殿についたらすぐ流す」
◆
制御殿の扉は半ば溶け落ち、内部では砲撃の余波が火花を散らしていた。
中央の水晶柱が不規則に脈動している。敵が強引に負荷をかけたせいで、制御系が暴走寸前だ。
「フィンチ、状態は?」
「過負荷で封鎖が掛かっている。タロウ君、まずは冷却シーケンスを起動しろ」
俺が水晶柱の基部に手を添え、覚えたばかりの符号を唱える。
蒼い光が静まり、機械音が低く変わった。
『システムアクセス。適合者の再接続を確認』
「よし、やれる。カイザー、外の状況は?」
「ガルドが敵の砲台を三基沈黙させましたが、増援が来ています。あと10分くらいもたせるのが限界です」
時間はない。
「メロディア、精神力バフを頼む」
「任せてください。精神力増強、行きます」
彼女が竪琴を鳴らすと同時に、俺はシステムへ意識を沈める。今度は創造主の声はない。代わりに、仲間たちの息遣いが耳の奥で重なった。
『覚醒波形設定。対象:遺跡周辺半径2キロ。』
「行け!」
青と紅の光が重なり、地表へほとばしった。
敵陣から悲鳴が上がる。
「胸が熱い……何だ、この感情は……!」
砲台を守っていた兵士が膝をつき、仲間と向き合った。
「俺たちは誰と戦っていた? 何を守っていた?」
味方側でも歓声が上がる。
ガルドが笑いながら剣を振る。
「全線、押し返せるぞ!」
混乱する敵司令官が叫ぶ。
「抑制装置を再起動しろ!」
だが、制御殿のシステムがその命令を抑え込む。
『不正な命令を遮断しました』
俺は息を切らしながら水晶柱から手を離した。
「成功……か?」
リーナが涙を拭きながら頷く。
「はい。外の兵士たち、皆、自分の意思で話し始めています!」
◆
戦闘が収束する頃、遺跡の入り口には新たに覚醒した兵士や技術者が列を成していた。
「俺たちは騙されていた。今度はあなた方に力を貸したい」
カイザーが彼らの誓いを受け入れ、エルフィンが応急処置を施す。
肩にのしかかる新たな重圧。
俺は皆を見回し、宣言した。
「北の遺跡救援作戦は成功だ。ここで得た仲間と技術を、次の戦いに繋げよう」
リーナが頷き、メロディアが行進曲を静かに弾き始める。
やれやれ、ひとまず北の遺跡は掌握した。
さて、これからどう動くべきか?
引き続き遺跡を開放するか。
創造主の封印解除を急ぐか。
どうする、田中太郎――。
俺は夜空を仰いだ。
続く……




