E37 一問一答で動いていない世界
ライデンはつばを飲み込む。
「そんなこと、私の権力じゃできない」
「だろうな」分かっていたかのような態度だった。「なら仕方ない。当局に自首して司法取引を行うか。面倒だがな」
「……アンタは仲間をなんだと思っているんですか?」
「あァ? なんだ、藪から棒に」
「裏社会をともに生きてきた仲間なんでしょ、密告するヤツら。いくら平穏が欲しくても、私は仲間を売れない」
「そりゃあ、嬢ちゃんがリーダーやボスになったことがない故に言えるんだよ」
「……。」
「おれは薬物取引を禁止してきたが、手足になるはずのメンバーは金儲けのためにご法度に手を染めた。おれたちがいないほうが、この街は平和だ」
ライデンはピースキーパーに渡される、筋注通報用の通信機を押した。今すぐに応援を呼べなくても、高精度なマイクが拾った音が必ずライデンを助けてくれる。
「それこそ、育成能力が足りないってことじゃないんですか?」
「煽ってくれるねぇ。おれたちはただ、オマエのオヤジをぶっ殺して溜飲を下げたいだけなのに」
「父殺しは尊属殺人に当たるので、やめておきますよ」
(そろそろ頃合いかな……)
いくら本人が自首すると言っていても、所詮相手は無法者だ。いつ反故にされるか分かったものではない。
しかし相手は〝超魔術師〟。大国の軍隊と渡り合えるほどだ。対してライデンは〝大魔術師〟。格下である。なので、応援を呼ぶ必要性があった。
「おいおい、おしゃべりはもうおしまいかい?」
「えぇ……、なぜなら」
ライデンは立ち上がり、廃工場に冷気をもたらす。夏に似合わない寒さは、あっという間に元工場部分を凍らせていく。その魔の手は、当然イリヤにも伸びてくる。
「グラキエース・ワールズ」
スケートができそうなほど、地面は凍った。
一方イリヤ。一瞬呆気にとられた表情になったが、すぐ空中高く舞い上がることで回避した。
「幻獣型:不死鳥だ」イリヤは自慢げに青白い翼を動かす。「まさか同盟を持ちかけようとしたら、ピースメーカーまで呼ばれるとは思ってもなかった。アンタは相当オヤジが好きなようだな」その刹那、急速力でライデンの身体に蹴りをくわえた。
あまり喧嘩慣れしているとはいえないライデンは、その攻撃をもろにくらって腕が痺れる感覚に苛まれた。
「いったぁ……!!」
「〝悪魔の片鱗〟も知らねぇのか? まぁ良い。この姿を知った上でおれとの同盟を結ばないなら、アンタだけでも消しておこう」
ライデンは自身に精巧に似せた雪だるまを出す。それを囮代わりに、あたり一面に走りながら展開した。彼女は一旦静止し、次の策を練る。
「デコイ……!!」
まず、単独撃破は困難に等しい。イリヤは幻獣型の不死鳥。そもそもまともな攻撃をくらわないだろう。なら逃げに徹する? いや、体力的にも限界が来ている。
であれば、ここは……。
「逃げ回ってばかりでよぉ、それでもおれに攻撃してるつもりか!?」
デコイに扮したライデンは一歩動き、口の中に冷気をため始める。
(一撃を与えて、その隙に逃げる。この道しかない……!!)
「グラキエース・インパクト!!」
かくして、冷気の塊を吐き出したライデンは、冷たさのあまり再生に時間のかかっているイリヤをよそに廃工場から出ていく。
「ピースキーパーです。中にひとり暴走術師がいます」
外で待機していたピースメーカーに、ライデンは情報を伝える。
「なるほど。判定は分かる?」
「超魔術師だと思います」
「応援部隊を呼べ! バスターズだ!!」
「了解!」
ライデンはそのまま現場をあとにして、流しのタクシーを拾い旧守原の家へ戻っていくのだった。
*
「連絡手段がないんじゃな」
ライデンは桑田と戦いのすえ、携帯電話を壊していた。守原の電話番号も思い出せないので、焼け焦げた旧守原宅の前でボーッと待つ。
「蒼月学園の者だ」
そんな最中、男性の野太い声が背後から聴こえてきた。
「なんですか」
ライデンはリラックスしているような感じで、人工芝をちぎっては投げていた。
「君は有力な生徒だが、いかんせん子どもなので基礎すら学んでいない。今回は中学・高校で習う基礎を覚えてもらうぞ」
「基礎ねぇ」草をむしる。
「〝悪魔の片鱗〟という単語を聞いたことは?」
「ありますよ。VIP警備や魔法警察、あと自衛隊の魔法隊にも必須でしょ」
「種類は?」
「魔力を外側か内側に流す〝腕力強化〟。魔力から味方・敵を探知する〝捜索術式〟。あとー、ああ、あれだ。空を歩くように移動できる〝飛行術式〟。ほとんど戦闘向けだし、一般魔法使いが取るメリットは少ないですね」
「では、今なすべきことはなんだ?」
「……分かりましたよ。〝悪魔の片鱗〟覚えましょうか」
ライデンは、魔力がなくてクビにもなった。今のライデンはライナという名の少女であり、魔力に恵まれている。人生なにがあるか分かったものではない。
シーズン2、おしまいです。
閲覧ありがとうございます。
ブックマーク、感想、良いね、評価、ぜひお願いします。




