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 アタシは、キャンセル・カルチャーというものに辟易としている。

 というのも、アタシは、なにかを無かったことにするのは愚かしいことであり、それは歴史を否定するのと同義だと思っているからだ。そして、いま、目の前で友人のKが、かつて熱狂したはずの推しをキャンセルしている──でさぁ、ウチとしてはさぁ、今井のヤツさぁ、ホントふざけんなって、そう思ってるんだよねぇ。もう、ファン辞めたわ。グッズも安かったからさぁ、おっさまに頼んでお焚き上げしてもらったぁ──Kはだらしのない声でそう言った。もう何遍も聞いている。幾つかのバリエーションはあるが、おおまかなストーリーは《不祥事を起こした男性声優(仮にHとしておこう)に幻滅したから彼をキャンセルした。そして、二束三文にしかならないグッズを彼女の実家の菩提寺でお焚き上げをしてもらった》というものだった。Hは、かなりの人気で数多くのアニメやゲーム、それこそタイトルとあらすじしか分からないにも関わらず国民的と称されるような伝説級のアニメにも出ていたのだが、残念ながら不祥事が報じられてすぐにその全てがキャンセルされてしまった。そして、それ以降、Hは急速に忘れ去られてしまった。おそらく、憶えている人はKと同じ話を延々と聞かされているアタシのふたりくらいだと思っている。他の人は憶えていない。不祥事が報じられた瞬間、魔法に掛かったかのように綺麗さっぱり忘れてしまっている。共演者や親交のあった有名人すらもそうだ──ちょっとぉ、ねぇ、聞いてるぅ? ──Kの声が響く。彼女は新しい推しの話を嬉しそうにしていた。アタシが軽く頷きながら適当な言葉を返すと、Kは聞いてもいないアニメの話を熱く語り出した。もちろん、新しい推しが出ているアニメだ。アクスタも買ったらしい。

 多分、彼女の中にあるHはこれから時間を掛けながらゆっくりと風化して散っていく砂礫のように消えていくのだろう。社会にあれだけ溢れかえっていたHの軌跡は、すでに消えている。まるで、そんな人物など最初から居なかったかのように。

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