028:DMが動いた:元ボディーガードとの駆け引き
クラブの内部構造を割るには、まず中の人間に触れる必要がある。
とくに、警備サイド。
──キングスリーの行動パターンも、警備の交代サイクルも、奴らなら知ってる。
今朝、DMを送った3人。
誰か1人でも応じれば、口火は切れる。
スマホに通知。
ジョージはコーヒーをすすりながら、親指で画面を払った。
@IronSentinel87
[調査? 何のつもりだ?]
クラブ・ドミニオンの元ボディーガードからだった。
反応は警戒気味。だが、無視しなかった。それが全てだ。
ジョージは即座に打ち込む。
ΩRMが用意した、潜入用アカウントから。
@SecurityWatch99
[簡単な話だ。
俺はナイトクラブの警備体制を調査している。
ドミニオンの実情を知りたい。君の視点で、何が見えていたかを]
送信。
あとは待つ。
数秒で既読がついた。が、沈黙。
スマホの裏で指が止まる。
──引くか、踏み込むか。
相手が選ぶ時間を与える。
数分後、通知音。
ディスプレイにメッセージが浮かぶ。
@IronSentinel87
[俺はもう関係ない。現役のやつに聞け]
逃げ腰。それでも完全にシャットアウトはしていない。
ジョージは一拍置いて、次の一手。
[現役には聞けないことがある。
君はもう組織の外にいる。
話すのは少しだけでいい。
……報酬は出す]
打ち終えて、スマホをダッシュボードに置いた。
陽射しが反射して眩しい。
車内に静けさが戻る。
プロテインバーの残りを口に運び、
冷めかけたブラックを飲み干す。
──5分。10分。
ようやく音が鳴った。
@IronSentinel87
[……どこまで知ってる?]
食いついた。
ジョージは即座に指を動かす。
[キングスリーがオーナーで、
クラブが“娯楽施設”じゃないってこと]
数秒。返事が返る。
@IronSentinel87
[……なるほどな。
少しなら話してやる。だが、ここじゃダメだ。対面だ]
ジョージの目が細くなる。
相手は慎重だ。だが、話す気はある。
[わかった。場所は?]
即答。
@IronSentinel87
[カフェ・ソルスティス。今日の14時。1人で来い]
座標が定まった。
ジョージはスマホを閉じ、無言で息をつく。
──この元警備員が何を見て、何を知っているのか。
ひとつひとつ引き出す必要がある。
ジョージは最後に残ったコーヒーを飲み干し、
目を閉じた。
その背後、クラブの黒い輪郭が、静かに浮かび上がっていた。




