E3 吸い殻&酒瓶だらけの部屋の主は美人OL
という疑念が生じたものの、口に出すことはかなわない。というか、大人の姿でも口出しできないだろう。
そんなことより、次の返事を考える必要がある。常識的に考えれば、この姿とはいえヒトに飯を作ってもらうほど落ちぶれてはいないため、やんわりと断るのが一番だ。
しかし、この女性はなにかと仕事ができそうだ。もしかしたら、この姿を解除できる方法を知っているかもしれないし、なにかしらの情報を握っている可能性も否めない。ある意味、この姿だからこそ堂々と動けるという側面がある。彼女のパソコンを勝手に弄くっても、いたずらでした、で済ませられるからだ。
であれば、わずかな突破口に懸けても良いだろう。
「はい……お腹すきました。良かったら、ごちそうしてください」
……ひょっとして、子役の道を進んだほうが良かったか? というくらい、抑揚の効いたセリフがどんどん出てくる。ともかく、その女のヒトは納得したようで、手を上から差し出してきた。
「行きましょう。それにしても、お兄さんもひどいわね。こんな可愛い妹さんがいるのに、放ったらかしにするなんて……」
なぜか、品定めされるような気分に襲われた。なぜかは分からないが、身体を舐め回されているような、そういう感覚を身体の芯から感じてしまった。
されど、さすがに気の所為だろう。仮にこのヒトがロリータ・コンプレックスだったとして、どのみちライデンに失うものはないのだから。
「お邪魔します……!?」
なんだ、この部屋は。中年独身男性の部屋か? タバコの吸い殻が灰皿を埋め尽くしていて、酒の瓶がそこらに転がっている。しかも度数がきつめの酒だ。タバコは吸わないので詳しくないものの、多分タールとやらはかなり高い。
というわけで、悪臭に包まれた部屋に自分で言ったことだからと入り、ライデンは裸足のまま汚いフローリングを踏む。足が一瞬で真っ黒になりそうだ。
「そういえば、お名前は?」
「鈴木ライナです」即座に偽名を作る。
「ライナちゃん、汚い部屋だけど許してね」
(汚いなんて騒ぎじゃないけどな……。でも、ベッドまわりだけはきれいだ。この上で生活しているのか)
「どうしたの? タバコの匂いとか苦手?」
「うぅ、はい……」
好きなヤツなんて、ひとつまみもいないだろうに。
しかしライデンの言葉を聞いた瞬間、彼女はタバコの吸い殻を〝収納魔法〟だかなにかで別次元に送ってしまった。一瞬だけブラックホールみたいな現象が見えたので、おそらく収納したのだろう。同時に〝消臭魔法〟でも使って、部屋の悪臭を消し去った。
(やっぱり、優秀な魔術師なのは間違いないな)
「すごい!! お姉さんって、すごい魔法使いなんですね!!」
「そうよ、自分で言うのもなんだけど」褒められて鼻を高くしたのか、彼女は饒舌になり始めた。「そういえば、私の名前を教えていなかったわね。私は守原美夢。君でも聞いたことがあるかもだけど、あの〝ウィザードリー〟の社員なのよ。世界第1位の魔法科学企業ね。で、バストが──」
「ウィザードリー……聞いたことがありますよ! 学校のみんなも憧れるくらいの大企業です!」
(なんでこの女、バストサイズを小学生に言おうとしたんだ? やはりロリコンか?)
守原がロリコンなのは要審議だが、分かったことがひとつある。この女、やはり切れ者だ。ウィザードリーといえば、守原が言ったように世界第1位の魔法科学企業。ライデンの属していた会社など、足元にも及ばない。先ほどの術式も合わせて、守原美夢が相当な実力者であることは嫌というほど分かった。
(まぁ、魔力で秀でているヤツは性癖がおかしいとかなんとか、聞いたことあるしな)