E30 月とスッポンでも
「す、すげぇ……。デバイスだけでなく、再生装置まで自作するなんて」
理亜は素直に驚嘆していた。魔法科学デバイスを作るには、プログラマーとしての才覚も必要だし、魔法を理解していなければならず、電子工学のセンスもなければいけない。そう思えば、守原が如何に優れた開発者か分かる。
「さて、行きましょう」
車は守原の新居へと向かっていく。
*
ライデンも暮らしている守原の新居は、セキュリティがしっかりした分譲マンションだった。四畳半の部屋ではふたり暮らしはできないと、3LDKの家を買ったのである。
守原は入口で指紋認証を行い、4階にある家へとエレベーターで向かっていく。
「理亜くん、デバイスの作り方を教わりたいって言ってたわよね?」
「そうです。だから無理言ってついてきたんですから」
「なら、まずどこまで理解しているか聞きましょうか。魔法科学デバイスは〝マギア・コード〟という特殊なプログラミング言語で作られるけれど、ある程度書けるのかしら?」
「勉強してみます」
「なら、魔力はどれくらいあるの?」
「守原さんやライナちゃんほどじゃないけど、あるにはあります」
「電子工作はできる?」
「やってみればできると思います」
なんだか、懐かしい会話だった。ライデンも元は魔法科学デバイスの開発者、守原とは月とスッポン並みに差があるものの、それでも確かにライデンは魔法科学に携わってきた。
「……、」
まだクビになってから1ヶ月しか経過していないが、懐かしい感情が湧いてくる。苦しかったことも、わずかな楽しみも、全部良い思い出に昇華できた気がしないでもない。
「どうしたの? ライナちゃん。苦笑いして」
「あ、いや。父も母も魔法科学に携わっていたので、それを少し思い出しまして」
理亜が尋ねてくる。「そういえばさ、なんでライナちゃんは守原さんといっしょに暮らしてるの?」
ライデンは即答した。「色々事情があるんだよ。理亜にご両親がいないように」
「ふーん」
「聞いておいてその反応かよ……」苦い笑いを見せる。
「このご時世、家庭環境が複雑じゃないヒトのほうが珍しいしね~。嫌な時代だよ、はっきり言って」
そんな会話を交わし、ライデンたちは守原の家へたどり着く。
またもや守原の指紋と顔認証で鍵を開け、広々とした部屋へと入っていく。
「お邪魔します~」
理亜はそう言い、靴を脱ぐ。
「すっげー! 金持ちの家じゃないですか! 守原さん!!」
理亜は興奮気味にドアの直ぐ側にあるリビングへと入る。3人で座ってもスペースが余る大きなソファー。大型テレビが設置されていて、キッチンにワインセラーもある。地面は大理石でできていて、まさしく金持ちの家である。
「少し落ち着かないけれど、ライナちゃんと暮らすならこれくらいの家で良いと思ったのよ」
「前の家、四畳半でしたからね」
「寝て起きるだけの空間に、大金を払える気にはなれなかったのよ」
守原はやはり合理主義的だ。確かに仕事人間の彼女にとって、寝て起きて酒を飲めてタバコも吸える場所であれば、正直どこだって良かったのだろう。
「さて、私はタバコ吸ってくるわ。あぁ。あと、ご飯食べなきゃだから、デリバルで注文しておいて良いわよ」
ライデンと理亜は、ありがとうございます、と言って守原のスマホを受け取る。
「なに頼む?」
「なんでも良いよ」
「なんでも良い、が一番困るんだよ……。そうだな、ファストフードで良い?」
「こんな大豪邸なのに?」
「庶民舌なのは、私も美夢さんも変わらないよ。ムック・バーガー頼もう」
そんなわけで、ライナは適当に〝ムック・バーガー〟を頼んでしまうのだった。




