第7話 遺跡の守護者たち
30分後に迫る世界管理機構の大軍。三つの選択肢を前に、俺は静かに思考を巡らせていた。
「もっと詳しく教えてください。それぞれのリスクを」
フィンチが眉間に深い皺を刻む。
「システム接続……君の意識が取り込まれ、戻れなくなる可能性があるぞ。」
「創造主の解放は?」
セレスティアが顔を強張らせた。
「世界を再び混沌に沈めかねません。あまりにも危険です」
『タロウ様』
ドラゴンが重い瞳で俺を見据える。
『最終判断は貴方に任せます』
数百人の覚醒者たち。リーナ。仲間。全員を守るために。
「……決めました。システム接続を選びます」
一同がどよめいた。
「タロウ、命を捨てる気か!」
ガルドが声を荒げる。
「他の選択肢はもっと危険です」
俺は振り返り、言い切った。
「創造主の解放は世界規模の災厄を招く。全面戦争も勝算ゼロだ」
リーナが涙に濡れた瞳で俺の手を握る。
「……必ず戻ってきてください」
「約束する」
フィンチが深く頷いた。
「分かった。私も制御を補佐しよう」
セレスティアも一歩進み出る。
「私も力を貸します。責任は、私にもあるから」
封印の中枢部。扉を越えると、目映い光に包まれた巨大な空間が広がっていた。
中央に浮かぶ巨大な水晶球。その周囲を幾重もの魔法陣が回転し、低い唸りを放っている。
「防御システムを起動しなければ」
フィンチが水晶球に手をかざす。
「タロウ君、接続を!」
俺は頷き、水晶に触れた。
烈光が全身を貫き、意識が拡張していく。
遺跡全体が脈動し、石の壁も魔力の回路も、すべてが俺の感覚と繋がっていった。
――冷たい声が虚空から響く。
『システムアクセス開始。ユーザー認証を照合中……』
『認証完了。権限:適合者。アクセスを承認します』
『コマンドを入力してください』
俺は心の奥底で命じた。
『……ここにいる仲間を、すべて守れ』
短い静寂。次いで、機械音が響く。
『命令確認……承認。全防衛プロトコルを解放します』
轟音。遺跡を覆う蒼白のバリアが展開し、夜空の下で脈打つ。
塔の頂から魔法砲台が起動し、光の矢を唸らせながら標的を探す。
石棺が裂け、数十体のゴーレム兵が目を覚まし、重い足音で門や回廊を固めていく。
俺はそのすべてを「視て」いた。
遺跡が、世界が、俺の掌に収まっている感覚。
光が収束し、意識は肉体へと還る。耳の奥にはまだ機械の残響が鳴っていた。
「成功だ!」
俺が報告すると、フィンチが安堵の息を吐いた。
「よくやった。だが……これは序章にすぎん」
次の瞬間、地鳴り。
外には黒い甲冑の兵士たち、先遣隊およそ百名。
「全軍、バリア突破を開始!」
炎と氷と雷が矢のように降り注ぎ、バリアを揺らす。
迎撃砲台が光弾を放ち、ゴーレムが敵兵を粉砕する。
「やったか!」
ガルドが叫ぶ。
しかしフィンチの顔は険しい。
「本隊はまだ来ていない」
30分後。
地平線に現れたのは、三万を超える大軍。
重装騎兵、魔導部隊、攻城兵器――王国軍規模の戦力だった。
「全軍、遺跡を包囲!バリアを破壊せよ!」
大地を揺るがす総攻撃。炎嵐、氷雪、雷雨が同時に降り注ぎ、バリアは悲鳴を上げる。
巨大な石弾が衝撃で亀裂を走らせ、守護の光が崩壊寸前まで追い詰められる。
「もう持たない!」
フィンチが絶望に声を震わせる。
その時――
『タロウ……お前に最後の道を示そう』
雷鳴のような声。
真の創造主だった。
「創造主……!」
セレスティアは息を呑んだ。
『敵意はない。ただ、仲間が蹂躙される様を黙って見ているのが苦しいのだ』
その声は悲嘆を帯びていた。
『お前の覚醒能力……システムで増幅すれば、戦場全体に届く。敵軍に潜む役割持ちを目覚めさせよ』
「敵を……敵の中から崩す?」
フィンチが驚愕する。
『そうだ。ただし代償もある。お前の意識はシステムに沈み、戻れなくなるかもしれぬ』
バリアに走る巨大な亀裂。崩壊まで残された時間はわずか。
「……やります!」
俺は水晶に再び触れた。
奔流のような力が押し寄せ、意識は光の中に飲み込まれる。
システムがうなりを上げ、俺の覚醒能力を何十倍にも増幅。
その力は遺跡を突き抜け、青い閃光となって大軍を包み込んだ。
「これは……?」
重装騎兵が剣を落とし、混乱に叫ぶ。
「なぜ同胞を攻撃していた……?」
魔導兵が震える声で呟く。
次々と、役割持ちたちが目を覚まし、自我を取り戻していく。
「黙れ!作戦を続行しろ!」
役割を持たない指揮官が怒鳴る。
だが兵士たちは武器を置き、仲間に呼びかけた。
「俺たちは騙されていた!今こそ立ち上がるんだ!」
軍勢の半数以上が反旗を翻し、指揮系統は瓦解した。
俺は意識を肉体へ戻し、仲間たちの前に立った。
「……成功だ!」
リーナが涙ながらに抱きつく。
「おかえりなさい!」
外から声が響く。
「こちら元・世界管理機構第三戦団!我々は覚醒した!」
「タロウ様、お話があります!」
遺跡の外には、数百人の覚醒者が捕らえた指揮官を並べていた。
「我々は長い間、嘘に操られてきた……だが、今は真実を知った」
戦士が拳を握り、涙を流す。
「本当の敵は、世界管理機構の上層部だ」
覚醒した騎士が進み出る。
「遺跡を拠点に、反世界管理機構組織を結成したい。まだ眠る同胞を救うために!」
セレスティアが力強く頷いた。
「私も共に戦います」
フィンチが笑みを浮かべる。
「古代の知識を活用し、必ず支える」
『我も力を貸そう』
ドラゴンの声が重く響いた。
仲間たちの視線が俺に集まる。
数百人の覚醒者、元敵軍の兵士たち。
その眼差しは、信頼と希望に満ちていた。
(……なんで俺がリーダーになってるんだ?俺はただのNPCなのに)
そう心の中でぼやきながらも、俺は笑った。
「それじゃあ、みんなで世界を変えていこう!」
大歓声が夜空に轟いた。
こうして、俺たちの新しい戦いが始まった。
反世界管理機構組織の一員として活動するべきか?
創造主と対話するべきか?
遺跡を開放するか?
どうする、田中太郎――
遺跡を拠点とした反乱軍の物語が、今始まった――
続く……




