E7 〝私に魔法を教えて下さい〟
(これが、魔力?)
魔法科学を専攻してきたライデンなら分かる。この、湧き出る力が魔力であることを。身体中が温まり、それでいて酷暑にやられてしまうほど暑くなく、むしろ涼しさすら覚える。ちょうど良い体温へと、魔力が導いてくれているのだ。
(あの、魔力増強剤が入ったカレーのおかげか?)
ライデンはきのうの出来事を思い出す。紫色で、到底美味しそうには見えない、しかし味自体は悪くないレトルトカレーを。守原は確実にこう言った。これには魔力増強剤が入っていると。
「んんー。抱き枕ちゃんはどこー」
寝言でとぼけているが、つまるところ守原の腕前は本物である。彼女についていけば、もしかしたらあの〝ウィザードリー〟で働くこともできるかもしれない。
(こんな姿になって、まさかチャンスが巡ってくるとは。人生なにがあるか、分かったものじゃないな)
喜びで頬を緩める。これなら、魔導書も解読できるかもしれない。一流の魔法使いになれる切符は、目の前にやってきている。
(といっても、喉が乾いたな。自分の部屋戻って、麦茶でも飲むか)
他人の冷蔵庫を物色するのはよろしくないし、どうせ酒か腐った食べ物しか入っていないだろう。となれば、一瞬だけ自室に戻ったほうが良い。
足音を殺しながら、ライデンは一旦ドアを開ける。そのまま隣室、基ライデンの部屋に向かい、麦茶をゲットした。
「いやー、あんなヤニ臭くて良く眠れるな」
麦茶を飲み干し、ライデンは再び彼女の部屋に戻っていく。もし守原が起きていても、兄がいるかどうか確認しに行きました、とでも言えば良い。
(ひでぇ寝相)
心の中で、ライデンはそう呟く。ブラジャーとパンツだけで眠りながら、心底幸せそうな表情でひっくり返ったカエルになっていた。
「んー、ライナちゃん?」
守原が目を擦りながら起き上がってきた。酒臭い息を吐きながら、彼女はまだ寝ぼけ眼だ。
「おはようございます」
「ああ、うん。朝ご飯、食べる?」
服装のことなど気にも留めていないらしい。ライデンは目を逸らしながら答えた。
「はい、でも──」
「あ、そっか。着替えなきゃ」
守原は慌てて立ち上がり、タンスから服を引っ張り出す。あまりの勢いで中身が散乱したが、即座に収納魔法で片付けてしまった。
「ねぇ、ライナちゃん。きのうの魔力増強剤、効果あった?」
急に真面目な表情になって、守原が尋ねてきた。この態度の豹変ぶりは、さすがウィザードリーの社員というところか。
「はい。なんだか、体の中から力が湧いてくるような……」
「そう! やっぱり!」
守原は両手を叩いて喜んだ。
「実はね、あの増強剤、私が開発中のものなのは知ってるわよね? でも、副作用が強すぎて実用化できなくて──」
「え?」
「大丈夫、あなたみたいに魔力の少ない子には安全なの。むしろ、効果が高いくらい」
ライデンは複雑な心境になった。つまり、彼女は実験台として自分を使ったということか。
だが、それは良いチャンスかもしれない
「美夢さん、私にもっと魔法を教えてくれませんか?」
守原の目が輝いた。
「もちろん! でも、その前に朝ご飯よ。今度は普通のヤツを作ってあげる」
「あの、宅配でも──」
「大丈夫!! 私、料理も得意なのよ?」
守原は台所へ向かっていった。が、冷蔵庫を開けた瞬間、
「あ」
「やっぱり、宅配で」
「うん、そうね」
ふたりは、顔を見合わせて笑った。
「なに頼みましょうか。あー、ライナちゃん決めて良いわよ。私は一服してくるわ」
さすがに(シラフのときに)子どもの前で喫煙するほど、腐ってはいないらしい。一応酔っ払っていないようだし、そういう良識はあるのだろう。
と、思っていたら、焼酎のパックを片手にベランダへ出やがった。もはやアルコール依存症である。




