E8 迎え酒とタバコ最高☆
(まぁ良いか。それこそ、魔法科学でなんとかしているのかもしれんし)
休みの日ということもあり、守原なりにストレスを発散しているのだろう、と捉えることにしよう。
(そんなことより、飯だ。一応おれもカネは持っているんだけど、どうやら払ってくれるみたいだし……そうだな。きのうはカレーだったし、きょうはなににしようか)
あの魔力増強剤が入るもの──といっても、ふりかけみたいにかけてしまえば良い気もするので、ここは適当に蕎麦にしておこう。
「よし。美夢さん~。きょうの朝ご飯、蕎麦で良いですか?」
ベランダの向こう側から声が聞こえた。
「良いわよ~。あー、迎え酒とタバコって最高よね~」
(苦しみ抜いて死ぬ羽目になりそうだな、こりゃあ)
ちょっと悪態を心の中で突きつつも、奢ってもらえるのであれば口にはしない。それが優しさなのかは分からないが、世の中一問一答で動いていないため仕方ない。
やがて、守原がベランダより部屋に戻ってきた。顔はやや赤く、すでに酒へ呑まれ始めているようだった。
「どれくらいで届くかしら?」
「10分から20分らしいですよ」
「なら、これからのお話でもしましょうか」
急に真剣な眼差しになった。先ほどまで迎え酒していた人間の目つきとは思えない。
「まず、お父さんとお母さんの喧嘩はどうなったの?」
(そういや、そんな設定だったな。引き伸ばすか)
「まだ喧嘩しているみたいです。もしかしたら、もうお兄ちゃんに頼るしかないかも」
「家庭環境は複雑怪奇ね……」守原は腕を組む。「でも、そのお兄さんがいないのなら、どうすることもできないんじゃないの?」
「そうなんですよ。兄が神隠しにあったかのように消えちゃったので」
「うーん。難しいわね。ご両親は喧嘩中。お兄さんはどこかへいなくなった。こうなったら……」
「こうなったら?」
「あたしが君の親代わりをしましょうか」
「へ?」
「家庭のことは聞かないわ。それがライナちゃんを傷つける可能性もあるしね。そしてお兄さんがいないとなれば、当分の間はあたしが君の面倒を見るしかない」守原はアルコールで充血する目を見開き、言った。「もちろん、ご両親が仲直りして家庭へ戻れるのが一番だけれど、それが叶うとは限らない。世知辛い世の中だもの」
守原の提案は魅力的なものだった。どのみち、実家に戻ってリスタートするのを念頭に置いているライデンだが、この姿と声では説得するのにそれなりの時間がかかる。ここが魔法科学の世界であっても、性別が入れ替わった挙げ句年齢も戻ってしまった、なんて話を信じるかは全くの不明瞭だからだ。
もちろん、両親のことは信じている。実家に戻り、魔力を得たのをうまく使う。児童労働で守原の属す〝ウィザードリー〟とまではいかなくても、それなりの企業で働くこともできるはずだ。
万事、うまく行くと信じよう。親を信じ、守原を信じる。一度落伍者になった青年でも、今や愛らしい金髪褐色幼女なのだから、きっと大丈夫だと。
そしてそれらを踏まえ、
「良いんですか?」
と、幼女らしい態度で尋ねてみる。
「良いわよ。姪っ子の面倒見るようなものだしね」
頭を垂れる。「なら、お世話になります。美夢さん」
「ホント、礼儀正しいわね」クスリと笑う。「でも礼儀も知らない子よりは、よっぽど良いわ。さて、あたしはまた一服してくるわ。まだ届きそうにもないしね」
まだ10分くらいしか経過していないが、この殺人的な暑さの中でも喫煙と飲酒が大事らしい。もう止める理由もない。
ライデンは、分かりました、と手を振るのだった。
(……あぁ、不安なんて消えねぇさ。親をどうにか説得しないと、いろんな計画がぶっ壊れるしよ)
不安は消えなくても、それが、それこそが人間らしさというものだ。




