E38 身体と魂が不一致とは限らない
ライデンの評定は〝大魔術師〟だが、その地位に立つためには〝悪魔の片鱗〟と呼ばれる近距離戦闘特化の魔術を覚える必要がある。幸いなことに、魔法科学デバイスを使えば〝悪魔の片鱗〟を取得できるので、ライデンは横たわりながら有線イヤホンらしき物体を耳につける。
「どう? ライナちゃん」
片耳だけイヤホンみたいな物体を入れているので、守原美夢の声が聞こえる。不安げという声色がよく似合う。
「大丈夫ですよ、守原さん。悪魔の片鱗デバイスは成功率99パーセント超えですから」
ふと、心に99パーセントという言葉がちらついた。つまり、1パーセント失敗するということか。
まぁ、よほどの悪運でもない限りそんなことはあり得ないと、ライデンは音楽なのか不協和音なのか怪しい音を聴いていると、
『エラー、エラー、エラー』
……まさかの現実が待っていた。エラーを知らせる音は、すなわち〝悪魔の片鱗〟を取得できなかったというわけだ。
そんな現実を受け入れられず、ライデンはふらっと立ち上がる。
「ど、どうしたの? ライナちゃん」守原はエラー音を出すデバイスに気がつく。「嘘でしょ!? 魔力不足以外でエラー出すなんて!!」
「……こうなったら、プランBで行くべきでしょ」
「プランB?」
「悪魔の片鱗が記されている魔導書は必ずある。戦闘向けとしてはもっともポピュラーだから、なんなら図書館でも借りられるかも」
「で、でも。魔導書のほうが魔力消耗激しいわよ?」
「美夢さん、イリヤのところへ理亜を取り返しに行ったときのこと、覚えています?」ライデンは口角を上げる。「今、私は逆成長の真っ最中です。年齢が若ければ若いほど、成長速度が上がっていくんです。というわけで、図書館行きましょう」
「え、えぇ」
ライデンは雪女に関する魔導書をある程度読み進めたので、熱波を寒さだと認識しなくなった。これも、魔力が多いことへの裏打ちになっている。魔獣型の魔導書なんて、並みの人間では数ページも読めないのだから。
「でも、ライナちゃん」
「なんですか?」
「君って、もともと男性だったの?」
しかし、イリヤと出会ってしまったことは、こういう疑念につながってしまう。イリヤは姿形以外男性であることを隠さなかった。なので、守原が疑うのはある種の必然といえる。
「そうだとしたら?」
「身体と魂は必ずしも不一致とは限らないわ」
「間違っちゃいないですね」
「でもひとつだけ言っておく。ライナちゃんことは好きよ」
「ありがとうございます」
ライデンと守原は、似たような哲学を持っているようだ。
そのままライデンと守原は車に乗り、ライデンは後部座席に座った。
「図書館まで10分くらいね」
「分かりました~」
そう言い、車が走り出すと、
「美夢さん」
「なにかしら?」
「さっきから尾行されています。私みたいな素人でも分かる尾行です」
「嫌な予感がするわね……」
「図書館で騒ぎを起こすわけにはいかないから、そこのコンビニの駐車場に停めてしまえば良いのでは」
「そのあと現地のピースメーカーに身柄を渡すわけね」
「それで行きましょう」
守原の運転する車は駐車場に停まり、降りてくる連中を待つ。距離を詰められすぎても困るので、守原はピースメーカーに配られるゴム弾の入った拳銃を持って外へ出る。
「なんの用かしら?」
駐車場の開けた場所で、ライデンは窓を開けながら経過を観察する。
「高杉組、といえば分かるか?」
「ヤクザがピースメーカーになにをするの? その気になれば、ヤクザなんていつでも捕まえられるのよ」
「いやー、おれらは必要悪だ。イリヤ・ファミリーとかいう半グレ集団に勝てるのは、おれたちの協力ありきだろう?」男は間髪入れず言う。「イリヤ・ファミリー幹部のひとりの居場所を教えてやる。〝悪魔の片鱗〟の達人って言われてるヤツだな」




