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第14話 意志の交響曲(前編)

夜明け前の薄曇りの空が、なんとも重苦しい空気を運んでくる。

俺は王都外縁の監視塔に立ち、街並みを見下ろしていた。


街では覚醒した市民たちが普通の生活を送っている。

パン屋の煙突から煙が上がり、早起きの商人たちが荷車を引いている。

平和な光景だ。


しかし、地平線の向こうに黒い煙のような影が立ち上っているのが見える。


「あれが……世界管理機構の本隊か」


隣に浮かぶアルカナの光球が不安げに揺らめいた。

『敵軍の接近を確認しています。距離およそ20キロ、規模は予想通り』


俺にできることは、本当にあるのだろうか。

NPCとして、みんなを守る役割を果たせるのか。


重要なサポートキャラクターとして、ここが正念場なんだろうな。



「タロウ様、お疲れ様です」

カイザーが階段を上がってきた。

手には偵察報告書を握っている。


「状況はどうですか?」


「我が軍はALF戦闘員400、自由の翼100の合計約500名程度」

「対して敵軍は5000名、更に複数台の巨大な装置を牽引して進軍しています。」


報告するその表情は厳しい。


「問題は、その装置の大きさです。我々の予想を遥かに上回っています」


「どのくらいですか?」


「建物に匹敵する巨躯です。車両に載せられていますが、まさに移動要塞と呼ぶべき代物です」


アルカナが冷ややかに告げる。

『装置からの感情波を探知しました。これまでにない出力レベルです』


そこへセレスティアとアルベルトが現れる。

2人のその眼差しに迷いはなかった。


「これまでとは次元の違う脅威ですね」

セレスティアが地平を射抜くように見つめる。


「最後の戦いになるかもしれません」

アルベルトは淡々と、しかし確固たる声で告げた。



王都外縁の丘陵地帯に、ALFと自由の翼の連合軍約500名が布陣していた。


古代ドラゴンが偵察飛行から戻ってくる。

『敵軍の詳細な配置を確認した。前衛2000、中央に大きな装置、その周りを囲むように小型車両と装置が6台とその護衛が約1000、後衛2000の陣形だ』


メロディアが高台に立ち、戦士たちを鼓舞する歌を歌い始めた。

その旋律は風に乗り、戦場を渡って兵たちの胸を揺さぶる。


剣を構える音、盾を打ち鳴らす音が次々と重なり、やがて軍全体がひとつの行進曲となる。

連合軍の兵士たちの表情が引き締まり、覚醒解放戦線も自由の翼も、その歌声に導かれ……

ひとつの意志へと共鳴していった。


「いくぞ!」

ガルドが剣を掲げる。


進軍が始まった。



序盤は、俺たちが優勢だった。


俺たちは少数精鋭の機動力を生かして敵陣へ切り込み、俺の覚醒範囲4キロを起点に、敵の前衛部隊500名を段階的に目覚めさせていった。

遠距離射程は約500メートル。もはやここは武力の優劣で決まる戦いではない。

敵が武器を振るうよりも早く、俺は彼らの胸に火を灯した。


彼らの瞳に光が戻ると、すぐに混乱が広がった。


「俺は何をしていた……?」

「自由だ……自由だ!」


覚醒した兵士たちは迷わず俺たちに寝返り、戦場に混乱が広がる。

ガルド率いる突撃隊が敵左翼を崩し、エルフィンの魔法が仲間を癒す。

自由の翼のリック指揮する破壊工作班も、敵の補給線を攪乱していた。


自軍1000 VS 敵軍4500 戦況は相変わらず不利だが更に覚醒することさえ出来れば勝機はある。


「このまま押せる……!」

わずかに希望が見えた――その刹那。



敵の本当の脅威が姿を現した。


轟音とともに巨大車両が前進を始める。

その上に聳えるのは、建物ほどの巨体を誇る意志制圧装置。


「……あれが」

フィンチの声が震える。


さらに周囲には小型の無効化装置が6基、精鋭1000の兵に守られていた。

彼らは覚醒耐性を持つ訓練兵――俺の力が通じにくい。


「あらたに用意したのか」

カイザーが歯を食いしばる。


「戦術を変更する!」

カイザーが叫ぶ。

「目標はただ一つ――装置の破壊だ!」


だが奴らもまた学んでいた。

遠距離から圧力を加え、俺の覚醒範囲に踏み込ませない戦法を取ってきたのだ。



やがて、巨大装置の上からアンテナが天へと突き立った。

高さ30メートル――王都の塔にも匹敵する。


空気を震わせる低周波の振動が響く。

「あの装置から、なんだか嫌な感じがする」

背筋を這うような悪寒に、俺の直感が警鐘を鳴らす。


アルカナの声が鋭く響いた。

『強力な感情波干渉を検知。臨界レベルに達しつつあります』


次の瞬間、薄青い光が大気を貫いた。

王都の上空に、波紋のような光が広がる。

それは美しくも、見る者の心を縛る呪いを宿した輝きだった。



効果は瞬時に現れた。


王都に暮らす市民たちの目から、生気が失われていく。

先ほどまで生き生きと活動していた人々の表情が凍り、動きがぎこちなくなる。

にぎやかだった声が止まり、街のざわめきが静寂に変わる。


後方に控えていた医療班や通信兵までもが、次々と無気力に沈んでいく。


「太郎さん……どうすれば……」

本来役割持ちではなかったリーナまでも無気力になっていく。


エルフィンもガルドも動いてはいるが、剣も魔法も均一で機械的――人間らしい柔軟さを失っていた。

自軍全体の動きが単調になり戦術を考える力、臨機応変に対応する力が奪われていると確信した。


「やばい……このままじゃ……」


焦った俺はアルカナに問いかける。

「第3段階権限は使えるか?」


『使用可能。ただしリスクは重大です』

アルカナの光が強く瞬く。

『稼働時間は10分、クールダウンは1時間。加えて太郎様の感情波が全体に伝播されます。動揺すれば、全軍が揺らぎます』


「つまり、俺が動揺すると、みんなも動揺するってことか」


『その通りです。人格への影響も避けられない可能性があります』


人格への影響。

それがどんなものなのか、正直想像がつかない。


でも、このままじゃみんなが……


「守れるなら……俺は構わない!」


虚ろな兵士たちに振り返り、声を張る。

「新しい力を使う!絶対に切り抜けてみせる!」


メロディアが微笑んで頷く。

「タロウ様なら、できます」


セレスティアとアルベルトも、短く言葉を重ねた。

「お願いします」

「頼む」



だが敵も容赦はなかった。


意志制圧装置が本格稼働を開始する。

低周波の唸りが戦場を揺らし、さらなる光が放たれようとしていた。


「アルカナ……まだか!」


俺は覚悟を決めた。

第3段階権限――意志同調フィールド。


脳裏を流れる奔流のような力。

意識が何かと融合していく。


青い光が迫る。

時間はもうない。


俺の周囲でアルカナの光が弾け、眩い輝きに包まれた。


――頑張れ、田中太郎。


――続く。

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