【番外編】あれはミラーボールじゃなくて、サンキャッチャー!
ΩRMの事務所の天井に、銀色の球体がぶら下がっていた。
どう見ても、ミラーボールだった。
「……おい、なんだあれ」
朝の出勤。ヴィンセントが立ち止まり、天井を見上げて呻いた。
天井は高い。元倉庫の天井そのまま。脚立じゃ届かない。
照明設備を取り替えるにも業者を呼ぶような高さだ。
「昨日までは……なかったよな?」
「なかった」
背後で答えたのは、コーヒー片手のジョージ。
無表情のまま、首だけで天井を見上げている。
と、そのとき、奥のソファに座っていたチャールズ・フィンリーが陽気に手を挙げた。
「Yo! ヴィンちゃん、ジョージ。目覚めの光、どうよ? いい反射してんだろ?」
「お前……あれ、なんだ」
「何って、サンキャッチャーだよ」
ヴィンセントは、チャット、ミラーボール、再びチャットの順に視線を動かした。
「クラブ仕様のミラーボールにしか見えねぇが」
「失礼な。あれは風水的に最高の位置に設置してある、
“開運・集中力UPタイプのスピリチュアル・サンキャッチャー”だ」
「……で、これ、いつ使うんだ」
「使うとかじゃないの。在ることに意味があるの。禅と一緒」
ジョージはチャットを見た。
「……禅というものは、そういうことじゃない」
「え、そうなの?」
「そうだ」
「禅って何するやつだっけ?」
ヴィンセントがこめかみを押さえた。
「……お前に説明しても三歩で忘れるだろ」
「誰が取り付けた」
「……まぁ昨晩業者をちょっと呼んで。
高所作業で特殊アンカーだから時間かかってさ。予算? 自腹だよ、もちろん」
ジョージはチャットを見た。
「……自腹?」
「そう。投資ってやつよ。空間に対するな」
ヴィンセントは目を閉じて鼻を鳴らした。
ジョージは天井とチャットを交互に見て、一言だけ。
「……プロの犯行だな」
「ああ。しかも犯行動機が意味不明だ」
「意味はあるって! ほら、朝日が当たると、床に虹ができるんだぜ?」
「で、その虹を踏んづけたらどうなるんだ」
ジョージが淡々と聞く。
「踏んだら……運気が上がる」
「根拠は?」
「俺の直感」
ヴィンセントは深くため息をつき、チャットをにらむ。
「お前、まさかΩRMをクラブにする気じゃねぇだろうな?」
「おっと、バレた? 金曜の夜は“プロテクション・ナイト”開催予定なんだが」
「ふざけんな」
「冗談だって……半分は」
ジョージはカップを置き、ミラーボールとチャットを交互に見た。
「……もういい。落ちてきたら、そんとき撤去しよう」
「ああ。二度と届かない高さだしな……あのバカ」




