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夏の恐竜

 茹だるような暑さの中、蕎麦屋のショーケースの中に恐竜を見つけた。

 涼やかなガラスの器からニョキっと顔を出したトコロテンのサンプルだ。表面は少し埃っぽくて、コーティングも剥がれかけている。恐竜をジッと見つめていると、恋人の翔が汗ばんだ熱い身体を擦り付けるように密着させながら「ああ、ところてんすか? いいっすね」と言った。その言葉に心が跳ねあがり、胸の内が滾りだす。息遣いが荒くなっていくのがわかった。彼の嬉しそうな笑い声が聞こえてくる。吐息のようにも聞こえるが、俺には笑い声に聞こえた。

「先輩、どうしたんすか?」

「ん、あ、ああ……、いや、ところてん。ところてんのこの、サンプルがさ、恐竜に見えるなって……、そう、思って、さ」

 そう答える。自分でも驚くほど歯切れが悪かった。

「えー、恐竜っすか? ……まー、そう言われれば、たしかに首長竜みたいに見えるっすけど……、でも、どっちかというとネッシーとか、そんなんじゃないですかね?」

 翔はそう言ったあと、顔をさらに近づけながら耳元で「……ねぇ、先輩。ホテルでところてんでも?」と囁いた。艶のある、官能的な声だった。

「え? ……今から、か……?」

 思わずそう返す。そのあとすぐに翔の悪戯っぽい声が聞こえ、自分の勘違いに気がつき慌てて口を押さえる。

「先輩、俺、食べ物のこと言ったんすけど……」

 翔はそう言いながら白く細い指を俺の胸から下に向けて這わせていき、耳元でうんと艶っぽく、挑発するような声で「……まあ、でも、先輩がシたいんならそれでもいいっすよ? 商談まで時間ありますし、汗になってますからシャワー浴びたいし……、」と囁いた。頭がくらくらとしはじめる。暑さにやられたのか、それとも翔の声にやられたのかは分からなかった。

 気を間際らせようと思い、ショーケースの中のところてんのサンプルに視線を向ける。しかし、それは、もう恐竜には見えなかった。

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