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第16話 静寂の後の新たな道標

解放兵器と化した装置から、温かな金色の光が戦場一面に広がっていた。

倒れ伏していた敵兵たちが次々と膝をつき、手にした武器を取り落とす。


「……俺は、何をしていたんだ」

「これが……自由、なのか……!」


その声が波紋のように広がり、空気が震えた。

押し潰されていた感情が一斉に解き放たれ、歓喜とも戸惑いともつかぬ声が交錯する。


リーナが俺の隣で小さく息を吐いた。

「……終わりましたね」

「ええ。みんなのおかげです」

そう答えながら、胸の奥が不思議と静かだった。


アルカナは「成功」と言った。

だが、あの瞬間の記憶は霧のように曖昧だ。

ただ一つ、皆が生きている——それだけで十分だと思えた。



終戦処理は、数日を要した。

王都外縁の丘に、覚醒した敵兵およそ4,000名が集められている。


カイザーが冷ややかに命じる。

「武器を置け。整列せよ。抵抗すれば容赦はしない」


兵士たちは沈黙のまま従った。

もはや戦う理由も意志もない。

金属音が地を叩き、地面が武器で覆われていく。


すでに覚醒済みの元敵兵が、新たな解放者たちを静かに受け入れる。

対照的に、指揮官層および精鋭護衛約千名は未だ動けずにいた。

そのうち百名ほどの指揮官が、蒼白な顔で空を見上げている。


セレスティアとアルベルトが交渉の場に立った。

「命は保証する。ただし、戦争犯罪の追及は免れない」

静かな声だったが、誰も逆らわなかった。


やがて護衛たちも次々に武器を置く。

一部は自決を選んだが、もう確かめる気力もなかった。

俺には——その覚悟を見届ける資格がない。


カイザーがこちらへ歩み寄る。

「タロウ殿の覚醒で、あらたに約4,000名が解放されました」

「俺じゃありません。みんなが力を合わせた結果です」

そう言うと、カイザーはわずかに笑い、「相変わらずですね」とだけ返した。



数日後、王都ギルド本部・会議室。

ALFの主要メンバーが一堂に会する。

セレスティア、カイザー、フィンチ、初期メンバーたち、そして俺。

自由の翼からはアルベルトとリックが出席していた。


「皆さんに提案があります」

アルベルトの声が会議室を満たす。


「自由の翼を、ALFに統合していただけませんか?」


沈黙。

セレスティアがまっすぐに尋ねた。

「理由は?」


「タロウさんの理念に共鳴しました」

アルベルトの瞳は揺るがない。

「あなたの下で戦いたい。……いや、あなたと共に歩みたい」


「ただし」

リックが続く。

「諜報活動はこれまで通り維持したい。我々の強みはそこにあります」


セレスティアが皆を見回す。

「意見を」


カイザーが即答した。

「諜報網の拡大は戦略的価値が高い。異論はありません」


「私も賛成だ」

フィンチが頷く。


「賛成の方は——挙手を」

全員の手が静かに上がった。


「決まりですね。今この瞬間をもって、自由の翼はALFに統合します」


統合は正式に承認された。

元自由の翼メンバーは活動内容はそのまま全員諜報部として活動。

アルベルトは諜報部統括として就任。リックはその補佐に。


カイザーが組織体制を確認する。

「代表セレスティア、参謀カイザー、技術チーフはフィンチ先生、諜報部統括アルベルト、そして特別顧問——タロウ殿」


特別顧問。

大仰な肩書きだが、俺の役目は裏方で十分だ。むしろ目立たない方がいい。

支える側にいるのが、きっと俺の在り方なんだと思う。


差し込む朝の光が、まるで新しい時代の幕開けを告げているようだった。



午後。王都の訓練場。

カイザーの声が場内に響き渡る。


「諸君らは今、自らの意志で立っている。その誇りを忘れるな!」


覚醒兵たちは真剣な眼差しで聞き入っていた。


「強制はしない。——残るか、去るか。自分で決めろ」


数秒の沈黙。

そして一人、また一人と手が上がっていく。


「自由を取り戻してくれた恩に報いたい!」

「もう二度と、誰かの操り人形にはならない!」


結局、約3,500名がALFに加わると名乗り出た。

残り500名は故郷へ帰還を選んだ。

どちらの選択も、等しく尊い。


訓練場では、ガルドとエルフィンが新兵を指導し始めた。

剣戟の音、笑い声、風に混じる汗の匂い。

新旧が交わり、一つの組織として息づいていく。


その光景を眺めながら、胸の奥が少しだけ軽くなった。

——少しは、役に立てたのかもしれない。



翌日。王都の復興が本格化していた。

瓦礫を運ぶ人々、修復を進める職人たち。

古代ドラゴンが小さな姿に変化し、黙々と資材を運んでいる。


「助かります、ありがとう」

太郎が礼をいう。

「このくらい、造作もありません」

そう言ってドラゴンは喉を鳴らした。


リーナが手を取る。

「タロウ様、市場に行きましょう」


市場は熱気に包まれていた。

焼きたてのパンの香り。子供たちの笑い声。

広場ではメロディアが歌っている。


『暗闇を抜けて 光の中へ

 新しい明日を 共に歌おう——』


市民たちが輪になって踊り出す。

瓦礫の街に芽吹く、静かな希望。


「……いい光景だな」

思わず呟いたその声が、風に溶けて消えた。



夕暮れ。ギルド本部の食堂。

久々に、みんなで囲む温かい食卓。


「いやぁ、あの時のお前は本当にヤバかったぞ」

ガルドが笑う。


「まるで別人みたいでした」

エルフィンが続ける。

「あの威厳、あの指揮ぶり……」


「覚えてないんだ。本当に、あの時のことは」


リーナが静かに言った。

「タロウ様は、いつも誰かのために戦う。それがあなたの強さです」


笑い声、湯気、食器の音。

それだけで、世界が少し優しく見えた。


食後、メロディアと古代ドラゴンと共に屋上へ。

夕焼けが王都を黄金色に染めていた。


「束の間の平和、か……貴重な時間だな」

ドラゴンの低い声。


「この景色を守りたいですね」

メロディアが微笑む。


「そうですね。」

俺は頷いた。


そこへフィンチが現れた。

「いい報告だ、タロウ君。意志制圧装置の解析が進んでいる。今後も解放兵器として転用できそうだ」

「それは朗報ですね」

「君の判断は正しかったよ」


空を染めるオレンジ。

王都を包む風は、優しく穏やかだった。

ようやく、心の底から息ができる気がした。



翌日、再びギルド本部・作戦会議室。


「王都戦は終わった。次は——我々が掲げた計画を動かす時だ」

セレスティアの声に、空気が引き締まる。


カイザーが地図を広げる。

各チームの編成が発表された。


封印調査チーム:太郎、フィンチ、メロディア、古代ドラゴンほか技術者。

 目的:真の創造主の封印調査、可能ならば解放。


諜報チーム:カイザー、リック、アルベルトほか諜報班。

 目的:世界各国の情報収集と分析。


監視チーム:ガルド、エルフィンほか情報分析班。

 目的:世界管理機構の動向監視。


司令チーム:セレスティアほか連絡班。

 目的:全体統括と指示伝達。


「太郎、封印調査に同行してほしい。創造主と話せるのは、あなたしかいない」

「わかりました。直接確かめます」


「一人で背負わないでいい。私も一緒だ」

フィンチが微笑んだ。


「敵の動きを読むには諜報が要だ」

カイザーが言う。

「我々の網を最大限に使う」

アルベルトが続ける。


作戦は整った。

諜報・監視チームは翌日出発。

封印調査チームは3日後、手はじめにヴァルハラの大遺跡へ向かう。


会議室に深夜まで灯りがともっていた。

それぞれの決意が、地図の上で静かに交錯する。



翌朝。


清澄な空気、金色の朝日。

諜報班の準備が進む中、ガルドとエルフィンが俺に手を振った。

「タロウ様、どうかご無事で」

「おたがいに頑張りましょう」


カイザーが短く言う。

「必ず成果を持ち帰ります」


セレスティアは監視網の最終指示を飛ばしている。

フィンチは資料をまとめ、出発準備を進めていた。


俺は王都の街並みを見下ろした。

復興の音、子どもたちの笑い声、遠くの歌声。

メロディアが旅立つ仲間たちに祈りの歌を送っている。


——みんながそれぞれの道を歩んでいる。

俺はただ、その背中を支える。

それでいい。

それで、きっといい。


「太郎」

振り向くと、セレスティアが立っていた。

「あなたのおかげで、この世界は動き出した。……それが正しい方向かは、まだ分からないけれど」

「私は、あなたと共に歩めることを誇りに思う」


柔らかな笑み。

その一言が、不思議なほど胸に沁みた。


——つかの間の平穏。

だが、その先に新たな風が吹こうとしていた。


太郎と仲間たちの物語は、まだ終わらない。


――続く。


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