E5 全裸の自分を見つめる、罪悪感
そもそも、10歳にもなればひとりで風呂くらい入れる。そして今のライデンは10歳の女の子。それを貫き通すだけだ。
守原は少し落胆したように肩を落とした。本当にロリコンなのか? 歳の離れた妹や姪がいて、その子となかなか会えないことが寂しいだけ……だと解釈しておこう。それほどまでに、女性のロリコンなんて珍しすぎる。
「んじゃ、お風呂行ってきます……と思ったんですけど、パジャマは──」
「あるわよ! 可愛いのが」
今度は興奮気味に、守原はいかにも子ども向けのパジャマをタンスから出してきた。なぜそんなものを持っているのか。やはり先ほどの考察が正しいか。
「えーと、妹さんか姪っ子さんでもいらっしゃるんですか?」
この際、聞いてしまおう。別に聞いたところでたいした問題はないはずだ。
「えぇ、姪っ子ならいるわよ。たまに遊びに来て、って言ってるんだけど、汚部屋には近づきたくない、って反抗期になっちゃったのよ。そんな散らかしてるつもりはないんだけれどね」
(酒瓶がそこらに転がっている部屋なんて、年頃の子は近づきたくないだろうな……。おれだって、同じ立場だったら絶対嫌だし)
そう思い、眉を潜めるライデンになにか思うことがあるのか、
「どうしたの? もしかして、この部屋普通に見たら散らかってるかしら?」
「大変失礼ですけれど、そうですね」
もう満面の笑顔で言ってしまおう。そうすれば、守原も少しは変わってくれるはずだ。
「そ、そう」
顔を引きつらせ、守原は〝収納魔法〟を展開し始めた。先ほどと同じく、数センチほどの小さなブラックホールみたいな現象が部屋に発生する。
「ちょっと片付けるから、お風呂入ってきてね。ライナちゃん」
「分かりました」
そんなこんなで、ライデンは風呂場へ向かう。同じアパートの同じ部屋構成なので、迷うわけもない。今着ているワイシャツを脱ぎ、この姿になってから初めて自分の裸体と対面する。
ちょっとした緊張感の元、狭い風呂場に入っていった。
その第一印象とは、
(風呂場、汚ねぇなぁ)
至るところにカビが生えていて、黒ずんでいる。仕事はできるが、それ以外はまるでダメな人間、と捉えたほうが良さそうだ。
(裸体は……うわ、これ良いのか? ネットへ流したら、あしたには捕まっているぞ。果たして28歳独身が見て良いものか)
脱色した金髪、緑色の目、褐色肌は身体が焼けているわけではなく、全身がそうなっている。産毛も生えていない、そのまま彫刻品にでもできそうな身体だ。
(とりあえず、身体清めるか。その後風呂だな)
なんとなく、自分の性器を見ることに罪悪感を覚える。胸部も。というか、全身そのものに。
とはいえ、そういった感情を抱いていても話は進まない。ライデンは身体を適当に清めてしまう。
それにしても髪の毛を洗うのが面倒だし、そもそも終わった後ドライヤーで乾かすのも非常に面倒臭そうだが、まぁそのうち髪は切りに行こう。
(ふーっ。まともに洗おうと思ったら、結構時間かかっちゃったな)
髪の毛を湯船に入れるのは良くなさそう (汚い風呂だが)なので、髪を無理やりまとめて風呂へ入る。
(さて、これからどうしようか)
このままだと、帰してくれなさそうだ。いや、親が仲直りしたと嘘つけば良いが、それだと隣の部屋にライデン、基ライナがいることに矛盾が生じる。親をすぐ説得できるわけないため、ライデンは逆上せる勢いで風呂に浸かりながら、考え込む。
(現代日本で、親やそれに準ずる存在の庇護なく生きるのは無理だ。なら、どこかで正体を明かすしかないか。しかし、タイミングを完全に逸した感は否めないな。いや、待てよ──)