E9 真実とは
(そもそも、あのデバイスの正体も知りたいしさ)
悪い感情に浸っても良くないことくらい分かっている。分かっているが、ときには立ち止まって、そういった感情に耳を傾けなければならない。
その矢先、インターホンが鳴った。
(ま、飯食ってから考えても良いか)
出前だろう。一応インターホン越しに声がけしてみる。
「はい~」
「デリバルです」
「ちょっと待っていてください~」
ベランダで酒とタバコに浸る守原に、ライデンは知らせに行く。
「美夢さん、デリバル来ましたよ」
「うぃ~。ひっく。デリバル? そんなん、頼んだ覚えが」
「もうお酒は没収ですね」守原の酒を手に取る。「玄関に配達員さんがいるので、受け取ってください。私は家主じゃないので」
「はーい……」露骨にうなだれる。
(おれだって酒は飲んでいたけど、これじゃ依存症だぞ? 大丈夫かよ、お隣さん)
千鳥足でデリバリーの荷物を受け取り、守原はなんとかベッドにもたれる。
「食べないんですか?」
「気持ち悪い……」首を曲げ、頭を下に落とす。
「こんな暑さの中、焼酎をそのまま飲んでいたら脱水するんじゃないんですか? ほら、お酒って水分なくなるって言うでしょ?」
「あれはあたしの命の水だから、きっと大丈夫……気持ち悪い」
「大丈夫そうには見えないですけどね……」
仕方ないので、コップに水道水を入れて守原へと渡す。この家、天然水すら置いていない。とても恐ろしいことに存在する飲み物は、本当に酒だけである。良く今まで死ななかったものだ。
「ありがとぅ~……。あー、美味しい。水がうまい。部活帰りみたい」
「なんの部活していたんですか?」
「中学は陸上部で、高校はバスケ部。ライナちゃんの視線だと分かんないかもだけど、あたしって結構身長高いのよ……おぇえ。あ、大丈夫だから」
正直、この状態で外へ出たら巨人国家に入れられたと勘違いしかねないほど、ライデンの身長は縮んでいる。140センチ前半といったところか。
だけど、守原との差は、よくよく考えてみたらかなり見上げるほどに開いている。目視で170センチ後半はあるだろう。ひょっとしたら180センチに乗っかっている可能性すらある。男性時代のライデンとさほど変わらない高身長だ。
「うぃー……。蕎麦だっけ? 食べて良いよ」
「あ、いただきます」
こうなると、アルコールが抜けるのに時間がかかりそうである。ここはもう眠ってもらって、親と連絡をとったほうが良いかもしれない。
「おいしいです」
「それは良かったわ……ひっく。ライナちゃん、あたしもう寝る。あたしを縛るすべてのものの手に、あえてキスする夢を見ながら」
「あぁ、そうですか……」目を細める。
とりあえず、蕎麦と天ぷらはとても美味しかった。今のところは、それだけで充分だ。隣で寝ゲロとかしてこなければ、それで良い。
「寝ましたか?」守原の顔の近くで手をひらひらと振る。「寝たか。さて、と。まず水道水でも飲んで、さっさと決めちゃうか」
すでにいびきをかいて二度寝し始めた限界OLはさておき、ライデンは自身のスマホで母親に電話しようと、一旦守原の家から外へ出る。
(土曜日とはいえ、誰もいないか。つか、2階っておれと守原さんの部屋しか使われていないんだな)
と、ガラガラなアパートの中でライデンは電話をつなぐ。
『どうしたの? ライデン』
「母ちゃん、信じてもらえるか分かんねぇけど──おれ、幼女になっちまった」
『あら、大変だね』
「……疑わないの?」
『だって、アンタをその姿にした〝逆成長デバイス〟はパパが送ったものだよ』
「はぁ?」
『パパに変わるよ。そこで話しな』




