E22 中身未だ男である
ライデンも、元は男性だったから〝一目惚れ〟が分からなくもない。男性という生き物は、しばしば一目見ただけで女性に惚れてしまうこともある。
それに、今のライデンは美少女だ。ぱっちりした目と褐色肌、小さな顔に通った鼻筋。正直、同い年くらい(に見える)ライデンに惚れるのも、無理はない。
だが、ライデンはあくまでも男だ。身体が女子になろうとも、中身は未だ男である。
となれば、
「ごめん。友だちでもない相手に好きって言われても、正直困る」
そう返事するしかない。まぁ、友だちだったところで断っていただろうが。
「そう。残念だね」
理亜はあっさりした態度で答えた。当たって砕けろ、の精神で告白してきたのかもしれない。
そして、理亜は続ける。
「でも、必ずライナちゃんを振り向かせて見せるよ。今はダメでも、心変わりすることがあるかもしれないしね」
諦めるつもりはないらしい。ライデンはその理亜の真面目な表情を見て、笑って良いのか訝った表情になれば良いか迷う。
とはいえ、顔は正直だ。ライデンの顔は引きつっていた。
「なんで顔が引きつるのさ。そんなに僕のこと嫌い?」
「嫌いというかなんというか……、まだ出会って1時間も経っていない人間を評価できないよ」
「それもそうだね。んじゃ、さっきの告白は聞かなかったことにして。これからいっしょに仕事するんだからね~」
「あぁ、そう……」
なんとなく振り回されている気がするものの、まぁこれも子どもらしい考え方か、とライデンは無理やり納得したのだった。
「んでね、もうひとつ本題があるんだけど」
「なにさ」
「僕らがこれから挑む組織について、だよ」
「そんなことまで知っているの?」
「うん。ネットワークを探ってたら出てきた」理亜はスマホを見せてくる。「ライナちゃんとピースメーカーの守原さんは〝大魔術師〟だから、それなりの犯罪組織に挑まざるを得ない。僕は普通の魔術師止まりだけど、ハッキングの腕があるからね」
理亜が見せてきた画面には、〝イリヤ・ファミリー〟という半グレ? の郎党が掲載されていた。
「イリヤって誰?」
「知らないの? イリヤっていう国籍不明の外人が立ち上げた、ギャング組織だよ」
「ギャング」
「そう。詐欺や薬物売買で大儲けしてる、表向きは実業家になってるヒト。ま、半グレと変わりないかもねぇ」
「そういうのって、警察が対処するんじゃないの?」
「いや、アイツらは複数人の魔法使いを幹部に迎え入れてるし、ボスのイリヤも噂によれば〝超魔術師〟なんだって」
「だから警察じゃ対処できないわけだ」
「そういうこと。ピースメーカーやピースキーパーがあるのは、こういう普遍的な犯罪を行いながら魔法という〝武力〟を持つ連中を退治するためだもん。それに、〝超魔術師〟といったら自衛隊とも単独でやり合えるって言われてる。でも、仮にも国を守るヒトたちが普通の犯罪者相手に出張ることもないでしょ?」
「私たちは捨て駒ってこと?」
「大丈夫。最悪の場合、僕らだけでなく他のヒトも出張るからさ」
「そりゃあ、そうだろうね」
超魔術師。それは、軍事大国と呼ばれる国の軍隊と理論上対等にやり合える怪物たち。されど、ピースメーカーやピースキーパーに超魔術師がいなかったとしても、大魔術師ならそれなりにいるはず。なら、数の暴力で踏み潰すまで、という話だろう。
「でも、直接的に対峙するのは僕ら。僕とライナちゃんと、まだ会ってないけど守原さん。像にアリさんが挑むような愚行かもね」
口振りの割には、理亜は随分明るかった。なにか裏仕掛けでもあるのか。
いや、良く考えてみると……。
「だけど、イリヤ・ファミリーの連中には賞金がかかってる。それも、かなりね。仮にイリヤを僕らだけで倒せたら、当分遊んで暮らせるカネが入ってくるよ」
現金な話だが、カネがなければなにもできないので、たとえ子どもであろうとも、それはある意味やりがいにつながるのかもしれない。




