E1 社畜時代の終わり
20**年、魔法と科学が融和した高度な文明の中で、足掻き藻掻くサラリーマンがいた。名を鈴木雷電という。
彼は魔法科学の道に憧れ、その道の会社へ入社。それから6年の月日が流れたものの、自身の魔法適性のなさが災いし、その席は窓際まで追いやられ、ついにきょう課長室へ呼ばれていた。
「あぁ、鈴木くん。ここに呼ばれた理由、分かっているよね?」
中年の上司は、ライデンの目をじっくり見据え、やがて一枚の紙切れを差し出してきた。
「簡潔に言おう。君は、クビだ」
……目の前が真っ暗闇に襲われ、めまいが止まらない。くるくると回る世界の中で、ライデンはなんとか足を踏み留め、紙切れを手にする。
「結論から話したが、一応理由も伝えておこうか。君はあまりにも魔法適性がなさすぎる。エンジニアとしての腕前は悪くないが、魔術理論を理解できないのなら、正直宝の持ち腐れだ。魔力の少なさ故、仕方ないところではあるし、君のような若手を切り捨てるのは悲しいが、まぁ上とAIがそう判断しているのでね。とはいえ、多少の退職金は──」
そこからの話は、正直覚えていない。いつかクビになる、と思っていても、いざ宣告されると心臓がガタガタ傷んで、動悸が止まらなくなる。次の職場も決まっていないのに、ライデンはこの冷徹で無慈悲な社会に投げ出されてしまった。
失意に追われ、ライデンは荷物を黙ってまとめて会社から出ていった。カバンに少ない所持品をまとめ、ライデンはなにも言わず去っていくのだった。
*
「……、」
ライデンは、ひとまずアパートに戻ってきた。なにを口に出しても愚痴にしかならないから、ライデンはなにも言わず、スマホを眺めていた。
そんな中、
いつだか頼んだような、頼んでいないような荷物が届いた。スマホがそれを知らせてくる。ライデンは4畳半の部屋から立ち上がり、宅配ボックスへと向かう。
「なんだ、これ」
魔法デバイスのようだ。スマホ程度の薄さとサイズのもので、魔力を込めることによって発動する人類の新たな発明品。しかし、ライデンにたいした魔力があるとは言えないので、なぜ買ったか思い出せない。
「効果も書いていないし、贋作か?」
まぁ良いや、と呟き、ライデンは自宅の中へ戻っていく。
外から、小学生の声が聞こえる。もう15時半くらいだ。小学生のときは良かった。魔力なんてなくたって、それなりに楽しく生きていけたのだから。それが今となれば、ただマジック・ポイントがないという理由だけでクビになる始末。世の中は辛辣だ。薄情で、吐き気がする。
「クソッ……。ネガティブな感情で、なにかが生まれることはないんだけどな」
そう口にしつつも、考えることは暗いものばかり。荒縄や電車が脳裏に浮かぶ頃、ライデンはいつ注文したかも分からない魔法デバイスを見つめていた。
「なんだかなぁ。おれ、これを作ろうと思って、あの会社に入ったんだよな」
このデバイスを作るのには、プログラミングの腕前も必須だが、なにより高度な魔術理論を知る必要がある。それを知るには、魔導書を読み進めなければならない。だが、魔力のない者は魔導書を読んでいるうちに、拒絶反応を起こし、激しい頭痛等に襲われる。そのため、読み進めることができない。
「……これからどうしようか」
デバイスを机に置き、ライデンはベッドに寝転がった状態から起き上がり、転職先でも探そうとパソコンを叩き始めたとき、
『エラー、エラー、エラー』
デバイスが唸り声を上げ始めた。エラー? 魔術を発現させる道具がエラーを起こしたら、とんでもない賠償金問題になる。本来発現するはずだった魔術と違う、となれば、購入者が怒り狂うのも当然だからだ。
なので、細心の注意を払い、デバイスというものは開発されるわけだが、一体なにが?
*
ライデンは気絶していたらしく、ひとまずスマホを見る。
反射された画面には、10歳程度の金髪褐色の少女が映っていた──。