E29 魔法科学の世界
理亜が愚痴をこぼす。「なんで、悪者退治して始末書書かなきゃならないのさ……」
ライデンは理亜の背中を押した。「世の中理不尽なものだよ。それに、桑田を逃がしたのは事実だしね」
時刻は夕方の6時を回っていた。そろそろ子どもは帰る時間だ。ライデンは、救援に来た上で待っていてくれていた守原の元へ向かおうと、ただ広い蒼月学園の中を歩いていく。
「というか、ピースキーパーの基本給ってどれくらいなの?」
「13万円くらい」
「少ないな。身体張っているのに」
「やばめの魔術犯罪者を捕まえられれば、結構なインセンティブが入ってくるからね。それに、寮にいれば無料のご飯が出る。光熱費もタダだし、〝児童労働〟は基本的に課税されないから、丸々13万円入ってくるんだよ。そう思えば、意外と生活できそうでしょ?」
「なるほど。贅沢したければ、やっぱり魔術犯罪者を捕まえることってわけだ」
「そうだね。まぁ、お金がたくさん入ってきても、僕は投資信託一択だけど」
「しっかりしているなぁ……」
そんな会話を交わした頃、ライデンと理亜は守原の自動車の近くへたどり着く。
「外車のセダン? 守原さんって金持ちなの?」
「うん。つい最近まで魔法科学デバイス開発者だった」
「え、マジ!?」
理亜は驚きの混じった声を張り上げた。
ライデンは首を傾げる。「そんな驚くこと?」
「だって僕、将来の夢はデバイス開発だよ!? ねぇねぇ! どの会社に勤めてたの?」
「ウィザードリー。日本有数の魔法科学会社だね」
「ヤッバッ!! ねぇ、デバイス開発の基礎だけでも教わりに行って良いかな?」
「聞いてみる。すぐそこでタバコ吸っているみたいだし」
どうせ、駐車場の喫煙所にいるはずだ。ライデンは、スピーカーモードにした理亜のスマホで彼女を呼び出す。
守原は煙を吐き出していた。『誰?』
「ライナです。理亜が魔法科学デバイスに興味あるみたいなので、美夢さんの家へ連れて行って良いですか?」
『良いわよ~。教えられることは教えてあげる』
「ありがとうございます」
『気にせずに~。ピースメーカーって案外暇なのよね。だから、暇潰しに個人でデバイス作ってるくらいなのよ』
「美夢さんって、仕事しているときはすごいお方ですね」
『自覚くらいしてるわよ。私から仕事を取ったら、酒カスのヤニカスしか残らないもの』
「そうですか。じゃ、喫煙所の近くで待っていますね」
『分かったわ~』
この姿で喫煙所は入れないので、ライデンと理亜はそこの近くで彼女が出てくるのを待つ。
「ウィザードリーって、セキュリティがしっかりしてるね。関連学校の蒼月は、僕でもハッキングで情報割り出せるのに」
「そりゃあ、日本有数の大企業だぞ。一朝一夕で子どもにデータを割り出されたら、面目丸つぶれでしょ」
「それもそうか。いやー、守原さんってどれくらい優秀な方なんだろ」
「プロジェクトリーダーとは聞いた」
「楽しみだなぁ」
思わず顔がほころぶ理亜を見て、子ども嫌いなライデンも少し笑みを浮かべそうになった。
「おまたせ~。さて、行きましょうか。ライナちゃんと理亜……くん? ちゃん?」
「どっちでも良いですよ。このご時世、性別なんてナンセンスだと思いません?」
「なら、理亜くんって呼ぶわね。後ろの席に乗って」
「はい~」
お値段にして1000万円はくだらない高級外車のセダンの後部座席に乗り、シートベルトをつけた。
「さっき久々に運転したけど、3回くらい事故りそうになったわ。でもそうなると思って、専用のデバイスを制作したのよ」
守原は昔のカセットテープほどのデバイスを取り出し、プレイヤーに入れて耳元へ当てて音を流した。
ライデンが尋ねる。「これ、なんですか?」
「運転がうまくなるデバイスよ。カセットテープ風で作ってみたわ。プレイヤーもね」
ピロピロ、と8ビット風の音が流れ、守原はハンドルを握った。




